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情報通信の新潮流
2002年9月掲載

第5回

欧州のIT戦略(上)
〜安全な情報インフラが不可欠〜


政策研究グループ
シニアリサーチャー
神野 新 kamino@icr.co.jp

■欧州委員会が理念を設定

 汎欧州レベルのIT戦略としては、欧州委員会(EC)が2002年5月に発表した「eヨーロッパ2005」計画が存在する。この計画では、欧州は2005年までに、(1)先端的なオンライン公衆サービス(e政府、eラーニング、eヘルス)、(2)ダイナミックなeビジネス環境、の2大目標を実現すべきであり、そのためには、「競争的な料金による広範なブロードバンド・アクセスの利用可能性」及び「安全確実な情報インフラストラクチャー」が不可欠であるとしている。eヨーロッパ 2005は行動計画も提示しているが、それらは理念的なものが多く、具体的な数値目標はほとんど示されていない。その大きな理由は、数値目標は加盟各国が独自に定めるべきものであるという考えに基づいている。

 しかし、ECもIT戦略の基本となるブロードバンド・アクセス・サービスの普及促進に関しては、EUレベルで明確な方針を示すことが必要であると考えており、2000年から今年にかけて採択された新たな指令、規則類において、具体的な政策、規制が書き込まれている。
ECは、2000年12月に発効した「ローカル・ループへのアンバンドル・アクセスに関するEC規則」において、加盟国が2000年12月31日より、ローカル・ループ・アンバンドリング(LLU)の提供を、主要な電気通信事業者に義務付けるように命令した。ここで、LLUは「フル・アンバンドリング」と「共用アクセス(回線共用)」の両者を含んでいるが、「ループとは銅線ペアである」として、光ファイバーのアンバンドリングを義務付けていないのが特徴である。加盟国は概ねこの規則の定めた期限を遵守したものの、実際には、EU主要国におけるブロードバンド競争は遅々として進んでいない。

 今日、事業者が競争的ブロードバンド・アクセス・サービスを提供する主な手段としては、(1)LLUを利用したDSLサービス、(2)ケーブルモデム・サービス(ケーブル・インターネット)、?衛星や無線LANアクセスなどのワイヤレス・サービスの3種類がある。

■既存電話会社がDSLのシェア圧倒

 まず、DSLについて見ると、ECはLLU規則を契機とした競争的DSL事業者の台頭を目指していたが、英独仏の主要3カ国の2002年6月末現在のDSL加入数の総数と競争事業者の加入数は下記の通りであり、既存の電話会社であるBT、ドイツ・テレコム、フランス・テレコムのシェアが圧倒的に高くなっている。

加盟国 DSL加入数の総数(カッコ内は競争事業者の加入数)
英 国 29万加入(ごく少数)
ドイツ 265万加入(15万加入)
フランス 70万加入(数万加入)

日本工業新聞「e-Japan戦略 IT立国への取組みと課題」2002年9月24日掲載

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