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<トレンドレポート>
グローバル・クロッシングの破綻とその波紋2002年1月28日に、光ファイバーの構築・運営会社大手のグローバル・クロッシング(本社英領バミューダ)は、破産法11条(会社更生法に相当)の適用を申請した。負債総額は124億ドルで、米国企業の経営破綻では史上4番目、通信会社の破産としては世界最大の規模である。「米AT&Tは最初の海底電話ケーブルを設計・敷設するのに、30年の歳月を要した。片や16万kmの光ファイバー網を世界中に敷設したグローバル・クロッシングは、会社を設立して巨額の資金を集め、敷設作業を行い、今年1月末に経営破綻するまで、5年もかからなかった。」と英エコノミスト誌は書いている。(注) (注)Survival of the slowest The Economist (February 2,2002) グローバル・クロッシングの台頭と破綻グローバル・クロッシングは元ジャンク債のセールスマン(Drexel Burnham Lambert Group)のウイニック氏によって1997年に創業された新興企業である。最初のビジネスは米国と欧州を結ぶ海底光ケーブルの設置だった。それまでの海底ケーブルの敷設は、既存の大手通新会社がコンソーシアムを結成して行う、一種の(仲良し)クラブ事業だった。グローバル・クロッシングは単独で事業を計画して出資者を募り、最新の技術を導入して競争他社よりも価格を抑えることで成功を収めた。インターネットの勃興とともに高速データ通信の需要が急拡大したことも追い風になった。 ウイニック氏は、グローバル・クロッシングはこの新市場で動きの鈍い既存大通信企業を出し抜けると考え、この成功をグローバルな規模で繰り返すことに賭けた。投資家や銀行も、同社が通信業界の巨人を倒すのに巨額の資金を提供した。しかし、他にも同様のビジョンをもったレベル3、クエスト、ウイリアムズなどの新興通信会社が相次いで参入し、既存の大手グローバル通信会社も追随した。一方、毎年75%伸びると見られていたインターネットの通信量は、ドット・コム企業の倒産が相次いだこともあって、現在は30〜40%の伸びにとどまった。(注) (注)Telecom lenders; standing in line for what? BusinessWeek(February 11、2,002) その結果、光ファイバー網は供給過剰(一説によると稼働率5%)に陥り、同時にハイテク不況で企業や個人がIT(情報技術)投資を抑制するようになると、料金が急落し通信業界の経済環境は一転して悪化に転じた。「グローバル・クロッシングがサービスを開始した時、顧客企業は世界最速の通信回線をリースするのに年間数十万ドルを支払った。今日では当時の9倍の容量を持つ回線を、10分の1の料金でリースできる。」(注)ようになっただけでなく、通信回線容量の取引を時間単位で仲介する事業(例えばエンロンなど)まで出現した。 (注)前掲 The Economist 料金決定権を失い大幅な減収に直面した光ケ−ブルのインフラ所有会社は、企業の通信網の管理を受託するサービスの提供へと経営の方向転換を図ろうとした。グローバル・クロッシングも、このようなサービス事業を中心に経営の改革に悪戦苦闘する過程で、最高経営責任者が5人も変わった。しかし、同社が誤りに気付いた時は、すでに手遅れだった。以下に、これらの相次ぐ通信会社の破産が広げる波紋を3つ紹介する。 通信会社の株価が急落第一は、グローバル・クロッシングの破産申請に怯えた投資家が、疑問ありと思われる通信会社の株式を売り急ぎ、ウイリアムズ・コミュニケーションズ、タイコ・インターナショナル(コングロマリット、海底光ケーブル網を運営、その後破産を申請)、ワールドコム、クエスト・コミュニケーションズ、スプリントなどの株価が軒並み大きく値を下げている。世界の主要通信株からなるFTSE通信株価指数は、年初から約2割下げて、最安値圏に下落している。(本文末 参考 参照) 米国の銀行はITブームに乗って1999から2001年にかけて、3,200億ドル以上の資金を通信会社に投資したが、テリジェント、ウインスターおよび360ネットワークスの新興通信会社の破産法申請に続く今回のグローバル・クロッシングの破綻は、さらにXOコミュニケーションズ(負債額45億ドル)などに波及する可能性を孕んでいる。 最悪のケースでは、銀行の損失は1,500億ドルに達するとみられており、10年前における米貯蓄銀行(セービングズ・アンド・ローン)危機の際における銀行の損失1,500億ドルに匹敵するかもしれない、と危惧されている。勿論、当時に比べれば銀行の引当も手厚く、貸し付け方法も多様化しており、当時のような金融危機が再来することは考えられないが、相次ぐ通信会社の破綻による損失によって、銀行は多額の不良債務の償却を余儀なくされ、将来の利益を確実に減らすことになるだろう。昨今ようやく、米国経済の底入れが期待される中で、不安材料の一つに挙げられている。(注) (注)前掲 BusinessWeek 不正経理事件への発展第二は、不正経理事件への発展である。すでに、グローバル・クロッシングは収益水増しの疑いで米証券取引委員会(SEC)とFBIの捜査を受けている。さらに、クエストや英ケーブル・アンド・ワイヤレス(C&W)、KPNクエスト、フラッグなどにも同様の問題があるようだ。新聞などの報道によると、(1)通信会社が相互に自社の通信回線の空き容量を長期リースする(キャパシティ・スワップ)(2)相手から受け取る長期リース料を当期の売上高に一括計上する (3)費用には相手に支払うリース料を分割計上する、という方法がとられているという。この会計処理は米国では認められないが、欧州では必ずしも違法とはいえないという説もある。C&W、クエストやKPNなどは、実際に回線の相互売買があったことを認めたうえで、通信事業を展開するうえで欠かせない通常の取引であると強調している。しかし、欧州の監督当局も実体を伴わない取引の疑いがある、として調査を開始している。 会計不信が通信会社に集中しているのは、競争が激しく業績を少しでもよく見せようとする企業が多いからだ。しかし、より根本的な問題としては、国際データ通信の分野では競争の激化で、利益を安定的にあげられる企業が見当たらないことにある。破産したエネルギー商社のエンロンやコングロマリットのタイコも簿外取引で発生した損失を隠した疑いを持たれ捜査を受けている。グローバル・クロッシングの会計監査を担当したのは、エンロンと同じアーサー・アンダーセンであり、米国発の会計不信が高まっている。(注) (注)Telecoms slump leaves questions about revenues :Financial Times online版( February 12,2002) 新興通信会社の破綻は旧勢力のチャンス第三は、破産したグローバル・クロッシングの売却に関する問題である。同社は破産法11条の申請を行った後に、ハチソン・ワンポア(香港)とシンガポール・テクノロジーズ・テレメディアの2社に持分の79%を7.5億ドルで譲渡する再建計画を公表した。この計画によれば、124億ドルの債権者は現金で3億ドル、新会社の負債もしくは株式で8億ドルを受け取るが、現在の株主には補償を行わない。一方、現在の経営陣はそのまま新会社に移行して経営に携わり、新会社の株式の10%を保有することになっている。 この案に対し不満を抱く株主グループは、2月22日に、破産裁判所に異議を申し立てた。株主グループの提案は、同社に一定期間経過後に株式に転換できる55億ドルの社債の発行を求め、それを旧株主が購入することで負債を軽減し、今後も発行済み株式の37.7%を確保するというものだ。株主グループは、3月末までに株主3万人の賛同を得たい考えだが、多くのアナリストその実現を疑問視している。これに対してグローバル・クロッシング側は、再建案は買主の判断によるものだと主張し、予断を許さない状況だ。(注1)それにしても、世界中に16万kmの光ファイバー網を持つグローバル・クロッシングの経営権を、7.5億ドルで入手できるかもしれないというのは驚くべきことだ。(注2)(注1)How to leave your investors fuming :BusinesWeek (February 25,2002) (注2)アジア・グローバル・クロッシングは独立した会社であり、今回のグローバル・クロッシングによる破産法11条の申請には含まれておらず、別途の再建策に取り組む予定。しかし、2000年第4四半期の決算公表が遅れると最近発表したが、その理由は不明。(Global Crossing’s Asia unit delays release of earnings :The New York Times/February 16,2002) 「この話が皮肉なのは、通信業界の旧態依然としたオールド・エコノミーの巨人が結局は荒稼ぎしそうだ、ということだ。自社の光通信網の構築に、余りに動きが遅く、慎重だったために、これらの会社は先行した競合会社から格安価格で回線をリースできる。しかも、企業がITブームに乗って1990年代に買い込んだ機器を活用したいと躍起になっており、ネットワーク・サービスの需要は顕在化しつつある。AT&Tなどは、自社がこれにぴったりの人材を抱えていることに気付き、1月23日から、一部を競合他社からリースする自社のグローバル・ネットワークを基盤として、独自のネットワーク管理サービス・パッケージの提供を開始した。(中略)このレースでは必ずしも、最も遅いものが最後にゴールインするわけではないようだ。」(注) しかし、欧米のマスコミの記事を読んだ限りでは、このレースの中に日本の通信会社が全く登場しないのは残念の限りだ。 (注)前掲 The Economist <参考>米国の主要な通信会社の株価の推移
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本間 雅雄 |
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