ホーム > レポート > マンスリーフォーカス >
マンスリーフォーカス
No.57 April 2004

世界の通信企業の戦略提携図(2004年4月5日現在)

169. 躍進するインドの電気通信産業(概要)

 インドの携帯電話は2004年2月末でセルラー電話2,465万、限定移動無線702万、合計3,160万加入に達した。セルラー電話は大部分がGSM技術利用で新興通信財閥バルティ系(Bharti Cellular等)約620万、政府系BSNL約510万、香港財閥ハチソンHWL系約470万、ビルラ(Birlas)AT&T合弁アイデア系約250万、など主要事業者を含む20社が提供中でBPL系2社による2.5世代GPRS120万加入もある。精油系コングロマリットのリライアンス産業系リライアンス・テレコムはGSMセルラー電話は約70万に過ぎないが2003年5月に開始したCDMA利用限定移動無線は約600万加入に達している。

 2002年末から2003年初頭にかけ、固定網事業者の限定移動無線(WLL)による近距離区域サービスとセルラー移動網事業者が鋭く対立した接続料問題は、新しい電気通信相互接続規則を長距離通信事業者も含め時間をかけて協議のうえ制定した結果(当初制定2003.1.24、第一次修正2003.3.27)、第二次修正2003.6.16、最終版制定2003.10.29、発効2003.12.29)解決された。

 新枠組みは発効したが、実施はまず固定網と移動網を統合し、ブロードバンドやインターネットの統合は次の段階にする。固定・移動免許統合は、従来インド全土を22区域に分け1区域につき民間3社と政府系1社にセルラー免許を交付し、別に固定網事業者に近距離区域SDCAサービス免許を与えてきたのを、新たに統合アクセスサービス免許(UASL)を設け、希望する固定網事業者が一定の手続(参入料の支払い)を踏めばセルラー網との相互接続権を取得するものとした。競争入札による免許取得でなく希望する者には全て免許を与える自由参入であり、提供事業者の融合の道が開けたと言える。ただ、WLLサービス向け周波数帯域が不足しており、電波の増配が課題である。

 インドの国際通信事業者VSNLは国営事業OCSの公社化(1986.4.1)だが、市場開放(2002.4.1)を控え政府持株53%の半分放出を競落したタタ財閥傘下に入り、バルティ・テレソニックとリライアンス・コミュニケーションなど新規参入者を迎え撃ち国際電話の独占的シェアを維持してきた。VSNL資本は政府持株が26%残っているがタタ財閥の投資機関パナトーン・フィンベストが外資を含め45%所有し残りが民族系という構成であり、国内のほか早くからニューヨーク証券取引所に上場(2000.8.15)している。VSNLの時価総額(2004.3.16現在)は$11.82億である。

 VSNLは旧国営独占としてOCS以来の国際伝送路を継承し、海底ケーブル陸揚施設15局の保有が強みになっている。衛星通信は地上局を作り易いが陸揚局は場所を選ぶので先占者が後発に勝る。VSNLは国内長距離通信事業免許を拒まれた代償としてインターネットの提供を全国的に認められたことから、アクセス事業を伸ばして1GB以上のインターネット伝送を行っており、その大部分を占める米国の受け皿としてアメリカ子会社を設立している(2003.6.26)。今やインドの通信産業が世界のネットワーク業界の注目を集めているのは、2003年を通じてインドのIT通信アウトソーシング業界がかつてないテンポで米欧多国籍企業からコールセンター業務委託契約を獲得したからである。バンガロール・チェンナイ・ハイデラバッドの情報通信技術開発センターは鉄道線路沿い又大陸横断光ファイバルートを急速に伸ばしているが海外への関門が急所である。

 新規参入者側では、リライアンスグループの通信統括会社リライアンス・インフォコム、(グループの持株会社が45%出資)が国際通信卸売会社フラッグ・テレコムを$2.11億で買収して関門局子会社リライアンス・ゲートウェイと合併させ(2004.1.13発表)、エジプトーインド海底ケーブル「プロジェクト・ファルコン」を発表した(2004.2.17)。

 フラッグ・テレコムは「地球一周光ファイバを目指して1997年に創立2000年上場時に$5.7億を調達したが、バブル経済の反動で倒産(2002.4.12連邦破産法適用申請)半年後に設備資産$33億を債務者に引き渡すことで更生し本社をバミューダからロンドンのドックランドに移したベンチャー企業である。プロジェクト・ファルコンはエジプトからオマーン・バーレーン・クウエイト・カタール・イラクを経由してムンバイに至りマドラスから東南アジア経由で香港に至る$3億敷設計画で、ムンバイーマドラスはRCLの陸上伝送路で繋ぎ2005年サービス開始で、計画済みの北大西洋ルート、北太平洋ルートと連結する予定である。

170. 欧州連合がマイクロソフトを競争法違反と認定(概要)

 欧州連合(EU)欧州委員会(EC)は加盟15カ国独禁当局の承認を得てマイクロソフトのEC競争法違反に対し(1)制裁金約5億ユーロ($6.15億の支払い命令,(2)音楽・映像再生ソフト「メディア・プレーヤー」を搭載しない基本ソフト(OS)の出荷とサーバーソフト技術情報の一部公開を含む是正措置を決定した(2004.3.24)。

 ECの今回の決定は、(1)基本ソフト「ウインドウズ2000の競争に及ぼす影響についての調査結果告示、(2)サン・マイクロシステムズの提訴によるMSの差別的ライセンス付与とサーバーソフト技術情報提供拒否に関する起訴状、(3)MSのOSと音楽・映像再生ソフトを結合した「ウインドウズ・メディア・プレーヤー(WMP)発売に関する追加起訴状、及び(1)-(3)を総合化した(4)最終起訴状によって、MSがパソコンの90%以上に搭載されたOSに組込み自社製音楽・映像再生ソフトの優位を確保して競争社製を閉め出し、インタフェース情報の提供拒否により競争社製サーバーソフトの普及を阻害したことはEC条約86条(支配的地位の濫用の禁止)に基づく競争法違反と認定したものである。

 米国では ノベルその他との競争を阻害したとの司法省提起の独禁訴訟が和解に終わった後(1994年7月)、マイクロソフトはAOLブラウザーのネットスケープやサン・マイクロシステムズのJAVA抑止で和解違反に問われ司法省・州政府合同独禁訴訟被告となった(1998年5月)。ワシントン連邦地裁はMSがOS独占で競合ブラウザーを阻害したと独禁法違反判決を下し(2000.4.8)、マイクロソフトをウインドウズOS会社とアプリケーション会社に分割する決定を行ったが(2000.6.7)、高裁命令の差戻審で司法省が分割回避に転じ(2001.9.6)、行動規制に基づく和解案が固まった(2001.11.6)、これを受諾する司法省・7州・連邦特別区と受諾拒否訴訟継続9州に分かれ、受諾組は結審し(2002年12月)、継続組も断念が続き控訴はマサチューセッツ州のみとなった。ワシントン連邦地裁C.コリーン・コテリー判事の是正命令は極めて緩やかなものでマイクロソフトのビジネスは従来通り、競争パソコンメーカーにインターネット・エクスプローラー以外のブラザーの組込みを認め、今後とも如何なるソフトとウインドウズの結合もできる。

 米国訴訟で4年前独禁法違反とされたのが翌年覆りマイクロソフトは今自由に振る舞っている。今回のEU競争法違反認定も何年か経つと覆され同じ事の繰り返しになるのか?

 EC競争総局は米国司法省のように企業分割を要求する権限は与えられてないので、マイクロソフト分割に代わる次善の策として「ウインドウズ分割」を要求した。マイクロソフトのビジネスモデルはOS独占を用いてウインドウズに新規性能を組込み市場拡大を図るものなので、WMP組込みウインドウズとWMPを外したウインドウズを販売した時利用者がまたパソコンメーカーがどちらを選ぶかやってみないと分からないが、マイクロソフトがECの最終起訴状を懸命につぶそうとしたところを見ると、この新アプローチは有効なのかも知れない。米国アプローチは後ろ向きだがブラウザー提供会社ネットスケープは救えなかった。ECアプローチは一応前向きでメディア再生ソフト企業リアルネットワークスはまだ生きているものの、モンティ委員の狙いは未来にあり2006年発売と目されるMSの次期OS「ロングホーン」にある。モンティ委員はトップ会談で執拗にウインドウズプログラムを組込み見合いと無関係に分けることを要求したと言われるが、プログラム分解に応じた方がMSとして得策だったかは今後の注目点である。

171. 遅れ気味のイラク通信復興(概要)

 イラク復興は統治の要イラク統治評議会(GCI)の事務局である連合国暫定統治機構( CPA)の下で旧イラク政府行政機構、米国国際開発局(USAID)、競争入札や随意契約で選定された民間企業によって進められてきた。

 イラク復興の取組みは米国主導の戦争が終った後(2003.4.14戦闘行為終結宣言)USAID中心に次々と進められたが、通信サービス分野では米国で国防総省と通信網契約を結んでいたワールドコムがいち早くバグダッドのGSM式携帯電話網建設を受注したものの(2003.5.15発表)倒産再建計画審査や不正経理事件調査途上で政府調達から除外される(2003.7.31発表)という躓きがあり、CPAが正式に公募した3地域(南部・中部・北部)携帯電話事業免許付与(2003.7.28公示、2003.8.8修正)も応募企業とCPA担当官の汚職疑惑について国防総省調査が入ったため決定が遅れるなど、立上がりが必ずしも円滑でなかった。それ以上に事態を難しくしたのが、主権移譲に関するGCI・CPA間覚書(2003.11.15調印)の発表がもたらした環境変化である

 CPAの監督下通信大臣が携帯電話事業免許を周辺国の3組のアラブコンソーシアムに付与した(2003年10月)。困難な環境下収益性の低い事業のためかオレンジやノキアと言った欧米諸国の移動無線通信事業者は応募して来なかった。需要母集団530万名の貧しい南部地域事業免許は目標加入数2ヶ月後25,000、2年後30万を条件にクウェイトのMTCを中心とするグループに授与された。クルド族居住地域を含み需要母集団440万名の北部地域事業免許は目標加入数2ヶ月後113,000、2年後140万を条件にエジプトのオラスコム・テレコムを中心とするグループに授与された。バグダッドを含み需要母集団690万の中部地域の免許は目標加入数2ヶ月後62,000、2年後90万名を条件にクウェイトのナショナル・モバイル中心のグループに授与された。

 戦争前のイラク電気通信郵便公社(ITPC)固定電話加入数は約110万だった。バグダッドの加入数はその半数54万だったが、戦中・戦後の混乱のため12交換局24万加入が罹障した。その復旧工事と14交換局・国際衛星関門局新設の&5000万プロジェクトがUSAIDからベクテル社に発注され,2004年2月26日に完了した。南北2000kmに及ぶ光ファイバルートも復旧された。

 主権移譲が近づくにつれCPAは行政改革を始め、通信省を廃止し通信メディア委員会(ICMC)を設置した(2004.3.29)。通信・放送の免許を付与し規制に当たる独立行政委員会のイメージである。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。