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情報通信の新潮流
2002年9月掲載

第3回

米国のIT戦略(上)
〜広帯域価格競争で日本の後塵拝す〜


政策研究グループ
リサーチャー
清水憲人 shimizu@icr.co.jp

■競争原理なきADSL市場

 『特別価格! 伝送速度最大768kbpsの高速インターネット・サービス(ADSL)が月額6,0000円! 今すぐ申込めば最初の3ヶ月間はたったの3,600円!!』という広告を見て、「急いで申し込まなきゃ」と思う人はあまりいないだろう。日本のADSLサービスは、当初は1.5Mbpsが主流であったが、最近では8Mbps/10Mbps/12Mbpsなどの高速サービスを売り物にしているものが多い。それでいて料金も月額で4,000円程度(ISP料金を含む場合)に抑えられている。

 冒頭にご紹介したのは日本の話ではなく、米国最大手の電話会社、ベライゾン社のホームページ上の宣伝文句である(料金は「1ドル=120円」で円換算したもの)。この程度のスペックでもそれなりに新規申込みがある、といえば米国のブロードバンドの状況が想像できるのではないだろうか?

 数年前までは、「米国のようにインターネットを普及させるために日本でも通信料金の値下げが必要である」という議論がしばしば紙面を賑わせていた。もちろん広告の伝送速度は「最大」なので、実質的な速度にはそれほどの違いはないとの指摘もあろう。また料金の国際比較はなかなか難しく為替レートで単純に比較できないことも事実である。しかしブロードバンド・サービスに限定すれば、もはや日米の通信料金格差は逆転したと言って差し支えないだろう。

■世紀末に破れた“夢”

 なぜこのような状況になったのだろうか?
日本で料金競争に火を付けたヤフーBBのような会社は米国にはなかったのだろうか?

 その答えは「あったが破綻してしまった」である。米国ではノースポイント、リズムスネット、コバッドの3社が、電話会社に対抗してADSLサービスを提供する事業者の大手として注目を集めていた。しかし、2000年初頭にドットコム・バブルが弾けた後、2001年にいずれも会社更生法申請に追い込まれてしまった(コバッドはその後の再建プランが成功していると伝えられている)。

 その結果、ADSL市場における地域電話会社以外のシェアは2001年末時点で2.7%となり、ほぼ独占状態になってしまっている。そのため、日本のような料金競争は起こらず、月額50ドルや60ドルという料金設定が標準的となっている。

 このように、ADSL市場における競争促進に失敗した米国は、どのようなIT戦略/ブロードバンド戦略を展開しようとしているのであろうか?
この点については第4回(米国のIT戦略(下)〜広帯域普及へ政策要求の声強まる〜)で紹介をしよう。

日本工業新聞「e-Japan戦略 IT立国への取組みと課題」2002年9月19日掲載

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