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情報通信の新潮流
2003年2月掲載

情報通信の新潮流(第3回)

1996年電気通信法成立から7年間の米国のテレコム業界を検証する(3)

長期的に維持可能な競争への転換

神野(写真)
政策研究グループ
シニアリサーチャー
神野 新 kamino@icr.co.jp

 無限の市場拡大幻想がもたらしたのは、膨大な過剰設備、無駄に投資された巨額の資金、大量の失業者であった。FCCのパウエル委員長はテレコム不況の反省に立って、「長期的に維持可能な競争(sustainable competition)」の確立を信念として表明している。以下、テレコム分野の3セグメント(市内通信、長距離通信、ブロードバンド)について、米国の競争状況の分析を行ってみたい。(注:ブロードバンド競争は紙面の関係で次回に論じる)

(1)市内通信市場
 FCCの最新統計によれば、競争事業者が獲得した市場シェアは11.4%(2002年6月末)である。大規模ビジネス市場では競争事業者が大きなシェアを獲得しているのに対して、住宅市場(特に過疎地)では相対的に競争が進んでいない。理由の1つは、米国の住宅向けの市内通信サービスでは定額制(かけ放題)が一般的であり、過疎地を中心に多くの場合はコスト以下の政策的な料金設定となっていることである。FCCは市内競争を進展させようとして、既存の地域電話会社に対して、非常に低廉な料金で市内網を競争相手に提供することを「全米一律」に義務づけているが、それ以前に、住宅向け市内サービスにおける提供コストとエンドユーザー料金の歪み(逆転)を是正しなければ、市内競争もゆがんだ形で展開する懸念がある。

(2)長距離通信市場
 1998年頃からウィリアムズ、クエストなどの新興長距離通信事業者が、各社1-2万マイルの光ファイバーを競って構築した。加えて、地域ベル電話会社が次々と長距離サービスの提供を認可され始めたため(現在は35州で認可済)、事業者の淘汰が生じるのは必然であった。新興事業者の大半は破綻に追い込まれ、ビッグ3も従来から地域電話・携帯電話部門を持っていたスプリント以外の2社は大規模な企業再編成に追い込まれた挙句、ワールドコムは自壊した。AT&Tも携帯電話、ブロードバンド部門を売却せざるを得ない状況になり、現在は基本的には固定長距離通信事業者に逆戻りをしている。市内通信と比べた長距離通信の激烈な競争を見るに付け、施設設置ベースの競争参入の容易性に違いがあることは事実としても、「より安価なサービスへの顧客ニーズ」、「参入による得られる事業者の利潤の期待度」が長距離通信の世界で相対的に大きかったことが分かる。

表:米国の市内つ新競争の状況−回線数ベースのシェア

日本工業新聞「e-Japan戦略 IT立国への取組みと課題」2003年2月20日掲載

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