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情報通信の新潮流
2003年3月掲載

情報通信の新潮流(第10回)

日本のIP電話の動向(2)

世界に先駆けて
 日本独自の発展をみせるIP電話

杉本(写真)
政策研究グループ
リサーチャー
杉本幸太郎 sugimoto@icr.co.jp

 実は、消費者市場においてIP電話を成功要因としたブロードバンド(BB)回線の競争は海外に例がなく、日本独自の競争状況は諸外国の注目するところとなっている。

 BB回線の普及数だけで見れば、韓国や米国は日本よりも早い成長を遂げている。しかし、韓国では大手電話会社が一般通話に定額料金制を導入するなどのIP電話普及を阻止する施策を展開し、BBフォンのようなタイプのIP電話サービスは目立たない。また、米国でも、企業向けにDSL回線でIP電話を提供する試みは一部で見られるが、一般消費者を対象としたこのようなサービスはほとんど見られない。最近、新興ベンチャー企業によるIP電話サービスが注目され始めたが、まだまだ利用者数は数千件にとどまっている模様である。

 日本では、IP電話とBB回線サービスに加えて、「無線LAN技術」という事業領域との融合でも世界に先駆けたものとなりそうな兆しもある。NTT東西のMフレッツやYahoo!BBが無線LANカードとセットになったADSLモデムを提供しているのもその一例だが、モバイル大国である日本独自の発展形として期待されるのは、いわゆる「ホットスポット」、公衆無線LANでのIP電話サービスの提供である。諸外国でも喫茶店や空港、駅等での公衆無線LANサービスが提供され始めているが、まだその収益モデルは確立されていない。しかも、これらのサービス利用者として想定されているのは、ノートパソコン等を持ち歩くビジネスパーソンなどが主となっている。ここにIP電話というアプリケーションがセットになることで、対象ユーザ層が一気に広がることが期待されるのである。携帯電話の通話料はまだまだ高いと感じている利用者が多い。そうした利用者が無線LAN対応の携帯電話を活用するようになれば、ホットスポットからは割安なIP電話通話ができるようになる。実際、2002年の末頃から、NTT−MEやNTTコミュニケーションズ、モバイルトーク社などが試験サービスを提供している。

●光IP電話の登場●
 2003年に入ってから、さらに大きな進展が見られた。BB接続型のIP電話サービスでも、電話回線と重畳して利用するADSLサービスではなく、FTTHを活用した光IP電話の提供計画を、自社で光ファイバ回線を所有する電力系通信会社(TTNetおよびケイ・オプティコム)が発表したのである。これは、電話業界、インターネット業界に大きなインパクトを与える動きとして業界関係者に衝撃を与えた。両社は「050」番号も取得しており、今後着信も可能になれば、電話回線の完全バイパスも可能となるため、電話会社のIP化へのトランスフォーメーションはさらに前倒しを迫られる可能性もある。
 いずれにしても日本では「IP電話」「BBアクセス」「無線LAN」という三つの技術が融合する形での新しい展開が進行している点がユニークだ。

日本工業新聞「e-Japan戦略 IT立国への取組みと課題」2003年3月5日掲載

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