ホーム > レポート > マンスリーフォーカス >
マンスリーフォーカス
No.81 April 2006

世界の通信企業の戦略提携図(2006年4月12日現在)

240. マイクロソフトと欧州委員会の対決(概要)

 創業以来三度目の変革=オンライン事業戦略の確立を目指すマイクロソフト(MS)は全社的方向転換を始めたばかりで、B.ゲイツその他幹部の言説を除くと、具体的変化はまだ外部の者には見えて来ない。EUの欧州委員会(EC)は基本ソフトWindows 2000競争法違反を認定し音楽・映像再生機能(WMP)を組込まないOSの販売/インターフェース情報開示等の是正を命じたが(04.3.24)、制裁金4.972億ユーロ($6.15億)は間もなく支払ったものの、是正命令をめぐるMS・EC法律家の対決は今なお続いている。

オンライン・ソフトに脅かされるマイクロソフトの中核事業

 マイクロソフトの年間売上高約$400億の半分以上と利益の大部分は、Windows OSとOfficeというただ二つの製品から生まれており、それが新技術に脅かされている。

 近着エコノミスト(The Economist 2006.3.30刊)記事「恐竜見っけ」はMSの次期基本ソフトWindows VistaとOfficeの広告を二匹の恐竜がモニターに首を伸ばしてる漫画に表わし、MSはサービス業務共同作業に新ソフトを使うオフィスワーカーは仕事が捗るので”無料”で売り込まれるアイディア商品組込み旧ソフトを問題にしないと強調している。エコノミスト誌は"無料オンラインソフト"を映すモニターが恐竜を見上げる形で実はマイクロソフトが前世紀の遺物かとあてこすってるようでもある。

 マイクロソフトが中核業務について直面するプレシャーは、かつてコンピュータと同義語だったIBMが直面したのと同じプレシャーである。1990年代始めIBMはコンピュータ界のメーンフレーム支配からパソコン点在の世界への移行に直面した。新しいコンピュータ界ではハードウエアは低利潤のコモディティと化しマイクロソフトのOSが特権的地位に就いたのである。今日マイクロソフトはなおパソコン市場を支配しているが、かつてのIBMのように地位が脅かされていることを知っている。

 マイクロソフトへの脅威はコンピュータの使い方を変えるオンライン・アプリケーションから来る。OS依存でマイクロソフト箱入り関連アプリケーション・ソフトを搭載して使うのではなく、コンピュータ・ユーザは必要なアプリケーション・ソフトをインターネット経由で入手できるようになってきた。アマゾン、グーグル、eBayなどがウェブ経由でサービスを提供するようにソフトウエア各社はウェブでアクセスで加入サービスのようにソフトを販売している。このような変化がマイクロソフトと競争したい企業の経済的・技術的参入障壁を低くしコンピュータ作業をコントロールする企業の利点を希薄にする。こうしたコンピューティングの移行の流れは市場に慣性が働くため永い時間がかかり、従ってマイクロソフトの支配的地位とWindowsとOfficeの驚異的収益力が続く。しかしマイクロソフトのオンライン競争者は明らかにマイクロソフトを脅かし始めている。

 最近グーグルはMSのWordの競争者になりそうなポピュラーなワープロ・ソフトを創造したライトリーを買収したが、オンライン競争者はマイクロソフトが太刀打ちできない迅速な開発・展開力を持つ者が現れ、マイクロソフトがWindows Vistaや次期Officeの発売時期を延期したりしている。技術調査会社フォレスターのG.コロニーはマイクロソフトが創業以来最大の挑戦に直面してるとして「B.ゲイツは商品にどう課金するか誰にも負けないが、商品を只で引き渡す者には頭に来る」と語る。

 こうしてマイクロソフトは昨秋から全組織を再編成し変革に挑戦しているが、新商品開発にはもっと前から取り組んでいる。2001年冬にXboxを発売し家庭用ゲーム機市場に参入したが、トップは「今後は自身で作り続けながらパートナー企業が別の付加価値を加えた機器を開発することに関してはオープン」とした。MSは今や中核製品に加入システム、ダウンロードする附加製品や広告を接木することを計画中である。最高技術責任者(CTO)の一人C.マンディ(Craig Mundie)は「ソフトウエア・ビジネスで儲けるには広告・取引・加入の三つの道がある」という。しかし或るMS経営者OBは「マイクロソフト社の問題は技術でなく経営だ。ビジョンはあっても道筋がない。頂上は見えるが麓をどう越えて天辺にたどり着くかが分らないのだ」とする。

欧州委員会のマイクロソフト聴聞

 EUの欧州委員会(EC)が基本ソフトWindows 2000競争法違反を認定し音楽・映像再生機能(WMP)を組込まないOSの販売/インターフェース情報開示等の是正を命じたのに対して(04.3.24)、MSは認定の是非を争う本訴を提起し是正命令の差止めを請求した。
是正命令の差止め仮処分請求がEC裁判所に附置された第一審裁判所で審理の上棄却された後(04.12.22)、ECはMSの競争法遵守とインタフェース情報相互運用可能性について話し合いを続けた。ECはMS提案の相互運用可能性市場テストを行い、競争法遵守状況調査者にコンピュータ科学専門家のN.バレット教授を任命し(05.10.5)、その報告書を参考に2004年11月10日に2003年EC規則第24条(1)に基づく決定を下し「完全で正確なインターオペラビリティ情報を提供し、その情報を合理的な条件で利用可能とし、2005年12月15日までに本決定に従わない場合は期日を超える1日につき制裁金200万ユ-ロを課せられる」との警告書をMSに送付した。MSは受託者バレット教授にインターオペラビリティ関係書類改訂版を送り(2005.12.29)教授と専門的面談を行った(2006.1.30-31)。またMSは「Windows Serverの設計情報(ソース。コード)をすべてライセンス開示する。我が社が保有する最も価値ある知的財産を提供する」と発表した(2006.1.25)。しかしバレット教授は「旧版情報より幾らか良くなったが技術参考資料として実質的に加えられたものはない」とする。

 ECはMSがWindows OSインターフェース情報開示等是正命令を遵守せず義務を果たしていないことを咎める書簡を競争法遵守状況調査者の報告書コピー同封でMSに送付した(2006.3.10)。ECは叉知的財産権評価・リバースエンジニアリング・訴訟支援会社TAEUS ヨーロッパに委託した調査報告書コピーも同封した。MSはECが実施するマイクロソフト聴聞を公開するよう請求したが、ECは法的手続は全て非公開であるとして拒否した(2006.3.14)。

 ECは競争法違反是正命令をめぐる問題でMSに対する聴聞を実施した(06.3.30-31)。第一日はバレット教授のMSは制裁措置を遵守していないとの主張とMS提出技術参考資料の有効性に関する大学関係者の証言・技術文書のライセンス供与を受けたメーカーの証言が行われ、第二日はIBM・オラクル・ノベルなどがMSはEC決定を遵守しないと証言しサンマイクロは無言だった。MS顧問弁護士トップのB.スミスは委員会の要求が極めて明晰に分かり聴聞は有意義だったと発言したという。J.トッドEC報道官はMSの是正命令遵守の判定について「資料や情報を詳細に分析するため数週間かかる」とする。競争法違反認定に対する本訴の4月予定審理の方が先になるかも知れない。

241. マードックはニューズ社をディジタル時代に適応できるか?(概要)

 Vivendi UniversalのJ-Mメシエ、BertelsmannのT.メッデルホーフ、TimeWarnerのT.ターナー、Walt DisneyのM.D.アイズナー、ViacomのS.M.レッドストーンなどがそれぞれのメディア・コングロマリットを去った後、News CorpのR.マードックだけは74才にして会長兼CEOの地位にある。しかしニューズ社とマードックは今伝統的メディア事業の二つの基本的課題に直面している。第一はインターネットの出現に対するメディアのあり方として叉コンテンツ配信の方法についてどうするかであり、第二はディジタル化と呼ばれる技術変化に対するニューズ社の最適資源配分をどうするかである。映画製作とTV番組制作はディジタル・ピラシー(digital piracy ディジタルコンテンツの剽窃)に脆弱である。TV放送事業はインターネットに広告収入を奪われている。衛星TV配信事業は強力なケーブルTVと新規参入者に直面している。ニューズ社が直面する挑戦は新聞事業に典型的に現れ項目別広告はがインターネットに脅かされ始めている。

 ニューズ社の衛星TV配信事業強化のため英国子会社BSkyBは2005年にブロードバンド・インターネット・アクセス企業Easynetを$3.85億で買収した。ニューズ社はインターネット市場参入のため2005年に$14億を費やして(1)音楽ビデオなどソーシャルネットワーキング・サイトMyspace.comを保有するIntermix Media、(2)カレッジスポーツ・サイトScout.com、(3)ビデオゲーム/エンターテインメント・サイトIGN Entertainmentの3社を買収した。今後3-5年毎年$5億-$10億投じると見られる。最先端分野に注力するのは良いが、投資銀行や金融格付会社筋は1990年代のインターネット・ブーム時マードックがなかなか熱狂に加わらず最後1999年に何億ドルも投じてドットコム部門ePartnersを始めたところでバブルが弾け1年あまりで店仕舞いした悪い記憶を思い出す。ニューズ社が始めたカルフォルニアの新サイトは急速にトラフィックを集めており、強力な社会現象の口火を切ったことを疑う者はないが、金儲けになるのかと問う者もいる。「年商$3億にでもなるか?」というと、マードックは5年もすれば年商$10億の上がりになるとする。

 問題はマードックの後継者である。3年半前他のメディア・コングロマリットのトップが苦境にある時マードックは債務処理・業績立て直しを終え、長女エリザベスは出産・育児で退いていたがニューズ社COO代理の長男ラクランとニューズ社執行副社長及びスター・グループ会長兼CEOの次男ジェイムスに囲まれ、静かに満足していた。しかし今はエリザベスはBSkyBから去ったまま、ラクランもニューズ社幹部と折り合いつかずに退き、33才のジェイムスはBSkyB CEOだがマードックの後継者には若過ぎる。現在マードックはニューズ社会長兼CEOでニューズ社グループCEOはP.チェルニン(Peter Chernin)であり、マードックの当面の代理者には困らないが、ルーパート・マードックが個性的に選択し創造したニューズ社は持ちこたえる者無く分割される運命と見る者が出てきた。

 世界の金融情勢が波乱含みなこともあって、世界の情報通信プロバイダー上位30社の番付を3月末で整理すると。次表の通りニューズ社は26位に下がっている。

表:世界の情報通信サービスプロバイダーTOP30社(2006.3.31現在)

世界の情報通信サービスプロバイダーTOP30社(2006.3.31現在)

242. 通信機器メーカー アルカテルとルーセントテクニロジーズの合併(概要)

 大手通信機器メーカーの仏アルカテルと米ルーセント・テクノロジーズが合併する(2006.4.2合意)。両社は5年前にも合併交渉を行い合意成立の寸前に破談となったことがある(2001.5.29交渉決裂)。フランスと米国の関係は常に暖かいものではなく、文化・政治的な不一致で凍りつくように大西洋越えのビジネス関係は冷ややかなことが多いが、専門分野が相互補完的で製造プラントも地理的重複が少ないので、市場縮小の電話交換部門を合理化しインターネットを含め伸びゆくネットワーク機器部門を協力して創出出来れば売上高世界一の通信メーカーに成れるだろう。

 ワシントンポスト紙資料によれば2005年売上高はアルカテル$166.1億、ルーセント・テクノロジーズ$94.4億、2006.4.12現在時価総額はアルカテル$208.4億、ルーセント・テクノロジーズ$133.6億である。通信専門家によればアルカテルは高速DSL回線機器製造・VoIビデオ伝送機器開発に優れ、ルーセント・テクノロジーズは無線機器が得意である。両社のマッチングは完璧で・・アルカテルの強い分野にルーセントが弱く、ルーセントの強いところではアルカテルが弱い。
従業員数はアルカテル(2005.9.30現在)55,718名、ルーセント・テクノロジーズ(2006.1.31現在)30,500名である。5年前に比べルーセント株は約5%価格に暴落している一方、両社合わせて23万名いた従業員は今や88,000名に減少している。現状のままの地理的分布では合併合意では規制当局の審査や合併準備に最大1年かかるとして、向う3年以内に管理部門の重複除去、調達・マーケティングの集中益などにより年$17億のコスト節減を実現することを申し合わせ、従業員数10%減を目標に新体制を確立することとした。

 フランスパリ本社のアルカテルと米国ニュージャージー州マレーヒル本社のルーセント・テクノロジーズが合併する新会社の名称は未定、本社はパリとし、アルカテルのS.チュルク会長兼CEOが会長に、ルーセント・テクノロジーズのP.ルーソーCEOがCEOに就任する。両社対等合併で話し合ってきたが、合併方式が時価による株式交換合併となったため、株価の差から新会社の株式の約60%がアルカテル、約40%がルーセント・テクノロジーズとなり、実質的にアルカテルによるルーセント・テクノロジーズ買収となる。ただ取締役会は両社同数6名づつの取締役として配意し叉両社で別に2名のヨーロッパ人取締役を任命する。5年前の破談が役員配分からと細かい配慮をしてるようだが周囲では却って上手くいかないとの見方すらある。

 もっと重要な懸案はルーセント・テクノロジーズのベル研究所に米国防総省と契約した特別の研究開発業務あり米国人だけの取締役会で管理する必要があること、またアルカテルにも出資先に防衛・電子機器大手タレス社があり、アルカテル宇宙部門をタレスが買収したため(2006.4.5発表)整序する必要の有無をチェックしなければならない。

 アルカテルとルーセント・テクノロジーズの合併が世界の通信機器業界にインパクトを与え後に続くかと言えば、通信コンサルタントOvumのJ.-C.ドアノウは「A-L合併は例外で、業界を合理化する最善の道は巨大合併より小規模の買収」とする。実際2005年には、エリクソンがマーコーニを買収し、シスコがサイエンティフィック・アトランタを買収し、ジーメンスは携帯電話機部門をBenQに売却した。このような事例は補完的買収、つまり小企業の技術が大メーカーに欠けている穴を埋めるものとして意義がある。通信機メーカーの巨大合併は運用上、戦略的に・政治的に上手く行かないとの見方である。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。