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情報通信の新潮流
2003年3月掲載

情報通信の新潮流(第11回)

日本のIP電話の動向(3)

企業もIP電話の導入を検討開始へ

杉本(写真)
政策研究グループ
リサーチャー
杉本幸太郎 sugimoto@icr.co.jp

 消費者向けに各種のIP電話サービスが次々と打ち出される中で、ネットワーク・インテグレーター(NIer)や通信事業者は、企業を対象としたIP電話システムの提供にも積極姿勢を打ち出してきた。現在、企業顧客をめぐる通信事業者の主戦場は、「光直収」(アクセス)、「IP−VPN」(WAN基幹網)、「IP電話」の三つ。これらは相互に連関する形で競争の前哨戦が始まっている。

 企業が既存の構内交換機(PBX)のリプレース(更改)を検討し始めるとき、NIerや通信事業者の提案合戦が始まる。企業ユーザは提案書にIP電話を盛り込むことを要請することが多いからだ。PBXの老朽化が進んでいる企業が多いこと、PBXとIP−PBXの価格差がなくなってきたことなどから、通信機器ベンダーと提携したNIerはまずは「内線電話のIP化」を提案することが多い。現状においては、こうして検討する企業のうち実際に内線IP電話を導入する会社は数%に満たないといわれるが、NIerはIP電話そのものよりもむしろ、これを契機として企業がネットワーク全体の再構築を検討し始めるところに大きな商機を見ている。

 一方、WAN基幹網にIP−VPNや広域イーサネットを採用する企業が増えているが、通信事業者はこれにIP電話を付加することによって、三つの主戦場をまるごと抱え込もうと企図している。従来の電話回線による長距離音声サービスという市場は必然的に縮小することになるが、既にIP電話の普及が必然というシナリオが見えてきている以上、BBアクセス回線とWAN基幹網で自社サービスを採用してもらわなければ生き残りさえ難しくなるという判断である。顧客は通信事業者によるこのような「IPセントレックス」サービスを活用することにより、自社でPBXを所有・運用する必要がなくなり、広域内線通話・外線通話ともIP網を使って通信コスト削減を図ることができる。

 このような大規模なネットワークの再検討はまだまだ先のことになると見られていたが、2002年12月に東京ガスがIP電話サービスを全面導入すると発表し、一気に市場が動き出した。電話機が一万台を超える大企業が電話交換機を使用しない完全なIP電話ネットワークを採用するのは初めて。受注したのは、NTTデータとフュージョン・コミュニケーションズ。フュージョンはIP電話サービスのほかに「IPセントレックス」サービスも提供することになる。現在、NTT−MEやNTTコミュニケーションズが同様のサービスの提供を開始している。

図表:企業を対象としたIP電話の形態の分類

(注)NIer=ネットワーク・インテグレーター。SIer=システム・インテグレーター
IP化の対象領域 IP電話のタイプ システム/サービスの提供者 システム/サービスの特徴
内線IP電話 VoIP内線網
(PBXレス)
NIer/SIer 従来、各事業所に設置していたPBX等が不要になる。呼制御サーバーとIP電話機により、広域内線IP電話を実現。
IP−PBX NIer/SIer 既存PBXの更改に合わせてIP-PBXを導入。各事業所に設置していた呼制御装置を1拠点で集中管理できる。
外線IP電話 IP電話サービス 通信事業者 通信コスト削減のため、主に外線通話の「発信」にIP電話サービスを利用。
内線IP電話+
外線IP電話
IP−VPN付加サービス(IPセントレックス) 通信事業者 大企業を中心に導入が検討されているタイプのIP電話サービス。企業が自社運営していたPBX等が不要になる。「IPセントレックス」サービスとも呼ばれる。

日本工業新聞「e-Japan戦略 IT立国への取組みと課題」2003年3月6日掲載

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