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マンスリーフォーカス
No.47 June 2003

世界の通信企業の戦略提携図(2004年11月1日現在)

190.世界の電気通信企業の現状評価(概要)

 ブッシュ米国大統領再選により世界は既存枠組みは変らずイラクやパレスティナの緊急課題の解決が急がれている。情報通信分野でもほぼ一年前以来の懸案が取り組まれており、今は固定通信では光IP網への転換,移動通信では3Gサービス導入を中心に2004年の締めくくりと2005年以降の展望が注目される。

 最近の調査結果によれば世界の電気通信サービス事業者100社の売上高総額は2000年$9,790億、2003年$1兆1630億、上位20社で売上高総額の約70%、総利益の約60%を占めるという。20社は北米8社、西欧7社、アジア5社で構成され、開発途上国の多い中南米・東欧・中近東アフリカは無い。100社売上高の地域構造は北米$3,780億(構成比32.5%)、西欧$3,210億(27.6%)、アジア$2,740億(23.6%)、中南米・東欧・中近東アフリカ$1,890億(16.3%)と先進国寄り。5年後の予測では北米$4,540億(30.0%)、西欧$3,800億(25.1%)、アジア$3,960億(26.2%)、中南米・東欧・中近東アフリカ$2,810億(18.6%)と幾らか途上国の比重が上がる。平均成長年率は中南米・東欧・中近東アフリカ9%、アジア8.7%、北米4%、西欧3.7%とディジタル・デバイド政策の効果が見込まれる。

 この調査結果に新型ネットワークサービス企業/メディア企業を含むいつもの上位30社時価総額表から2003年末数値を拾って一表にすると表1の通りである。

表1 世界の通信サービス企業トップ20社2003年業績

 情報通信サービス企業の決算期はさまざまだが、上記電気通信サービス企業の2004年上半期業績が今の株価に反映されると考えて表2を見ると何かヒントが得られよう。

表 世界の情報通信サービスプロバイダーTOP30(2004.10.29現在)

 最近「東アジア共同体」「ASEAN +3(日中韓)」という言葉が大きな流れになりつつある。その旗手と目される日中の代表的電気通信企業は、NTTとNTTドコモ、中国移動通信(CHL)、中国電気通信(CHA)であろう。

 NTTドコモはKDDI対抗上通信料を引下げたためシェア拡大の反面業績にかげりが表れ、2004年9月期中間決算発表(2004.10.29)にあたり2004年度通期見込みを前年度比売上高5%減・営業利益25%減・AWE株式売却に伴い純利益17%増と説明したが、その後株価が下がり11月10日現在時価総額は$656億となっている。一方、NTTは2004年9月中間連結決算(米国会計基準)(2004.11.10発表)で対前年同期比1.7%減の売上高、5.8%減の営業利益と1987年上場以来初の減収減益決算を明らかにしたものの、2005年度決算売上高3%減・営業利益25%減・純利益4%増と見込み、2010年目標の中期経営計画を発表したためか株価には影響が無かった。

 中国政府は現在試験中の三つの3G技術基準(WCDMA、1xEVDA、TD-SCDMA)を既存・新規参入事業者にどのように当てはめて次世代免許を与えるか悩んでいる。固定通信事業者としてのCHAは国際伝送路投資の責任を負っており、先にフラッグ・テレコム(FLAG Telecom))から中国-米国西海岸間海底光ケーブル30Gbpを購入した。通信衛星・光ケーブル競争時代の戦略が問われている。

 西欧の五大伝統的通信事業者を表2のように2004年初頭と現在の米ドルベース時価総額の順に並べると、テレフォニカ(TEF)($756億-$823億)、ドイツ・テレコム(DT)($791億-$808億)、フランス・テレコム(FT)($643億-$709億)、テレコム・イタリア(TI)($935億-$537億)、BT($298億-296億)となり、表1のような2003年業績順DT、FT、TI、BT 、TEFと少々違う。西欧事業者の場合移動通信子会社を連結決算していることが多いが、社債発行による拡充資金調達・借換え・返済と株価の関係は金融機関・格付け業者にしか分からないところがある。その点BTは固定系と移動系が分割され情報公開も進んでいるが、今後BTが再販売ベースで移動通信に乗り出すと業績評価は専門的になろう。

191.インターネット検索広告は儲かるか?(概要)

 インターネット検索広告最大手のグーグル(GOOG)は株式公開(2004.8.27上場)後初の業績発表(2004.10.21)を行ったところ、2004年第3四半期決算が売上高が対前年同期比2倍(105%増)の$8.05億、検索技術を巡る特許訴訟のアマゾン(AMZN)との和解金($2億)支払い後の純利益が前年同期比2.5倍の$5,100万と好成績だったため、株価が急上昇し、その時価総額は10月25日にオンライン広告最大手のアマゾン(AMZN) を超えた。

 米国でインターネットが有力広告媒体として定着しきた。コンサルティング企業プライスウォーターハウス(PwC)、調査会社インタラクティブ・アドバタイジング・ビューロー(IAB)などは2004年上半期の米国ネットワーク広告市場規模を対前年同期比40%増の$46億と推定する。このまま推移すれば2004年通年業績は過去最大の2002年を上回る可能性もあり、新聞やテレビにまだ及ばないが、2-3年後には雑誌に肩を並べるとの見通しという。

 ソフトウエアの巨人マイクロソフト(MS)がテスト版インターネット広告検索サービスを漸く提供し始めた(2004.11.11)。「漸く」というのは、ヤフー(YHOO)が買収したインターネット広告検索技術企業オーバーチュア(2003.7.14合意、2003末100%子会社化)をシステムに組込み(2004年2月末完了)、3社目の検索技術企業アスク・ジーブ(Ask Jeeves.com)が検索サイトを買い集め(2004年3月買収額$3.43億)、グーグルが電子メールサービス「Gmail」を開始する(2004年4月)間マイクロソフトは傍観し続け、グーグルのIPO計画書SEC登録(2004.4.29)を見届けてからテスト版自社製インターネット広告検索技術を仕上げ始めたからである。今回インターネット広告検索サービス「MSNサーチ」を公開した第1号MSNサーバーの開発工期は1年半と言われるのでMS社内でも秘密が保たれていたことになる。

 MSNサーチは利用者が平文で質問を入力すると50億のウェブサイトにアクセスし数秒で答えを出すと言うが、AP通信社はデスクトップからインターネットの全てにアクセスできるのは2004年末と報じた。MS自身開発完了まで$1億と20ヶ月かけてから26カ国11言語に対応するとしている。6月までのMS2004年度決算オンライン広告収入は$3.6億でMSはこれを向う5年間で倍増させたいという。

 MSNサーチは巨人マイクロソフトにとってはライナス(Linus)などオープン・システム・ソフト対抗増収策の1セグメントで、ヤフーにしても広告検索は数ある事業部門の一つでの広告事業の一部だが、グーグルにとっては広告検索は主軸なので、マイクロソフトの追撃の影響が違う。グーグル自身よりも投資家筋の受け止め方が問題であり、MSNサーチ開始の報道の翌日グーグル株価は下がった(2004.11.12時価総額$493億)。
かつてパソコンOS市場を創造したネットスケープがマイクロソフトに蹂躙された歴史の連想である。しかし、グーグルはアクセス先ウェブサイ数を既に40億から80億に増やし、捜索技術の根幹のアルゴリズムを高度化している。総じて言えば、マイクロソフトはゲームやミュージックなどアプリケーションとの連動に注力し、グーグルは本来的性能の向上に努めてる。

 ウォール街のアナリストは一進一退するグーグル株価の「浮動性(volatility)」は最短あと半年は続く、グーグル経営者が収益見通しを発表しないことでもあり、公開会社として公表される四半期業績が市場で消化され評価が定まるまで揺れ動くとしている。

192.民営化・外資導入目指すインド電気通信産業 (概要)

 インドは独立以来29州と6直轄領からなる連邦国家が「イギリス型憲法体制をとり、国民会議派(コングレス党)とネール・ガンディ・ファミリーが「インド型社会主義」と呼ばれる内向き重化学工業化も、その破綻後の「静かなる革命」と呼ばれる規制緩和・外資導入・自由化・民営化路線も主導してきた。初代首相J,ネール、第3代首相I.ガンディ、第6代首相Rガンディはファミリー、例外の第9代P.V.N.ラオ首相はラジブ・ガンディ首相が汚職の疑いで辞任した後のピンチ・ヒッターだった。

 初めての政権交代は1996年5月総選挙の結果人民党(BJP)が第一党となった時でアタルB.バジパイ党首は左翼と国民民主連合(NDA)を組み第10代首相となったが、穏健派出身としてラオ政権の「静かなる革命」を継承した。冷戦終結・グローバル化・情報化に生きる路線は確かなものになったのである。ただ経済成長とともに貧富の格差も広がり地方分権の要求が高まり政治課題は山積する。年率7%の高度経済成長によりバジパイ内閣J.シン財務相がインド経済サミット(2003.11.24)で「インド経済のファンダメンタルは極めて良好で独立以来最良の形になっている」と述べ、2003年12月地方選挙は与党連合の勝利に終わった。

 ところが、BJP戦略担当の繰り上げ提案に従った2000年4月総選挙は失敗し182議席中40名落選の状況下バジパイ首相は辞任した(2004.5.14)。インド政治は主要なもので17政党あり、新首相が議会の信任投票で敗れるケースは異例でなく、バジパイBJP党首は故ラジブ・ガンディ氏の妻S.ガンディ女史率いるコングレス党の連立組閣の成否を見る構えであった。選挙で奮戦し145議席獲得したS.ガンディ女史はイタリア人の弱みを胸に1970年代以来政府経済顧問や財務相歴(1991-1996)があるM.シン氏を立て、1998年以来野党党首だったことにして共産党(CPI)など左翼政党の閣外協力を含む「進歩連合 (UPA)」を組織することに成功した。M.シン首相就任後S.ガンディ女史がコングレス党党首兼NPA委員長となり、M.シン政策/S.ガンディ政治の分担となった。第14代マンモハン・シン首相(2004.5.22-)はその後ムンバイを州都とするマハラシュトラ州(State of Maharashtra)選挙(2004.10.13投票)での与党連合勝利を背景に経済改革を進める構えである。

 M.シン内閣発足以来閣外協力する左翼政党の反対でインド政府の民営化・外資導入計画が停滞していたが、マハラシュトラ州選挙後に開かれた連立与党と左翼政党の会合でチタムバラム財務相は「電気通信分野の成長に不可欠な資金1兆6000億ルピーを捻出するには外資導入以外にない」として、外資導入の上限49%を74%に引上げる方針を再確認した。また、インド政府は黒字国営業35社について株式の49%まで民間に売却する、うち未上場の15社は新規に株式を上場する方針を決めた。民間航空会社への外資上限も40%から49%に引上げることとし、また民間銀行への外国企業出資や保険分野への外資上限引上げにつても早期決着を目指している。労働者の反発やイデオロギー的反対はあるものの、原油高に伴うインフレや旱魃による収穫減で経済成長率が低下している今日電気通信インフラ整備によるIT産業振興政策の意義は明確で左翼政党も反対できまい。

 インド政府電気通信規制局( TRAI)によれば2004年10月末現在インドの携帯電話加入数は4,451万加入と固定電話加入数4,396万加入を超え、総計8,847万に達した加入電話の対人口普及率は8.24%となった。
アジア太平洋地域の途上国で携帯電話加入数が固定電話加入数を超えたのはマレーシア、フィリッピン、シンガポール、中国に次いでインドである。

 TRAIによれば、現在携帯電話の新増数は毎月約150万加入、秋祭りシーズンの10月は約200万加入という。ガートナーは2003年に年平均増加率30%の伸びが2008年まで続き、2006年に1億加入、1008年に1.5億加入になると予測した。
セルラー事業者協会(COA)によれば携帯電話機の価格は 大手のほかインド国産メーカーの参入により1台2,500ルピー($54.58)から1台1,500ルピー($32.75)に下がってきている。携帯電話料金の値下げ競争も活発になっている。

 インドの移動通信事業は競争は厳しくても需要急増中なので借金して拡充投資をしてもコストダウン効果もあり短期間に返済できる。国内金融市場が小さいため、外資上限引上げが遅れると携帯電話事業を含む通信企業12社のうち中小規模の企業は大手に買収してもらおうかとなる。外資上限を49%から74%に引上げる規制緩和の遅れがM&Aを促進する結果となる。アムロ・アジア投資インドを始めアナリストは2-3年のうちに12社は4-5社に減るだろうと見る。例えばBPL社、スパイス社、HFCL Ltd、インフォテル社)など14万-200万加入の小企業が売却候補でる。

インド第2位のバルティ・テレベンチャー社の2004年度代四半期業績(2004.10.28発表)によれば、収入伸び率63%で純利益は前第1四半期の9.3億ルピーから33.4億ルピーと3倍になった。規模の経済がかなり利くのである。

 N.ミスラ電気通信次官は11月中に首都圏電話会社MTNLとインド最大の固定通信事業者BSNLの合併に関し3ヶ月で組織効率・コスト節減効果の調査報告書を提出するよう求める。MTNLはデリーとムンバイ対象に固定電話約500万加入を提供し、BSNLはその他インド全土を対象に約4,600万加入を提供中でともに黒字、ブロードバンドサービスを計画中である。両社合併すればデジタル・デバイド実施主体となると思われ、全通信企業の経営合理化の契機ともなる。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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