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マンスリーフォーカス
No.54 Jan. 2004

世界の通信企業の戦略提携図(2004年1月7日現在)

160. 世界情報社会サミットは対立を持越す(概要)

 ジュネーブで開催された国連の世界情報通信サミット(WSIS)は、グローバルな相互接続性の調和を示すよりも情報社会についての先進国・途上国の対立を顕にするもので、インターネットの普及とIT(情報技術)に関する難しい問題を先送りにした。今回を考え方調整の第1部に位置づけ、具体案を決めるのは第2部2年後のチュニジアサミットとしたのである。

 対立の第1点は「デジタル・デバイドへの対応で、アフリカ諸国が強く要求した先進国・IT企業による途上国インフラ整備特別基金の創設である。開放された市場にはプロバイダーが対応すると考える先進国は援助基金の創設には冷たく、固定電話・携帯電話・パソコン普及率などで示されるインフラ整備格差縮小よりも地域開発・リテラシー・衛生・医療などの格差縮小の方が大切との考え方や、学校・職場・インターネットカフェなどアクセスのコストも重要だとの主張もあった。三日目(2003.12.12)に承認された宣言第11原則「国際・地域協力」においてデジタル連帯をアクション・プランの課題として検討することで妥協した

 対立の第2点はインターネット管理主体のあり方で、インターネットのトップ・レベル・ドメイン名(TLD)の割当てを行う米国法人インターネットアドレス協会(ICANN) (1998年11月設立)について中国やキューバなど途上国が民間組織だが米国商務省から業務委託を受けているのは問題で政府間組織に移管すべきだと主張したが、米国は「インターネットは自由主義が原則で政府とは無関係」と主張して譲らず、宣言第6原則「環境整備」で国連事務総長にインターネットの管理政策を開発する作業グループの設置を依頼すると言う形で先送りになった。作業グループはTLDから迷惑メールやサイバーセキュリティ対策を検討することとなろう。

 対立の第3点として中国が宣言第9原則「メディア」で「報道の自由・情報の自由の原則並びにメディアの独立性・多元性・多様性の原則を公約することを再確認する」を明記する案に猛反対したが、WSIS事務局は粘り勝ちで通した。

161. 新しきを訪ね、古きを続ける(概要)

既存事業者の家庭用IP電話参入

 2003年12月に米国の大手既存情報通信プロバイダーやCATVオペレーターが家庭用IP電話サービスを開始した。

 タイムワーナー(2003.12.8発表)は長距離通信事業者スプリント並びにMCIと提携し、両社からIPネットワークとVoIPアダプター技術を提供してもらう。VoIPアダプターは電話番号とIPアドレスの変換機能デバイスでCATV加入者端末に付加され、端末ーCATV-VoIPゲートウエイ-IPネットワークーVoIPゲートウエイ-CATV又は市内電話網ー端末という相互接続における重要な役割を果たす。TWXのIP電話サービス「デジタルフォン」は既に電話事業免許を保有するメイン・ニューヨーク・ノースカロライナ3州のCATVを皮切りに免許申請中のカンサス・ミズーリ・オハイオ・テクサス4州に拡大し、2004年中に全米1,100万加入にIP電話を提供する計画である。TWXが急ぐ理由は市内サービス競争激化に伴い料金値下げが続き収益力が低下しているを埋め合わせるためである。

 クエストコミュニケーションズ・インターナショナル(2003.12.9発表)はミネアポリスとセントポールの自社市内電話網で家庭用IP電話サービスを開始したが、2004年上半期には小中大企業への販売も開始する。クエストIP電話サービスでは通話管理を円滑にするためウェブで発信呼・着信呼・不完了を監視でき、転送オプションを提供できる。

 AT&T(2003.12.11発表)は2004年第1四半期に西部諸州の既存網にVoIP設備を追加する工事を行い次いで全米上位100都市の設備整備を1年で完了する。AT&Tは国内外で自社IPネットワークを保有しているので設備整備コストを抑え低料金を売物にできる。市内電話網利用に伴い支払う年間$100億接続料を節減できれば収益構造は大幅に改善される。

 米国ではIP電話ベンチャー企業ヴォネージュが半年倍増の目標に近づきつつあり、現在の成約数約80,000と言う。新規企業としては楽曲ファイル交換ソフト「カザー」の開発者が作成したVoIPソフト「スカイプ」で200年8月公開以来4ヶ月間のダウンロード件数380万に達した。

 英国のBTグループは2003年末に(2)ルーター接続によるブロードバンドアクセスをサービス開始した。CATVオペレーターNSLやテレウェストに奪われたユーザを取戻すためとしているが、いかにも重たい代物で大口利用者向けだ第2回線の感じである。

ウェスタン・ユニオンの送金サービス

 ウェスタン・ユニオンは旧くは米国内電信独占で、データ通信の登場に伴う衰退で金融サービス(電信送金)にしぼって縮小均衡を図り、バブルショック後の赤字処理で1995年ファースト・データ社の子会社なり今日に至っている。

 1996年以来ウェスタン・ユニオンは国際送金サービスに特化してネットワーク整備を進め、米国センターを中心にパリ・ウィーン・香港・ブラッセル・コスタリカに地域センターを展開して世界195カ国・地域169,000店相互間のサービスを提供してきた。

 個人向け国際送金サービスは利益率が高くウェスタン・ユニオンは2003年に売上高$35億営業利益$10億をあげた。ところが突然にバンク・オブ・アメリカ、シティバンク、ウェルスファーゴを始めとする多数が参入してきた。銀行間決済ネットワーク市場の競争も厳しいため、ウェスタン・ユニオン、マネーグラム支払システム、ペイパルなど専門業者が活躍する$1000以下電信送金市場に大手が参入したのである。

 競争激化に伴う料金値下げは大幅で業者の経営を圧迫しつつある。平均$300を米国からメキシコに送るのに1999年当時660つまり送金額の20%だったのが、現在の手数料は僅か$10で、さらに下がろうとしている。電信送金手数料値下げ競争は世界に広がっており香港では$2.5に下がった。WUもやむなく最低手数料を$9から$2.6に下げた。

 老舗サービスプロバイダーが生き続けるのは楽ではない。

162. 減速する中国情報通信産業(概要)

 これまで中国は先進国の資金・技術・ノウハウを利用しつつ市場経済・中国企業の発展を図ってきた。国民一人当たり国内総生産(GDP per capita)は2002年$986で2003年には$1000を超える見通しとなった(2003.12.24新華社電)。中国の経済成長の原動力は海外からの直接投資(Foreign Direct Investment:FDI)だったが、2003年はSARS(新型肺炎、重症急性呼吸器症候群)の影響で年率ベース39%の落ち込みとなり、国民所得増大に伴う国内投資の活発化で成長が支えられた。

 新華社(Xinhua news agency)が2004年1月7日に伝えた情報産業省統計によると、中国の携帯電話は2003年に約6,300万増加して年末に2.69億加入になったが、年間増加率は2002年の42%から下がって31%だった。固定電話は約4,900万増加して年末に2.63億加入となり、中国の2003年末総電話加入数は5.32億に達した。
2004年の新規加入は、携帯電話5,200万、固定電話4,700万の見込みとされる。情報産業省が毎月発表する通信統計において2003年下半期から新規需要低落傾向が現れてきたので「減速」は決定的で,安定成長時代を迎えたようである。

 中国の特徴として1999年に始まった「小霊通(xiaolingtong、Little smart)」と呼ばれる簡易携帯電話が統計上固定系電話に含まれる。分割・民営化の固定系南部会社=中国電信(China Telecommunications Corp:CHA)が米中合弁通信機器メーカーUTスターコムと契約し低料金でカメラ・インターネット機能付きを提供したため前年の3倍も売れ、2003年末3,200万加入に達した。

 中国の株式市場が、台湾市場は別として中国大陸に3市場・5株式種類・外国人投資家購入の可否があり極めて複雑である。国際会計基準と国際監査基準が制定されるグローバル化時代に株式公開制度の透明性を早急に向上させ中国通信企業を先進国扱いする必要がある。ニューヨーク証券取引所に上場済みで業績向上著しい中国移動通信(China Mobile Limited:CHL)と中国電信(China Telecom Limited:CHA)をTOP20ランクに入れると次表の通りそれぞれ第13位、第16位になる。

 中国聯合通信の移動通信子会社チャイナ・ユニコム・リミテッド(CHU)は時価総額$126億で第24位である。また固定系北部会社=中国網絡通信(China Netcom)は2004年第4四半期にニューヨーク・香港市場に上場するものと見込まれる。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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