2002年2月号(通巻155号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<トレンド・レポート>

2002年のテレコム市場予測

 ビジネスウイーク誌(2002年1月14日)が恒例によって年初に掲載するテレコム市場予測の2002年版の概要を紹介する。なお、ここで言うテレコム市場には、通信サービスの他に通信機器市場が含まれている。

 結論はこうだ。1990年代の終わりに無茶苦茶な過剰投資で面目を失ったテレコム産業は、いまだに過剰設備の吸収が終わっていない状況だ。昨年のテレコム産業を混乱させた資金調達の困難、倒産、人員整理、財務目標の下方修正などは、2002年おいても解消しないだろう。何か起これば(注)、2002年のテレコム産業の状況はさらに悪化する恐れがある。

(注)早くも2002年1月28日に、米国光ファイバー構築・運営会社大手のグローバル・クロッシングが破産法11条の適用を申請した。負債総額は255億ドルで、米国企業の経営破綻では史上4番目の規模、通信会社の破産としては世界最大の規模である。さらに、同業業態のレベル3(負債総額62億ドル)やウイリアムズ・コミュニケーションズ(負債総額52.5億ドル)の経営危機が取り沙汰され、ワールドコムやクエストなどの株価も急落している。さらなる業界再編・淘汰が避けられない情勢だ(US telecoms industry faces more bad news: Financial Times インターネット版 2002.1.29)。

  テレコム産業は、2000年に頂点に達した通信会社の設備投資ブーム(米国では対前年比30%増の1,100億ドル)からの回復の過程にある。多大な光ファイバーの容量が供給されたが、需要が伴わなかったため過剰設備と製品在庫が積み上がり、破産に至った企業も少なくない。ABNアムロ銀行の調査では、世界中の多くの通信会社は2002年にさらに投資を削減する見込みである。グローバル・ベースでの2001年における実際の投資は、中国とラテン・アメリカでの増加で、2,740億ドルと僅か1%の減少(対前年比)にとどまった。しかし、2002年における通信会社の投資削減はさらに広がって、17%減少の2,280億ドルとなると予想している。

 通信会社の投資削減は、すでに赤字に陥っているノーテル・ネットワークスやルーセント・テクノロジーズのような通信機器メーカーに打撃を与えることになる。ルーセントは2001年12月に投資家に対して、2002年第1四半期の売上高は、予想を30%下回る31億ドルにとどまるだろう、と警告した。すでに50%を削減して約6万人となった従業員を、2002年にはさらに削減せざるを得なくなるかもしれない。

 通信会社の投資削減は、米国のハイテク部門だけでなく経済全体の回復を遅らせる可能性がある。通信会社は、ハイテク食物連鎖の大きな部分を占めるからだ。例えば、サン・マイクロシステムズにおける2000年の売上高の36%は通信会社によるものだった。ハイテク会社は通信会社なしでは高い成長を実現することは困難だ。一方経済は、ハイテク部門に多くを依存している。強気の(株式)市場が続いた間、(米国の)経済成長の30%はハイテク部門が生み出した。

 通信会社が資金調達にあたって信用を利用できるかどうかも、2002年において決定的に重要な問題だ。昨年は信用の窓が固く閉ざされ、新興の音声・データ通信会社のウィンスター・コミュニケーションズとテリジェントが破産に追い込まれた。最近、少なくとも大企業向けの信用供与では明るい兆しが見える。ルーセントは昨秋にユーロを含め17.5億ドルを転換社債で、またAT&Tは100億ドルを借 り入れで調達した。光ファイバーの新規参入会社のシエナでさえ、増資ができた。資金市場は記録的な低金利のうえに、有望な企業には窓を開いている。

 ワイヤレス産業は、新データ・サービスへの進出でブームとなり、日が当たる分野の一つとなるに違いない。高度化したワイヤレス・ネットワークはダイヤルアップ・モデム接続の速度(56Kbps)に匹敵する高速化を達成し、顧客は携帯電話やその他のモバイル・デバイスを使ってウェブ・サーフィングや電子メールの交換ができるようになるだろう。AT&Tワイヤレスはこれらのサービスを2002年末までに展開する。スプリントPCS、ベライゾン・ワイヤレスおよびシンギュラーにも同様の計画がある。AT&TワイヤレスのゼグリスCEDは、「我々はデータ・サービスを真剣に推進する。ユーザーはいずれ“ドコモの影響”が我々のビジネス・モデルを形成していることに気付くだろう。」と言っている。(日本のワイヤレス・データの先駆者であるNTTドコモは、AT&Tと提携関係にある

 2000年に急拡大して4億2,000万台となった携帯電話機の出荷台数は、2001年には3億9500万台(6%減、クリスマスの販売期間では16%減、推定)に減少し、ノキアを除く欧米のメーカーは赤字に陥った。しかし今年は状況が変わりそうだ。欧米の携帯電話メーカーは、ユーザーがモバイル・インタネットのプラットフォームやプロトコルの議論に飽き飽きしているということに気が付き、相次いで“The Fun Phones”を市場に投入し始めたからだ。デジタルカメラ、MP3プレーヤー、カラースクリーンなどの「楽しい」機能を搭載した携帯電話機が出回り始めた。新規需要の頭打ちで、市場が買替え需要にシフトしている状況では、“The Fun Phones”はニッチ市場であっても期待できそうだ(注1)。また、2.5世代のGPRSやCDMA2000-1xの展開が軌道に乗りそうな状況も追い風だ。これらの新製品やサービスの登場によって、2002年の携帯電話機の出荷台数は、4億3,500万台(10%増)に回復する見込みだ(ヤンキ−・グループの予測)(注2)。ただし、先行する日本や韓国のメーカーが欧州に進出し、競争はさらに激しくなるだろう。

(注1)Here Come The Fun Phones :BusinessWeek/January 21, 2002 同<"2"

(注2)ノキアが発表(2002年1月24日)した2,002年における世界の携帯電話の販売台数予測は次の通り。2001年の販売台数は前年比10%減の3億8,000万台(うち45%が買い替え)となった模様。2001年におけるノキアのシェアは37%(2000年は32%)に高まった。2002年の販売台数は10〜15%増の4億2,000〜4,000万台(うち55%が買い替え)。地域別にはアジア・パシフィックで15%増、南北アメリカで横這い、欧州で23%減。ノキアは世界で15%増の販売を見込む。

 消費者向けブロードバンド・アクセスも成長分野である。2001年末に米国の高速インターネット接続の加入者は倍増して約1,100万となった。2002年には、ブロードバンドで接続された米国の世帯数は約50%増加して1,700万となるだろう。

 今年のテレコム産業における最も重要な変化は、ワシントンが震源地となりそうだという。連邦通信委員会(FCC)のM.パウエル議長(ブッシュ大統領が指名)は、彼の前任者のW.ケナード氏よりも、規制緩和により積極的である。それ故、彼はより多くのベル電話会社に、より多くの州で長距離通信市場参入を認めるだろうと見られている。彼はまた、市内回線を競争相手のDSL設備と共用するようベル電話会社に強制することにも消極的である(注)。このことは競争の促進にはならないかもしれないが、ベル電話会社が自社のDSLサービスの展開を積極的に推進することに役立つだろう、と同誌は書いている。

(注)FCCは2001年12月に、地域ベル電話会社に適用されているアンバンドルド・ネットワーク・エレメント(UNE)規則の見直しとドミナント/ノンドミナントに関する現行の規制の仕組みを、同様の文脈でブロードバンド・サービスに拡大適用して良いか、などの検討を開始した。

本間 雅雄
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