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マンスリーフォーカス
No.65 December 2003

世界の通信企業の戦略提携図(2004年12月3日現在)

193. 活気みなぎるヨーロッパ通信企業(概要)

 ここ4-5年の西欧主要通信企業の業績発表には、固定系通信事業の損失が暗い影を落としてきたが、2004年7-9月中間決算は縮小し続ける固定系収入基盤にもかかわらず負債・コスト削減とキャッシュフロー拡大努力によって、次表に見る通り、株価に上昇機運をもたらしている。

表 世界の情報通信サービスプロバイダーTop30社20(04.12.10現在)

  第3位テレフォニカ(Telefonica de Espana SA: TEF)の2004年3第四半期純利益は対前年同期比46.6%増の8.63億ユーロだったが、通年の営業粗利益=EBITDA(利払・税金・償却前利益)は上半期業績発表時の予想7-10%より低い5%-7'%に下がった。移動通信子会社テレフォニカ・モヴィレス(Telefonica Moviles SA)は好調だが、テレフォニカが固定系音声市場の73%またブロードバンド市場の58%を確保しているに移動通信市場におけるテレフォニカ・モヴィレスのシェアはやっと半分で、アメナ(Amena)など新規参入企業の方が活発である。

 第4位ドイツ・テレコム(Deutsche Telekom AG: DT)は、移動通信子会社T-モバイル(T-Mobile International AG)の好業績が固定系サービス売上高対前年比2.4%減を相殺することを背景に、2004年通年利益見込みが予想を上回る32億ユーロとなり、配当をハイテクブーム時代に復し将来とも一株当り0.62ユーロを維持するとした。この方針発表当日(2004.11.11)の配当利回り4.1%はヨーロッパ平均を上回りDT株価は上昇し、以後堅調を続けている。

 第8位フランス・テレコム(France Telecom SA: FT)の2004年第3四半期業績は、売上高は対前年同期比4%増の120.5億ユーロ、営業利益は対前年同期比5%増の29.6億ユーロ(同社は四半期の純利益は公表しない)、EBITDA(利払・税金・償却前利益)は対前年同期比4%増の48.6億ユーロを記録した(2004.10.28発表)。2002年10月に就任したT.ブルトンFT会長兼CEO(Chairman&CEO Thierry Breton)は「経営改革発表以来ベストの成果を上げた、我々は成長と収益性の適正なバランスを維持している」と述べた。EUルール違反スレスレの政府助成や儲かる携帯電話事業オレンジ(Orange SA)の完全子会社化などナリフリ構わぬ再編成の効果と言える。

 第13位テレコム・イタリア(Telecom Italia SpA: TI)の2004年9月までの9ヶ月間業績は、売上高が対前年同期比1.3%増の229億ユーロで、純利益が対前年同期比60%減の7.45ユーロだった。前年同期には税金還付12.8億ユーロその他の特別な事項があるものの上半期業績が電話帳事業売却益を除いて前年同期比4.3%増だったことから見ると収益性は下降気味である。TI持株56%の移動通信子会社テレコム・イタリア・モビレ(Telecom Italia Mobile: TIM)の完全子会社化の噂が流れ、タイア&ケーブル製造企業ピレリの持株会社(Pirelli & C SpA)が50.4%所有する金融会社オランピア(Olimpia)がTI株式17%を保有し、M.T.プロヴェーラPirelli会長(Marco TronchettiProvera)がTI会長を兼ねるという複雑な資本・経営構造が想起されるが、海外事業をTIの別子会社としTIMはTI内事業部門とするようである。

 第23位BTグループ(BT Group PLC: BT)は、移動通信企業O2(旧BTセルネット)分離後の移動通信再参入をVMN方式による移動・固定/対ホーム・ビジネス総合通信戦略「プロジェクトブルーフォン(Project Bluephone)」で行うこととし、ボーダフォンと提携した(2004.5.18発表)。AT&TとのグローバルJVコンサート解散後(2001年12月発表)撤退していた大企業向け国際情報通信市場への再参入について国際データ通信ISP最大手のインフォネット・サービシズ(Infonet Services Corp:)を$9.68億( 5.2億)で買収した(2004.11.8発表)。多国籍企業1800社の世界70カ国以上拠点にサービス提供中のインフォネットは戦略の大きな柱で引き続き完全子会社化を図る。国内住宅用電話収入の減収傾向は続いているが、サービス事業再編成のメドは立ちつつある。

194. 南アフリカ電気通信の現状と課題(概要)

 南アフリカ共和国の現行通信規制は、法律第13号南ア通信規制法に基づく南ア独立通信規制庁(Independent Communications Autority of South Africa: ICASA)に1993年放送法に基づく放送庁(Independent Broadacasting Authority: IBA)と1996年法律第103号電気通信規制法(Telecommunications Authority of Act No.103 of 1996)に基づく南アフリカ電気通信規制庁(South African Telecommunications Authority: SANTRA)が統合されて通信大臣の下で行われており、2004年2月に情報通信産業の競争を促進するための融合法案(the Convergence Bill)が提案されている。

 通信規制庁(ICASA)は通信企業に対する規制・政策の具体化、免許交付、規則適用の確認など規制の全ての任に当たるが、例外として2001年電気通信改正法案に基づくユニバーサルサービス局(Universal Service Agency: USA)の規制業務は通信大臣が直接監督し、ICASAはルーラル地域に対するユニバーサルサービス基金を通信事業者から受取りUSAに渡すだけである。一般の通信事業者は売上高の0.2%を基金に拠出し、USAはルーラル地域通信事業者免許を交付し基金(2004年度予算($8,000万)を配分し、公立学校発信インターネットアクセス料金の50%割引を管理する。

 南アフリカ共和国の電気通信の現状は次表の通りである。

表 南ア電気通信の発展状況

 南アフリカ共和国誕生後国営南アフリカ電気通信(PTO Telkom)は1973年法律第63号会社法に基づく全額政府出資の有限会社(public limited liability company)として1991年に法人化された。英国ボーフォン社(Vodafon PLC)の南ア進出を受けて汎アフリカセルラー合弁企業ボーダコム(Vodacom PLC)の設立に参加し(1993年)、株式の50%を出資した。ボーフォン社の持株は35%に止まり、通信規制庁(ICASA)はボーダコムのほかに地元資本によるMTNグループ(Mibile Telephone Networkss: MTN)にGSM免許を与え南南アの携帯電話事業を複占で始めることとした。

 世界的な通信自由化の流れのなかで南ア政府は外資導入を含む設備拡充5カ年計画を作成して南アフリカ電気通信をテレコム・南アフリカ(Telkom ZA SA: TKG)としてニューヨーク/ヨハネスグルグ証券取引所(NYSE/Johannesburg)に上場し(1997年5月)、米国SBCコミュニケーションズ(SBC)60%/テレコム・マレーシア(TMB)40%の投資コンソーシアム「シンタナコミュニケーションズ(Thinthana CommunicationsLLC)」に株式30%を$13億で売却した。南ア政府が第二電々(Second Network Operator:SNO)の免許交付に慎重な態度で臨むため自由化風のなかで独占の続くTKGは儲かり、差別されてきた黒人・女性・身障者層の投資コンソーシアムへの株式割引販売で人気は上がり手続は正確にということでTKG上場に時間がかかった(2003.3.7完了)。TKG株価は堅調を維持し上がり傾向なのでSBCはAT&Tワイアレス買収、TMBはインドのIDEAセルラー買収と資金調達に迫られるとTKG株式を売りたいとなる。早速株式30%の半分は買手がついて2004年11月に売却、残る15%は2005年3月まで買手を探す段取りである。30%はSBC18%/TMB12%、それを分割するとSBC9%づつ、TMB6%づつで買手が南ア政府社会福祉保護対象だと投資コンソーシアムの金集め期間中3-5ヶ月公共投資委員会(Public Investment Commission: PIC)が代買し貯蔵しておく(to be warehoused)煩瑣なことになる。

 '新生南アフリカ誕生以来の10年間は全体として立上がりを如何に円滑に進めるか又近隣諸国を始め国際社会に如何に復帰していくかを最大優先課題としていた。政府部門への黒人人材の大量任命、白人社会の不安解消、白人が実権を握る経済界への対応、貧困層への福祉政策など問題が山積し、特にANCの多数派支配を恐れ流血事件まで起した白人極右勢力・ズルー族(Zulu)基盤のインカタ自由党(Inkatha Freedom Party)の取り込みまで配慮してANC政権は難しい仕事を良くこなしたと言える。

 ところが、グローバル化・技術陳腐化が進む電気通信分野は日常生活に密着して政治がからむと処理が大変で現状把握も単純でない。普通の国の普通の通信事業になることが課題である。南ア政府はインドを見習ってIT立国の志を抱ているが現状では国際通信料金が高過ぎて外資の直接投資やアウトソーシングは望めない。

 テレコム南ア(TKG)の2004年第3四半期現在の業績(9月までの1年間)は売上高が対前年度比1.7%増の$69.9億、営業利益率23.73%、純利益率13.53%、時価総額は$91億(2004.12.1現在)である。或る調査会社(NUS Consulting)によれば国際通信料金はフィンランドの1.6倍、コストは天文学的に高いと言う。
固定系第二電々(SNO)に南ア放送協会(SABC)の国際通信・マルチメディア国有SPセンテック(Sentech)が開業したが(2004年1月)立ち上がっていない。国有運輸・海運・鉄道会社トランスネッット(Transnet)の通信子会社トランステル(Transtel)も商用の売上げはまだないようである。

 移動系通信企業は1993年にボーダコム(Vodacom)とMTNが免許を取得し、2001年にCell Cが免許を得て2004年3月現在の市場シェアはそれぞれ51%、33%、16%。CellCは地元企業Saudi OgerとCellSaf(BEE企業30社合弁)出資による3C Telecomが所有しトラフィックの半分はボーダコムのローミングによっている。

195.VOIP電話のブランド戦争始まるか?(概要)

 エコノミスト最新号「電話通話は死んだ、インターネット通話よ何時までも」と題する記事が載っている。その書き出しは「ヴォネージ、スカイプ、ネット2フォン、8X8などのVOIPプロバイダーはまだ全家庭に入りこんでいるわけではなく、米国のタイムワーナーやベライズン、英国のBTは反対に好きではなくてもほとんど世界中で知られている。何社かの特化した成り上がり者と巨大ケーブルTV会社・歴史ある電話会社が今広く使われている技術を置き換える新通信技術のグローバルな提供戦争で激突すると何が起きるか?或るマーケティング・コンサルタントによれば、VOIPとという通信技術が草創期利用から初期過半数利用に移る今後伝統的電話網は時代遅れとなりブランド戦争が起きる」とある。

 この記事は、ヴォネージのようなVOIPが全電話業界を動揺させたのは(1)従来の通話が考慮してきた地理・距離・時間の3要素全てを破壊したことと、(2)従来絡み合っていた電話の「網アクセス」と「サービス」を切離したことの二点によるとのパウウェルFCC委員長の見方を紹介する。確かにヴォネージに登録した「音声ーパケット変換機能と電話番号ードメインネーム変換機能を備えた指定機器」を携帯する者は何処ででも広帯域回線に接続し何処へ何分かけても料金を気にせずに済む。インドの母親はシリコンバレーで働く息子と市内通話料金で話できる。電話は誕生以来電話局から利用者宅までの「網アクセス(電話局からユーザ宅までの回線」と「サービス(通話を発信・受信する能力)」がセットで提供されてきたが、今は回線リセール/ヴァーチャル・ネットワークの時代、ベンチャーはVOIPの新ビジネスモデルを試み、利用者は選択して満足し或いは不満に感じ、商圏を荒らされた既存通信事業者は防衛に走り自らもVOIPを試み、隣接情報通信産業や広くサービス産業から新規参入を志す、今はそんな時代である。

 一番身軽なのはVOIPプロバイダーで、ヴォネージの場合若者に受け今や登録者は30万を超え四半期に8,000名づつ増えているが、電話会社やのケーブルTV会社のような他のサービスとのパッケージ販売は出来ないので成長に限界もありそうである。ケーブルTV会社には伝送路を張った地域から出られないとの弱点があり、電話会社にとっては本来VOIPが存在しないことが一番望ましい。地表の通信事業者はDSLや光ファイバによるブロードバンド・サービスの一環になる。近未来で注目されるのは無線通信によるIP電話で、このところワイファイ規格無線LAN製品を接続するホットスポットが普及するなかで、ヴォネージは既に無線メーカーと組んで近距離ワイファイ技術組込みハンドセット開発中で2005年発売予定と伝えられる。セルラー無線によるVOIPはビジネス社内無線としては既に利用されており、広域化に伴い音声のパケット化で移動通信事業者に減収傾向も表れたため、対応策としてパケット課金をマルチメディア時分課金に改める向きもある。こうした動きを考えるとワイファイVOIPは移動系電話会社にとって減収要因と思われる。さらに最近のスペースシップワン宇宙飛行船のテスト成功は、2007年までに実現する民間商用宇宙旅行の座席予約を始めて夢が現実に近いことを示したが、米国の宇宙ベンチャー企業サンズワイア・ネットワークスは地表上2万粁の成層圏に長さ75?の飛行船衛星を漂わせワイファイ通信を提供する構想がある。

 サービス・マーケティングの王道は、コスト見通しをもって現行サービスより良いサービスを安く提供してお客をつかむ、競争者が現れたら料金を下げることであった。価格でしか差別出来ないユーティリティに規模の経済性がある場合は独占を認め公正報酬率規制を行う。かつての電話は技術的不可分性あるネットワーク供給財の故に、米国のような「事実上」であれ西欧諸国・日本のような「法定」であれ、規制下の独占であった。

 しかし、DSLや光ファイバ通信に加え、電話会社やケーブルTV会社をバイパスする無線技術が進展して伝送路選択が豊かになり、音声・データ・画像・映像如何なるディジタルトラフィックもモード変換し送受するインターネット技術の確立に伴い、基本的に規制は不要になり、値下げ競争のなかの差別化によりブランド戦争が起きるという素朴な議論である。

 FCCはIP電話規則制定審理を行ってきており(2004.12開始)「IO電話の規制権限は連邦にあり州政府による規制は予め排除する」と宣言したが(2004.11.9発表)、AT&T分割に伴い派生したユニバーサル基金や電波監理制度、プライバシー/セキュリティ確保・テロ対策や緊急通報サービス制度などの例外を除き、テスト的にVOIPの提供を自由競争に委ね市場のインパクトを見る方法は考えられよう。

 世界の現状は、(1)一元的・集権的管理組織不在のまま全地球的に普及しているインターネット、(2)新IPネットワークを構築しつつある既存基軸通信事業者、(3)各種端末を開発・提供しつつあるさまざまなベンダー、(4)国、事業者団体、利用者団体、専門家集団などさまざまなレベルの組織などの主体が存在しており、既存の国家や国際組織が在り方をそれそれ個別・専門的に求めてなかなか答えが出ない中世的な21世紀である。
セルフ・ガバナンスの理念によって導かれる複合組織を創出するしかないのではないか。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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