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マンスリーフォーカス
No.79 February 2006

世界の通信企業の戦略提携図(2006年2月7日現在)

234. オールド・メディアの経営合理化(概要)

 米国企業の2005年第4四半期決算が10四半期連続二ケタ増益を記録したものの景気軟着陸の見通しが微妙な時、停滞の続く大手メディア企業への不満が高まっている。

 2005年11月末現在のオールド・メディア三社;ニューズ社、コムキャスト、ウォルト・ディズニーの時価総額合計$1,092億は新進ネット検索広告企業グーグル一社の時価総額($1,196億)より低い。これを見て或る投資家は伝統的メディア企業から投資ファンド$10億の2/3をピラシー対策ソフト開発・パーソナル・ビデオ・レコーダー製造などの途上国企業とグーグルに移したという。

ヴァイアコムのCBS分割

 グローバルメディア企業ヴァイアコムの2005年第3四半期決算は売上高が対前年同期比10%増の$59.4億、最終損益が前年同期の赤字$4.87億から+$7.85億に改善された。2005年3月発表・2005年6月決定分割計画による新ヴァイアコム予定部門;ケーブルチャンネルと映画制作はケーブルチャンネル売上高対前年同期比15%増の$16.5億、営業利益対前年同期比11%増の$6.8億と好調で、一方CBS予定部門;TV放送(CBS ・UPN)、CATV、地方TV放送局、ラジオ、屋外広告、出版、ディジタル・メディア、テーマパークは、TV放送の売上高対前年同期比2%減の$21.5億、営業利益対前年同期比19%減の$3.7億と格差が鮮明だった。
二分割は地上ネットワーク切離しによりヴァイアコムの再生を図るもので、分割手続完了()2006.1.1)に伴う新ヴァイアコム(VIA)とCBS社(CBS)のニューヨーク証券取引所登録により1月3日付けで分割企業が発足した。

 コングロマリットも低収益の構成単位は合理化する必要がある。特にハリウッドの映画ビジネスは2005年興行収入が2004年の7%減という見通しに各社一斉に人員削減や報酬見直しが始まった。ヴァイアコムのパラマウント映画もアニメ作品強化のため著名映画監督S.スピルバーグ経営のドリームワークスを$16億(債務引受け$4億含む)で買収することととした。買収資金の一部はドリームワークス作品所有権を外部投資家に売却して調達するかたわら、パラマウントの人員を一割削減するとしたところ、将来展望が開けたためヴァイアコム新株の株価は直ちに反応し時価総額が1月31日現在$293億から2月7日現在$328億に上がった。

 一方、CBSは、タイムワーナー( TWX)の地上波TV子会社ワーナーブラザース・エンターテインメント(WBE)とCBS傘下の地上波TVであるUPNの折半出資合弁事業設立を合意した。タイムワーナーは2005年度連結決算書(2006.2.1発表)に「WB ネットワークJV」と題して「新会社(CW )は2005/2006シーズン終了後(2006年9月)四大ネットワーク(ABC、NBC、CBS、FOX)に次ぐ第五ネットワークとして発足する、UPNの親会社WB ネットワークとの提携関係も調整する」と付記した。経営統合に伴い従来の番組供給先地方系列局UPN208、WB177は重複地域を中心に整理が進められる。コスト削減の見通しは直ちに株価に反映し、2月7日現在CBS時価総額は$201億となった。

 新ヴァイアコムとCBSの2006年2月7日現在時価総額を単純に合算すると$529億となり、分割前ヴァイアコムの時価総額が5割上がったことになる。

ウォルト・ディズニー社の経営革新

 ウォルト・ディズニー社はアニメ作家ウォルト・ディズニーが1923年に創業、1928年ミッキーマウスで成功して1955年にディズニーランド開業とエンターテインメント一筋できたオールド・メディアだったが、1996年三大放送ネットのABCと親企業キャピタル・シティーズを$190億で買収したのを契機に、(1)TV放送(2)ケーブルチャンネル(3)ディズニー映画(4)ディズニーパーク(5)ディズニーストア(6)インターネット通販と広がるメガメディア指向になった。対外発表の会社情報では2年前にコムキャストから敵対的買収を仕掛けられた時の会長兼CEOマイケルD.アイズナーが今もCEO、社長兼COOボブ・アイガーと記載されているが、社内情報ウェブではアイズナー名は見当たらず、アイガーが取締役会表に2000年就任とあり、経営チーム表に社長兼CEOと記載されている。アイガーはABC時代からのアイズナーのNo.2だった人で、エコノミスト誌最近号(Economist 2006.1.21)によれば、既に2005年に最高経営責任者になっているようだが、20年かけて築き上げてきた遺産を変えない守りの人柄として後継者に選んだと見られいた。

 ところが、ディズニー社の2005年9月通期業績が売上高は対前年比3.4%増の$319.4億なのにアニメを含むディズニー映画の営業利益が対前年比69%減の$2億と落ち込み北米映画興行収入順位が2003/2004のNo.3からNo.4に下がった現実を前に、アイガーCEOは思い切った決断をした。アニメ制作小企業ピクサー・アニメーション・スタジオを$74億相当の株式交換(ピクサー1株にディズニー2.3株を割当てる)で買収することとしたのである(2006.1.24合意)。ピクサーは長編アニメのヒットにより2004年売上高$2.7億で純利益$1.4億と儲かっているだけでなく、映画監督G.ルーカス設立プロダクションのCG制作部門をアップル創始者スティーブ・ジョブスが買取りCGソフト開発を行ってきた異色企業で、人間操縦にたけたアイズナーに仕えて隠れていたアイガーのリーダーシップが成功するか注目される。

 アイガーCEOは引き続きABCラジオ部門と中堅ラジオ局シタデル放送との合併を発表した(2006.2.6)。2006年末完了予定の合併は事実上の売却で、ブランド力あるESPNラジオとディズニーラジオは残しニューヨークやロサンゼルスの22AM/FM局と番組制作部門を手放し&27億を得る。同時にディズニー社2005/2006年度第1四半期(2005年10-12月)業績が発表された。売上高は対前年同期比2%増の$88.5億ながら純利益は対前年同期比7%増の$7.3億で、ディズニー映画の営業利益は対前年同期比60%減と振るわなかったが、TV放送とディズニーパークの業績が好調だったので、ディズニー株価が反応し、時価総額が1月31日現在$487億から2月7日現在$514億に上がった。

2005年から2006年にかけ情報通信界はIT大融合に揺れ動いていくと言われる。これまでの1年の動きを確かめる視点で次表を掲げる。

表:世界の情報通信サービスプロバイダーTOP30社(2006.1.31現在)

 グーグルの1月31日現在時価総額$1,278億は、同日発表された2005年10-12月期業績が売上高対前年同期比86%増の$19.2億、純利益対前年同期比82%増の$$3.7億と好調にもかかわらず、実質一株利益がアナリスト予想を僅かに下回ったことによる成長期待への反動からか2月入り下がっている。また、2月1日発表2005年10-12月期業績の純利益が対前年同期比21.2%増の$13.6億だったタイムワーナーの株価は逆に上昇し1月31日現在時価総額$817億が2月7日現在$826億に上がっている。敵対的買収で著名な投資家C.C.アイカーンから「映画、TV番組制作を残してケーブルTV、出版、ネットサービス(AOL)を切離す四分割案」が提起され(2005.11.29発表)、タイムワーナーとAOLの資本・業務提携も合意されている(2005.12.20発表)折から5月株主総会に向け今後の推移が注目される。

235. グーグルの中国市場進出(概要)

 世界一の検索エンジン企業グーグルの中国市場進出アプローチが最近2001年以来の米国サーバー・アクセス(Google.com)に中国内サーバー(Google.cn)と複線化したため、有害情報規制とプライバシー・人権・検閲などの視点から論議が始まっている。変転する中国社会でもプライバシー権利意識は高まってきている。

.comサーバーから.cnサーバーへ

 世界のインターネット利用者は毎日5億問ほどクェリーをネット検索サービスに出し、グーグルなどの検索エンジン企業がオンラインの通り道・フィルターになっている。グーグルの場合80億以上のウェブ・ページ(うち画像10億頁以上)が検索対象で、1981年以来10億以上のメッセージを集めた世界最大のUsenetアーカイブを調べることもできる。インタフェース言語は100以上、検索結果の表示言語は35で中国語は在来形(繁体)と(簡体)の2種類があり、翻訳機能も備えている。

 中国のインターネット利用は、WTO加盟に伴う通信自由化並びに情報管理体制整備により国際接続によるグーグル米国サーバー・アクセス(Google.com)が始まり、利用者がISPに英語でアクセスし中国語検索エンジンを駆動できるようにになった。しかし検索対象がポルノサイトだと公序良俗違反、人権・民主主義・天安門等の問題語だと反体制取締を理由にブロックされたり、クェリーと無関係の検索結果が返されたり、長時分チェックによる遅れに悩まされてきた。そこでグーグルは中国語でアクセスできる国内サーバー(Google.cn)を設置した(2006.1.25サービス開始)、エコノミスト2006年1月28日号は記事「ここでは竜になれ」で「グーグルは啓蒙主義的自己検閲方法により中国市場に進出する」と前置きして国内サーバー設置の経緯と狙いを紹介している。啓蒙主義とは、周知の通り、17-18世紀ヨーロッパで全盛に達した思想であり、合理主義にもとづき古い思想を打ち破る考え方を指すが、ここでは創業者の一人L.ページ)が「アルゴリズムの神の使徒ラウレンティウス」と綽名されるほど、合理主義に徹するグーグルが中国体制に適応するために編み出した新しい自己規制を意味するものと思われる。

 2001年に余り知られていない検索エンジンGoogle.comアクセスが始まった時、中国の人権運動家は国家検閲を避けて通る最重要な手段ができたと歓声をあげた。グーグル・サーバーに蓄積された北京筋禁止コンテンツにアクセスできるからである。グーグルは散発的にブロックされ、特定機能の停止を指導されたり、特定アドレスを中国通信事業者ルーティングにより国内別ウェブに導かれたりした。連続するイタチごっこはグーグルが「竜の棲み家」に飛び込んで終わった。グーグルの検索エンジン競争相手は中国の百度(Baidu.com)(中国検索市場シェア40%、グーグルは30%)、ヤフー、MSNである。利用者が1億を超え世界で最も速く伸び儲かる中国インターネット市場で、「悪をなすなかれ」を社是とするグーグルが"魂"を裏切ることなく商売できるだろうか?

 グーグルは中国政府筋と合意して問題ウェブは検索対象から除き検索リストには差し止められた情報アクセスを利用者に開示する。これはグーグルが他の国でコンテンツ規制に対応するのと同じやり方である。フランスとドイツではナチス・サイトが禁止されているのでグーグルは情報アクセス利用者に止められていることを開示している。米国では著作権侵害の恐れあるコンテンツをウェブから除いている。グーグルはこうした開示は欧米のサイトでは当たり前になってるが、中国サイトにメッセージをつけることは透明性を増すため重要なステップで、競争相手がやらないアプローチとしている。グーグルは最小限のサービスから始め、Eメール、ブロッグ、社会ネットワーキングは利用者にプライバシーを保証出来ない恐れがあるので提供しない。グーグルの基本は間口を狭めて中国市場に参入することである。ニューズサービスにしても政府公認メディアの報道に限っている。勿論グーグルの将来選択はオープンで、Google.comを継続して中国語ウェブに磨きをかけるなど中国語サーバー開発に努め、アクセスに少々待たせても検閲の少ないサイトを望むユーザに利用させる方針である。

有害情報規制とプライバシー保護

 グーグルの中国内サーバー(Google.cn)設置が明らかになると「中国政府の監督下におかれ検閲フィルターを通す検索は言論の自由・プライバシーを侵害する」「グーグルは豊かな中国市場に目が眩んで人権を犠牲にするのか?」との批判が相次いだ。たまたま米国司法省が「青少年オンライン保護法」実施状況調査のためグーグルに個人の検索情報を提出するようカリフォルニア州サンノゼ連邦地裁(グーグル本社近く)に訴えを起こした(2006.1.18)ところだったので、国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」がグーグル社是「悪をなすなかれ」を記したプラカードでデモるなどマスコミニュースにクローズアップされた。

 グーグルの異議をいち早く伝えたのは地方紙サンノゼ・マーキュリー・ニュースだったが、改善されないイラクの治安、2001年テロ対策法への疑問、流動する米中露関係などが影を落とすワシントンから見てもタイミングは悪かった。
司法省の訴えは、通信自由化の基本を定めた1996年連邦通信法に盛り込まれた猥褻・暴力情報規制=いわゆる「通信品位法」が違憲とされた(1997.6.27判決)ため修正立法された「1998年青少年オンライン保護法」に、連邦最高裁がまたしても2004年に違憲判決を下し表現の自由に抵触すると修正を求めたことから、ネット上の有害情報を規制する法律の有効性を示すため2005年8月に有害情報の実態をつかむ目的でネット検索サービスに利用記録などの提出を求め、AOL・ヤフー・MSNは提出命令に従ったのにグーグルが「利用者のプライバシーを侵害し企業秘密も流出する」と拒否し続けたため起こされたものであった。このような背景のサンノゼ連邦地裁の訴えから「米国政府を拒否するグーグルが中国政府に従うのか」との批判の図式が生まれたのである。

 しかし国境なき記者団によれば、ヤフーはこれまでに中国警察に情報提供を行ってきており、地方政府の腐敗をネット上で告発した公務員が国家転覆罪に問われた例があるという。一方、マイクロソフトは国外で提供するブロッグ・サービスについて外国政府が内容の法律違反を指摘してきたら閉鎖する方針を定めている。米連邦議会では米国インターネット企業の中国事業について調査を要求する声が上がっている。

 欧米法治国家の制度から見ると中国は理解し難い国で、中国人のプライバシー権利意識もあいまいに見える。元来中国の言葉でプライバシーに相当するのは”インシ"だが、文字に「陰私」と「隠私」があり、後者がそれだが「認められてない秘密」「自己中心的、陰謀の匂いがする行動」の言外の意味があるという。要するにプライバシー概念は中国の伝統になかった価値であり、実情の卑近な例では、今でも農村に行けばどこにでも開けっ広げな厠が見受けられる。欧米社会では親友でも打ち明けない給与・体重など日常生活の細部が初対面の中で尋ね合うという。1949年共産中国建国以来の国家統制、伝統的価値を破壊した文化大革命の混乱を経て、急速な経済発展のなかで中国人のプライバシー権利意識は高まってきている。中国人は今や「詮索好きな雇い主」「生活習慣をつつくマーケティング屋」「至る所に据付けられた監視カメラ」に憤然とし始めたようである。

236. タイ電気通信事業の変革(概要)

 タイ王国は大多数がタイ語を話しタイ文字を使うタイ族からなり、東南アジアで唯一西欧支配下でなかった国。1932年の無血革命で立憲君主国となり今の元首プミポン国王(ラーマ9世)は1946年6月即位され在位59年に及ぶ。2005年現在の人口は655万、GDPは$1,807億で、1997年危機から回復後は2001年2.1%、2002年5.4%、2003年6.8%、2004年6.2%と経済成長を達成している。電気通信は2005年末現在、固定電話702万、携帯電話3,010万、合計3,712万で普及率100人当たり56.82と、シンガポールやマレーシアほどではないが、ラオス、カンボジア、フィリピン、インドネシアより発達している。

 最近、国家電気通信委員会(NTC)はタイ電気通信市場競争関係規則(コード)を9月発効を目標に策定中で、K.ソンバシリ事務局長代理は「規則は電気通信市場の独占と外国事業者による地方電気通信企業の支配を防ぐことを目標に、コンサルタントの協力を得て作成中で、2月16日にNTCとタイ証券取引所(TSE)、証券取引委員会(SEC)等関係機関と協議のうえ第一草案を得て2月20日公聴会を開催し、第二草案を5月までに完成する予定である」と語った(2006.2.10)。代理は「競争が今後厳しくなり、自由貿易協定(FTA)による外国勢参入の一部は既に現実になっっている」と述べた。
確かにタクシン首相の一族保有の通信関連持株会社シン・コーポレーション発行済株式49.6%が、シンガポール政府財務省直轄投資会社テマセック及び地元などの証券会社5社; SCB,KGI,Phatra,Trinity,Nationalに'$18.7億で売却された(2006.1.23発表)。またタイ携帯電話市場シェアNo.2のトータル・アクセス・コミュニケーション( TAC)はシンガポール証取(SSE)に1995年10月上場のうえ2000年5月株式の29.94%をノルウェーの既存電気通信事業者テレノール(Telenor SA)に売却している。

 NTCは携帯電話加入数は1992年の40万から2005年の3,010万と飛躍的に伸びたが、近年の著しい成長を峠に今後はフラットな伸びになり、2009年3,665万加入と予測している。固定系加入電話も1993年の221万から2005年に702万まで伸びたが今後は益々携帯電話に圧迫されると見ている。

 タイ携帯電話市場シェアNo.1(55%)は、タクシン首相が政界入りする1983年に設立したシン・コーポレーションが1986年に設立したアドバンスト・インフォ・サービス(AIS)で、通信企業グループの旗艦として稼ぎ頭であり株主No.2はシンガポール・テレコム子会社(保有株式19%)である。グループNo.2は衛星通信企業シン・サテライト、以下独立テレビチャンネルiTV、インターネット・サービス・プロバイダーCS Loxinfoと続く。

 恐るべき成功を収めたビジネスマンが政治家に転じ初の選挙(2001.1.6)で政権を取ってから政界を作り替え、4年後の選挙(2005.2.6)で圧倒的勝利で首相として再選されたタクシン・シナワトラ氏が今数々の疑惑を投げ掛けられ、辞任要求の的になっている。これまでのマーケティング技法を超えた如何なる対応で切り抜け国政を進めるのか。近未来の推移と電気通信事業の展開が注目される。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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