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マンスリーフォーカス
No.55 February, 2004

世界の通信企業の戦略提携図(2004年2月5日現在)

163. 中国情報通信機器メーカーの代表選手を目指すTCL集団(概要)

 中国の情報通信機器メーカーTCL集団が深 証券取引所に人民元建てA株を発行価格1株4.26元(51.5セント)で公開したところ(2004.1.30上場)、取引可能な5.9億株の86倍もの申込みが殺到して予想を大きく上回る高値に終始し7.59元(91.7セント)で引け、売買高と売買代金は深 市場全体の27%を占める盛況となった。人気の由来は(1)1980年に家電メーカーとして創立された国有企業(広東省恵州市)でありながら政府出資金5000万元を早期に返済し、香港企業や台湾企業からOEM調達した製品を販売し市場シェアを確保してから自前設備投資を行うという手堅い経営を続けてきた「民営化選手」であり、(2)中国企業が研究開発力をもって世界に進出するためにはハイテク外資との提携を経るのが早道だが、フランスの家電大手トムソン社とテレビ・DVD合弁事業を開始する(2003.11.4調印)TCL集団はその第1号だったからである。

 今回トムソンとの合弁法人を設立するに当たっては、TCL集団が約57%の株式を保有するTCL通訊設備(恵州市)を吸収合併した(2003.12.29上場廃止)が、その一般株主には1株21.15元($2.55)として新規TCL株式を交付することとした。TCL通訊設備(恵州市)の法人株25%を保有するTCL通訊設備(香港)からは流通株は1株1元(12.1セント)で買い取り当初から割当てられた法人株は簿価で買い取るので、従来は不利な立場に立たされていた一般株主に配慮した形になっている。
初めての株式交換合併で好評を博したTCL集団の時価総額は現在196.8億元($24億)に達し、目標とする韓国のソムソン電子の$750億には及びもつかないが、政府ベッタリで地位を築いた長虹グループの$19.7億を超えた。

 TCL/トムソン電子設立調印式の席上李東生TCL総裁と握手したトムソンのシャルル・デヘリー最高経営責任者は事業統合の意義を「世界の主要市場で大きな存在感のある初の中国系多国籍企業が生まれる」と述べた。

 新会社は両社の製造工場・販売網・研究開発拠点を合わせ年産1,800万台・年商30億ユーロという世界最大のテレビ/DVD事業であり、当初の出資比率は香港上場TCL国際67%・トムソン33%とする。トムソンは新会社設立後18ヶ月以内に新会社株式をTCL国際株式に転換する権利を持ち、株式転換後新会社はTCL国際の!00%子会社となる。
新会社の経営陣は李東生会長・シャルル・デヘリー副会長、TCLが指名するCEO・トムソンが指名する社長、TCLが指名するCOO・CFO・中国担当副社長、トムソンが指名するヨーロッパ担当副社長・北米担当副社長・監査役と定められた。

 TCLは2003年上半期に中国市場で売上高の77%を稼いだが、新会社の市場構成は中国34%・北米34%・ヨーロッパ28%となる。テレビ/DVD事業を切り離したトムソンは携帯型AV機器・製品サービスに集中する年商16億ユーロの企業に縮小するが、2003年上半期に8,100万ユーロの損失を出していたのが早期に黒字化する見込みである。
TCL集団にも携帯電話子会社TCL移動通信があり、2003年の設備投資で中国一の生産能力を備えてノキア・モトローラ・サムソンなどの外資系を急追してきたが、2004年は経営力が試される時である。

164. メディア企業は大型指向(概要)

 2003末R.マードック率いるニューズ社は、約82%所有するフォックス・エンターテインメント・グループが衛星放送ディレクTVを34%所有し管理するヒューズ・エレクトロニクス社を$67.8億で買収する案件(2003.4.9発表、2003.5.2許可申請)についてFCC承認を得た(20012.19採決3対2)。(1)衛星放送約130チャンネルに地方放送局をアクセスさせる(2)NWSが向こう6年間ケーブルTV番組紛争の仲裁役となることなどの条件付きだが、FCC承認が下り司法省がそれを支持したためマードックはコンテンツと流通の双方を握る者となりグローバル衛星王国の夢が完成した。
ニューズ・グループの衛星放送加入者は米国のディレクTV、英国のBスカイB、イタリアのスカイ・イタリア、中南米のスカイ・ラテン・アメリカを合わせ2,500万名に達する。流行りチャンネルへのアクセスを取引の手段としてネットワーク料金を釣り上げるマードック流はFCCにより封じられたが、TV放送番組・ニュースネットワーク・スポーツ・映画・ケーブルTV番組等のコンテンツを持ち流通を押さえたニューズ社の力は強大である。それを追って2004年はメガメディアも中小メディアもメディア企業が大型化する年になろう。

 ニューズ社に次いでケーブルTV加入者約2,100万を持つ事業者コムキャストは、タイムワーナー・ケーブルとのCATVシステムの整理・分合を終え、現金$50億を得て高まった投資力で双方向化・高速化など新技術の具体化を目指している。基本的に下り専門の衛星放送でも導入しているが、ケーブルTVはディジタル・ビデオ・レコーダー(DVR)やパーソナル・ビデオ・レコーダー(PVRS)などの端末多様化により廉価簡便に録画して好きな時に好きな番組を視聴するパーソナル化の先頭に立とうとしている。コムキャスト・グループはコンテンツ子会社のほか通信販売チャンネルQVCを持ち経験が蓄積されているのでネットワーク小売/広告の新サービスも狙える位置にいる。

 タイムワーナーは$449億の損失を出して倒産の危機にいた1年前と違い2003年第4四半期決算で$6.38億の利益を記録した(2004.1.28発表)。
売上高の20%、利益の15%を占めるAOLネットワーク部門は回復し切れてないが、景気回復に伴い広告収入が増加し売上高全体の1/3を占める映画部門が健闘したことによる。音楽部門ワーナー・ミュージックの売却はCD・DVD製造業と合わせて$37億であった。一方TWCは通信事業者2社ースプリント及びMCIと提携して1,080万加入者にVoIP電話サービスを提供することとした(2003.12.8発表)。
ビベンディ・ユニバーサルの2003年4四半期業績(2004.2.5発表)は環境事業部門売却のため売上高が前年同期比54.8%減となり、その要素を除けば9%減平年ベースでも2%減だったが、アナリストはほぼ予想通りで同社が過去6-9ヶ月間言ってきたことと変わりはない、2003年度決算の営業収益計上や資金状況は良い筈とし、パリ証券取引所での同社株価は1.5高だった。

 部門別にはユニバーサル・ミュージック売上高がインターネットによる無料交換の影響で前年同期比19%減、NBCユニバーサルに売却手続中のユニバーサル娯楽部門(VUE)売上高が前年同期比4%減とメディア事業業績が不調で、ペイTV事業カナル・プラスも26%減、ゲーム事業も13%減だった。携帯電話子会社SFRの名を名乗ることにした固定系通信事業セジェテルの売上高1%増もマイナス要素を埋め切れなかった

 アップルはMGM、ケーブルヴィジョン、タイボなど中小メディアが提携先を求める時、有料音楽配信サービス「iチューン・ミュージック・ストア(iTMS)」導入で音楽業界を革新し、1977年の共同創業者の一人で1997年7月に帰り咲いた最高経営者S.ジョッブスが音楽からオーディオ・ビジュアルや映画、IT・家電・ソフト・コンテンツが入れ混じるホットな戦線に登場してきた

 iTMSのサービス開始(2003.4.25)以来年末までの販売実績は3,000万曲以上、当初週50万曲程度だった販売数がウインドウズ・パソコン向けサービス開始(2003年10月中旬)が転機となって跳ね上がり年末には週200万曲近くになった。後を追ってナプスターがソフト中堅のロキシオ傘下で有料路線に転換したほか、リアルネットワークス、ミュージック・マッチなどのネット企業やウォルマート、マイクロソフトなど多業種の参入した。iTMSの市場シェアは現在のところ70%と言われる。
ラスベガスの国際家電見本市(CES)でヒューレット・パッカード(HP)のC.フィオリーナ会長は自社パソコンにアップルの音楽ネット配信ソフトを標準採用し音楽再生機「iPOD」をHPブランドで発売するほか、液晶・プラズマTV、ホームサーバー、鮮明な写真印刷・複写機能を持った複合型プリンター、プロジェクター、手帳サイズのいパソコンなどを順次発売して家電分野へ本格的に参入すると発表した。今や家庭内ディジタル化が現実となる時でアップルもその中心の一つになりつつある。

165. 固定系通信企業の将来は晴後曇り(概要)

 売上高増とコスト引下げ努力によりひどかった2002年の減益傾向を2003年にはね返した通信企業は多く、好業績は暫く続きそうだが、2004年は多くの固定系通信企業にとって2005年に始まる業績低下前の最後の最良の年になりそうである。

 政府が財政赤字を恐れ経営者が財務のバランスを気にするように、通信企業経営が問題視するのはデータトラフィック増による増収が固定通信音声サービス収入減に追いつかない「音声/データ失調症である。ブロードバンド・IPベースサービスの成長は早いものの起点が小額のため増収額が足りない。固定系音声通信事業では、ブロードバンド・IP電話サービスによる在来型固定通信サービスの代替えと安値競争の複合が収入減をもたらしている。西欧諸国についてアナリストは音声通話呼量は年率3%減でも基本料・通話料収入は年率1-2%減と見る。新規参入者がそれ以上の率で市場シェアを奪っていくので既存事業者はさらに悪い影響を受ける。
これまで「音声/データ失調症」のインパクトは携帯電話事業の好業績でマスクされてきたが、2005年までに移動通信の成長が「音声減収のデータ増収による補填」を埋め切れなくなると見られる。

 固定系既存通信企業の将来は2000年末に相次いで移動通信事業を分離したAT&Tとブリティッシュテレコムの近況に見ることが出来る。BTは年々2%づつ売上高が減りAT&Tの減収は年率6%である。他社も移動通信事業の寄与が減り固定系事業が衰退すると同じ状況となり、(1)新しい市場・商品に成長を求めるか、(2)不快な現実に耐えて公益事業として生きて行くか選択を迫られよう。

 米国一の長距離通信事業者AT&Tの2003年第4四半期業績(2004.1.22発表)は売上高が対前年同期比12.8減の$81億、営業利益が対前年同期比35%減の$3.4億で、前年同期の一時償却$12億を含む損失$6.11億よりは改善されたものの元気の出るものではなかった。AT&Tは最近従業員の12%約8,600名を解雇し2003年の資本支出$34億を2004年には$25億に減らすと発表し自社株買入れ償却$30億により配当金も節約すると見られている。2003年末の債務残高は$144億。業績発表当日AT&T株価は3.3%下がり1月末現在時価総額は$154.1億、世界の情報通信サービスプロバイダー番付No.23位になった。
 AT&Tは2004年の売上高は企業向けサービスが4-7%減、家庭向けサービスが15-17%減、合計売上高が7-10%減と予測している。ドーマン会長はほぼ1年前アクセンチュア主催のグローバル・コンバージェンス・フォーラムで「あと1年もすれば米国の大手通信企業は数社に減るだろう」と述べAT&Tとベルサウスの合併話再燃の噂が流れたりしたが、今はAT&Tから分離独立したAT&Tワイヤレスの去就の方が焦点になっている。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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