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情報通信の新潮流
2003年3月掲載

情報通信の新潮流(第12回)

日本のIP電話の動向(4)

IP電話の課題と将来展望

杉本(写真)
政策研究グループ
リサーチャー
杉本幸太郎 sugimoto@icr.co.jp

 これまで見てきたように、各事業者のIP電話サービスは今年の3月から4月にかけて次々と商用サービスの本格展開に移行する。まさに「IP電話元年」の到来である。しかし、IP電話普及を阻害する要因も少なくない。

 現時点では、IP電話専用の「050」番号を使用しても発信のみで着信ができない。しかしこの問題は、NTT東西の電話交換機の設定変更が今年夏をめどに完了することに伴って解消される。また、携帯電話やPHS、緊急番号へ発信できないなどの問題も残っている。携帯電話への通話に関しては、IP電話事業者各社ともそれぞれ携帯各社との相互接続交渉に入っているほか、総務省が音頭をとってIP電話発・携帯電話着の料金設定方法を検討する研究会を設置しており今年半ばにも検討結果をまとめる方針とされる。一般加入電話から携帯電話への通話料よりも、IP電話から携帯電話への通話料が大幅に安く設定されれば、IP電話を利用したいというユーザのインセンティブはさらに高まることだろう。

 このような阻害要因の中でも特に大きな障壁となっているのは、IP電話網同士の相互接続スキームである。現状では、特定の事業者のIP電話を利用しているユーザは、一般加入電話や同じIP電話契約者とは通話ができても、他の事業者のIP電話利用者とは通話ができない。事業者のIP電話網同士が相互に接続されていないためである。加入電話網同士は相互接続スキームが制度的に定められているが、一般にインターネット網の相互接続は事業者間の相対契約に委ねられている。いわゆる、無償でトラヒック交換を行うピアリング接続や、小規模なネットワークが大手インターネット網に有償で接続してもらう形のトランジット接続などである。これらのスキームは、各事業者がどれだけのネットワーク規模を有するか、どれ位のユーザ数やコンテンツを有するか等によって交渉力が決まる市場メカニズムの世界である。IP電話の提供をめぐって、OCN陣営やメガコンソーシアムの構築などの合従連衡が繰り広げられているが、この背景にはどこのIPバックボーンを使うか、そして最終的には各陣営とも有利に相互接続交渉を進めたいという意図がある。相互接続した場合にも、通話ごとにどのように料金の精算をするかなどの問題もあり、決着を見るのは2003年の後半以降になるだろう。

 そして、相互接続スキームが決まれば、IP電話利用者にとっての便益は一気に高まる。無料通話区間や割安で通話ができる相手先の範囲が急拡大するからだ。通話と電子メールの統合など、IP電話ならではの新しいアプリケーションの登場なども期待される。現在の加入電話番号をそのままIP電話番号として使えるサービスの登場も、利用者の裾野を広げる意味では期待したい。いずれにしても、2003年を元年として始まるIP電話が真の飛躍を見せるのは、2004年以降になるものと予想される。

日本工業新聞「e-Japan戦略 IT立国への取組みと課題」2003年3月7日掲載

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