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ハイパーアジア
2003年12月掲載

アジア通信市場における外資の出資状況−インドネシア

 インドネシアでは、国営事業者により国内・国際通信サービスがほぼ独占的に提供されてきたが、新通信法の発効により相互に参入する体制が整った。2002年8月に国際通信事業者のPTインドサットが市内通信免許を取得、本格的な競争を前に、同社はシンガポール企業の出資を受けるなど、体制強化を進めている。

(1)新通信法の発効

 インドネシアは、これまで、国内通信、国際通信を、国営通信事業者であるPTテルコムとPTインドサットがそれぞれほぼ独占的*1に提供してきた。2000年9月に発効した新通信法(1999年第36号法)により、Organizing BodyあるいはOperating Agencyといわれていた国家の代理機関的な事業者であるPTテルコムとPTインドサットの特権的存在を否定し、基本的に免許料の支払いを免許制度のもとで通信が自由化される。

*1:国際通信はPTインドサットとPTサテリンドの2社が提供しているが、2001年の国際通信シェアはPTインドサットが89.7%、PTサテリンドが10.3%である。後述するが、2002年5月にPTサテリンドはPTインドサットの完全子会社になっている。

 ただし新通信法第8条に『この法律が発効した場合でも、1989年第3号法(旧法)に基づき政府によってOperating Agencyに一定期間与えられたある種の権利(=特定市場の独占権)は依然有効である。ただし期間については、政府とOperating Agencyとの合意により短縮され得る』という経過規定がある。これを受けた政令52号(2000年7月20日大統領令)により、PTテルコムによる市内電話市場の独占は2010年末から2002年8月に、国内長距離電話市場は2005年末から2003年8月に、PTインドサット、PTサテリンドによる国際電話市場の複占は2004年末を2003年8月に前倒しすることが決まった。

 2002年8月、PTインドサットに、国内通信事業免許*2が付与された。PTインドサットは、首都ジャカルタと第2の都市スラバヤで市内通信事業を始める。新規投資で独自の回線網を建設するため、投資額は約1,700億ルピア(約24億円)、回線数は両都市で約1万3千を開通予定である。

*2:詳細は「インドネシア、通信独占を解消」Hyper Asia(2002年9月)参照のこと。

 2000年5月には、PTインドサットは、ドイツ・テレコムが保有するPTサテリンドの株式25%を、全額買い取ることで合意している。金額は3億6,100万ユーロ(約419億円)。ドイツ・テレコムは東南アジアでの携帯通信事業の開拓に向けてサテリンドに出資していたが、欧州における第3世代携帯電話事業への過剰投資などにより債務が膨張していた。これによりPTサテリンドはPTインドサットの100%子会社となった。

 さらに、インドネシア政府は、2002年12月、PTインドサットの政府保有株式*3(発行済み株式の41.94%)を、シンガポールの通信会社に売却することで合意した。民営化により企業の競争力を高めるとともに、株式売却収入(総額6,200億ルピー=約790億円)を得る狙いもある。売却先は、シンガポール・テクノロジーズ傘下のシンガポール・テクノロジーズ・テレメディアで、入札でマレーシア企業に競り勝った。同社株の売却はIMFとの合意に基づいて進められている国営企業改革の最大の焦点となっていた。

*3:PTインドサットは1994年10月、PTテルコムは95年11月にIPO(第1次株式一般放出)を行っている。IPO当時の政府持株比率はPTインドサットが65%、PTテルコムが71%。

(2)KSO事業の行方

 KSO事業*4とは、1995年に始まったインドネシア版BOT(Build Operate and Transfer)事業であり、外資を含む民間企業の5つのコンソーシアムが固定電話網を拡充してきた。しかし、1997年〜98年のアジア通貨・経済危機の影響もあり、所期の成功を収めたとは言えず、人口100人当たりの固定電話の回線数で見た普及率は1995年の1.69%から2002年の3.65%(モBirth of Broadbandモ ITU,2003.9)へわずかに上昇したに過ぎない。

*4:全国を7地域に分割し、ジャカルタとスラバヤ以外の5地域の運営をBOT方式で外国通信事業者を含む民間コンソーシアムに委託するもの。KSO方式の場合、各コンソーシアムは、PTテルコムが保有している既存の回線および従業員も引継ぎ、増設電気通信網の設計、建設、運営など一連の業務を行うことになっている。

 KSOコンソーシアムにおいては、PTテルコム事業への再編入(売戻し)やPTインドサットとの合弁形成という動きが出ている。

 5つのコンソーシアムのうち、スマトラを担当するPT Ikat Nusantaraにはフランス・テレコムが35%、西部ジャワのPT AriaWest Internationalには当初USウェストが35%出資していたが、現在はAT&Tが引き継いでいる。中部ジャワを担当するPT Mitra Global Telekommunikasi Indonesia(MGTI)にはテルストラが20%、NTT Finance(U.K.)(NTT東日本の100%出資会社)が15%出資しており、スマトラを担当するカリマンタンを担当するPT Dayamitra Telekomunikasi にはC&W(シンガポール)が25%、東部諸島のPT Bukaka SingTel Internationalには、シンガポール・テレコムが40%出資して経営参加している。

 PT Bukaka SingTel Internationalは、契約内容に修正を加えて、KSO契約を続行することで合意しているが、PT Dayamitra TelekomunikasiとPT Ikat Nusantaraは、資産をPT Telekomに売り戻すことで合意している。PT AriaWest InternationalはPTテルコムへの資産売戻し路線で来ているが、価格に関する合意が成されず、PTテルコムが一方的にパートナシップを解消するに到っている。現在では、両者がジュネーブのInternational Chamber of Commerceに裁定を依頼している。

 一方、MGTIは、PTテルコムとPTインドサットが対等な競争関係に立つためのクロス・オーナーシップを排除(出資子会社・関連会社の重複排除)する一連の取引にあって、その資産や権利義務関係がPTテルコムからPTインドサットに移ることになっていた。PTインドサットとの合弁が成功すれば、MGTIはPTテルコムとの収入分配の枠組みからはずれることになるが、PTテルコムとPTインドサットとの資産移管交渉は2002年1月末に期限切れで不成立となった。その後、2002年9月、MGTIは全株式をインドネシアのPT Alberta Telecommunicationに譲渡することで合意している。

【お詫びと訂正】

2003年12月入稿時に原稿に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

(2)KSO事業の行方 
〔第3段落〕
(誤)NTTコミュニケーションズが15%出資しており、
(正)NTT Finance(U.K.)(NTT東日本の100%子会社)が15%出資しており、

〔第5段落〕
「MTGIは、PTテルコムとPTインドサットが対等な競争関係に立つためのクロス・オーナーシップを排除(出資子会社・関連会社の重複排除)する一連の取引にあって、その資産や権利義務関係がPTテルコムからPTインドサットに移る」ことになっていたが、2002年1月末にPTテルコムとPTインドサットの交渉が期限切れで不成立になっている。

(2004年1月訂正)

<寄稿> 武川 恵美
編集室宛 nl@icr.co.jp
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