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マンスリーフォーカス
No.59 June 2004

世界の通信企業の戦略提携図(2004年6月2日現在)

175. 革新の核心から外れた衛星通信産業(概要)

 21世紀初頭の情報通信サービス革新の課題はディジタル化で、放送事業ではHDTV化と移動体向け放送、通信事業ではグローバル化と固定網・移動網融合であるが、衛星放送・衛星通信はいずれもその核心から外れてきた。

 HDTV(高精細テレビ)の歴史は、NHKハイジョンの開発(1964年開始)やITU-R(国際電気通信連合無線通信部門)の規格勧告(スタジオ規格1990年、伝送規格1992年、画像形式勧告1993年)とともに永いが、1998年に有効走査線数1080本が国際標準となった時に衛星伝送路は主役から退き、地上波放送ディジタル化を意味することとなった。米国ではTV放送局数の比率で2004年3月現在1,721局中1,155局と半数を超え、英国ではディジタル放送受信世帯が2003年末に1,200万を超え全世帯の50.2%に達した。近年の携帯電話特にカメラ付き携帯の普及に伴い、さらなる成長を指向しWLANなど無線アクセス多様化やデータ送受信とともに、ディジタルTV移動端末の実現が求められている。ところが衛星ディジタルラジオは車市場中心に2003年末162万加入を超え、DVDの映画を観るホームシアター向けに移動可能なセパレートTVモニターも登場したのに、衛星TV放送事業者はFCC(連邦通信委員会)の地方放送局再送信規制を注視してHDTVパイオニアの立場を放棄した守りの姿勢である。

 移動通信事業が好調で固定系通信企業も業績回復に転じた時停滞中の衛星通信事業にも再編成の動きが出てきた。周波数帯や軌道位置割当ての厳格な手続、打上げ事故などのリスクもあり設備過剰が続いてきた衛星通信サービスにLBO専門業者の登場である。LBO(レバレッジド・バイアウト)とは少額の資金で多額の資金調達を行うこと。専門業者の助言先の顧客が、買収資金調達のため、被買収企業の資産や将来のキャッシュフローを担保として借入れを行い、買収資金を資本化した株式は非公開とする例が多い。衛星通信事業は希少資源を使うため立場が強く、長期サービス提供契約に伴い安定収入が期待され、技術革新に伴う資本支出が予見可能な好ましい助言先と映るがそうなのか。

SES GLOBAL

 ルクセンブルグ本拠のヨーロッパ衛星会社( SES)は低コストのCバンド通信衛星アストラを使って国境を越える放送TV番組中継・ケーブルTV番組配信・直接衛星放送(DTH)を開始し、GEからアメリコム(Americom)通信衛星システムをを譲り受け、SES GLOBAL統合本部・SES ASTRA・SES AMERICOMを中心に、出資会社の北欧衛星社(NSAB、75%出資、SIRIUS衛星)、イスラエル出身ジラト/アルカテル3社合弁サットリンクス(41.69%出資)・ナウエル衛星(28.75%出資)・南米最大のCバンド衛星スター ワン(19.99%出資)・アジアサット(34.1%出資)も加えると衛星41基に達し、世界最大の衛星通信企業である。

インテルサット

 国際電気通信機構を民営化したインテルサットは、持株会社(バミューダ法人)とその100%子会社である運営会社(デラウエア法人)及び衛星免許保有会社から成る。民営化の時株式公開(IPO)は2002年末と予定されたが、不況により国際通信トラフィックが鈍化し地表系通信にシェアを奪われたため再三延延期され最近はLBOへの売却が検討されているようである。

 2003年7月に破産した通信衛星企業ロラール・スペース・コミュニケーションズから通信衛星6基を買収し世界第2位の衛星通信企業となったものの、2003年決算は売上高$9.53億、利益$1.81億、債務残高$27億と余り力強いものではない。

ディレクTVグループとパンナムサット

 世界有数のグローバルメディア企業ニューズ社が、米国の衛星放送最大手ディレクTVを傘下に持つヒューズエレクトロニクスの$66億買収を認められたので手続完了後ディレクTVグループ( DTV)と改称した(2004.3.16)。DTVは多チャンネルディジタル衛星放送、衛星通信、ネットワーク・システム(HS)の3部門で構成される。衛星放送部門はディレクTVとディレクTVラテンアメリカから成り、衛星通信部門はパンナムサット(SPOT)であり、NSはヒューズ・ネットワーク・システムズである。

 DTVの2004年第1四半期業績は売上高が対前年同期比22%増の$25.1億、継続事業の利益$1.778億、2004年5月28日現在時価総額$243.8億である。
ニューズ社は衛星放送世界制覇の夢が実現したのでパンナムサット(SPOT)を手放すこととし、DTV所有SPOT株式80.5%をLBOの老舗コールバーグ・クラビス・ロバーツ社(KKR)に$35.5億で売却し2004年第1四半期損失$7.5億を引き受けてもらうこととした(2004.4.20合意)。SPOTの2004年第1四半期業績は売上高3%増の$2.054億、損失$0.319億、時価総額$34.9億である。KKRによる買収とは、SPOTの業務運営は従来通りで表面上SPOT資産を担保にKKRがカネを貸した形に見える、J.ライトSPOT社長兼CEOはHDTV化を控えてKKRの7年間株式保有が希望というが、KKRは市況次第でSPOT株を売るだろうし、欧州電気通信衛星やインマルサットにも触手を伸ばしSPOTを含む大規模の衛星通信企業再編成に乗り出すとも見られる。通信衛星29基を保有し年商$8億のパンナムサットは世界第3位の衛星通信事業である。

 その他、米国の衛星放送事業者No.2エコスター(DISH)の2004年第1四半期業績は売上高が対前年同期比16%増の$15.8億、損失$0.429億、時価総額$152.6億である。コングロマリットのニューズ社に包含されたDTVに比べると「DISH」というブランド名の通り衛星放送一本槍のエコスターは弱いところがある。
2年前破産したグローバルスター(GLP)は主要株主サーモ・キャピタル・パートナー(81.25%所有)の力添えで再建計画を完了した(2004.4.15新会社発足)。再出発ではあるがGLP設立以来1日も休まないサービス提供あってのことである。

176. ケーブル・アンド・ワイヤレス、ささやかに復活(概要)

 英国の固定系通信企業ケーブル・アンド・ワイヤレス(CWP)の2004年次報告書(2004.6.2発表)にF.カイオCEO の挨拶が掲げられている。
「1年前我々は、我がグループを厳しい財務管理の下技中核技術力を磨き主要な顧客に集中して基盤を築きCWPを再建して稼げる通信事業者とする三カ年計画を発表した。2004年3月31日に至る2004年次にはPBT(税金・特別償却前利益)を3.17億ポンド、1株当り8ペンスあげ、3.15ペンス配当できる業績を達成した。英国内収入16.61億ポンドは3年来初めて英国業務の衰退が止まったことを示す。国内電話収入の65%は自由化市場から得たもので、平価換算では国内電話収入は横ばいである。

 ハイライト・ポートフォリオ再編成は前倒し・コストは予想以下、米国事業処理が鍵

  • 英国事業再編成は計画通り、平年ベースで9300万ポンド減、減収停止
  • 電話事業資本支出見直し、カリブ海地域のGSM展開加速
  • ブルドッッグ買収は英国戦略の具体化
  • 配当追加払い(上半期分1.05ペンスを遡って追加し当期配当3.15ペンス)
  • バランス・シートのリスク除去
  • 戦略枠組みを定義ー英国市場でNo2、中小国電気通信サービスの提供       で世界のトップ」

 R.ラプソン会長(Chairman Richard Lapthorne)の声明は、「事業構成と業務運営の見直しで世界中の従業員が目覚ましい努力を尽くした。一年半前CWPはもうダメだとされたが、今日そうではないことが明白になった。当期配当3.15ペンスは繁栄の未来を創れる証拠だ」という。

 しかし2004年次の継続事業売上高が対前年比8.7%減(平価換算4%減)の33.8億ポンド、税金・特別償却前利益3.17億ポンド、時価総額(2004.6.2現在)$56.3億は厳しい現実である。米国子会社の処理で破産法適用申請の上投資会社に売却するのに2003年一杯かかった経験から、事業再編成が終わるのは順調に行って2004年末と思われる。

177.ロシアの電気通信産業(概要)

 ソ連消滅の発端であるソ連共産党第28回大会(1990.7.2-13)以来今日までの15年間は、クーデータ(1991.8.19)、独立国家共同体(CIS)創設ソ連の消滅(1991年12月)、ロシア連邦(RU)の誕生(1992.3.31と連続する共産党1党支配から多党民主政への大改革とエリティン体制下の経済失政・ハイパーインフレ等により沈下したロシアの地位回復を図るプーチン第2代大統領の国内体制引締めとEU・テロ対応外交努力に彩られている。

 中央集権計画経済から市場・私有財産制資本主義体制への変身は国営企業民営化の過程で新興財閥を生み、エリティン政権下の官僚汚職頻発プーチン政権下では国営石油大手脱税摘発等が抑圧体制復活の懸念をもたらし、ロシアの印象を悪くしている。

 しかし、ロシアの政治経済システムは完全にはほど遠いものの、国連統計によれば購買力平価でみたロシアの1990年=今現在国民一人当りGDPは$8000であり、1991年のアルゼンティンや1999年のメキシコに近い。こうしたGDP中位レベルの民主国家では政府は官僚汚職に悩み裁判は政治的で言論の自由は完全なものではない。ロシアを西欧・米国の基準に外れた例外の国と見るべきではなく、GDP中位国としてノーマルな国と見るべきであろう。ただ、政治経済体制変身の途上にあって歪なところがあるので、ロシア分析は事実を確かめることから出発しなければならない。

 ロシア連邦(RU)は誕生時20共和国、6地方、49州、1自治州、10自治管区、2特別市、合計88の地方行政単位で構成され、その後チェチェン・イングーシ共和国が2共和国に分離された。ソ連時代のソ連圏横断産業別国営寡占体制下でも電気通信についてはソ連邦対応の行政・事業一体の通信省であったが、エリティン政権の地方分権方針に沿って行政に専念する通信省と長距離通信事業者ロステレコムに分離され、地方には88固定系通信企業が創立された。

 インフレ期の設備投資調達のため通信投資合弁会社シアズインヴェストが設立され、連邦政府が資本51%を引受け外資を導入してきた。投資会社は89社それぞれの株式の19-51%を引き受けたようである。89社をモスクワ・ザンクトペテルブルグ・クラスノダル・ノブゴロド・ノボシビルスク・エカテリンブルグ・ハバロフスク7都市を本拠に広域再編成する計画で、2003年末に10社統合のシベリアテレコムが設立されたが、従業員数の15%4万名減の計画達成には時間がかかりそうである。

 移動系通信企業は大都市中心に展開しており、市場シェアNo.1(39%)のMTS、No.2(32%)のヴィンプルコ、No.3(8%)のメガフォンとも急成長で、2004年4月末合計加入数4,442万、対人口普及率30.6%を記録した。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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