2002年5月号(通巻158号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:移動通信サービス>

全米各地で無料コミュニティ型WLANの草の根運動が活発化

 日本国内のIEEE802.11bを利用したWLANサービスは、MIS(Mobile Internet Services, Inc.)のgenuineや、NTTコミュニケーションズのHi−FIBEなど、既に普及の兆しが見られるようになってきた。これらのサービスは、その導入実験期間のみ無料モニターを募集し、その後は定額料金制などに移行する。つまり、WLAN技術の商用化が目的だ。米国では現在、日本と同様にこうした有料WLANサービスが多数存在する一方、各地に無料コミュニティ型WLANの敷設が相次いでいるという。個人やNPOが同技術を利用した無料コミュニティ・ネットを構築し、それを一般の人々に開放する、いわば草の根運動である。本稿では、その無料コミュニティ型WLANの誕生の背景と現状を概説する。

 米国における無料コミュニティ型WLANの発祥の地はネバダ州ブラック・ロック・デザットだとされる。2000年、カウンターカルチャー・フェスティバルがこの地で行われ、当時入手可能だった数少ないワイヤレス・アクセス・ポイント製品を使い、フェステバル参加者のためのPlayaNetと呼ばれる無料ワイヤレスPCネットワークが構築された。同ネットは、ブース内に設置された複数台のPCを無線接続しただけのもので、インターネットに接続されていたわけではない。単に同ネットを介して参加者同士のメッセージングが出来るというだけだった。フェスティバル後、このワイヤレス・ネットの存在が口コミで広がり、ネットワーク管理者のところへ、ワイヤレス・ネットの敷設方法を教えて欲しいというメールが舞い込むようになった。時が経つにつれ、個人でも購入できる価格帯のWLAN関連製品が相次いで発売され、無料コミュニティ型WLANがここに来て一気に広がったというわけだ。以下に、現在米国に散在する無料コミュニティ型WLANの内、5例を列挙する。

(1) シアトル:www.seattlewireless.net 地図
(2) サンフランシスコ:www.sfwireless.net
(3) デンバー:www.milehighwireless.net
(4) ヒューストン:www.houstonwireless.org
(5) ニューヨーク:www.nycwireless.net

 さて、一口に無料コミュニティ型WLANといっても、それぞれが様々な目的と運営形態を持っている。教育目的のネットもあれば、奉仕の精神にのっとった理想主義者によるネット、果ては地域ISPや電話会社の打倒を目指す輩まで存在するという。その中でも、上記の (5) nycwireless.netの趣旨は我々にもわかり易い。インターネット・アクセスを提供することは、公衆の利用する場所の魅力、または、私有財産の商業価値を高めることができるため、それらの場所の関係者を、スポンサーとして募ることにより、無料でWLANサービスを提供しましょう、というわけだ。ただ一つ気になるの点は、これらの無料ネットが商用サービスを脅かす存在になるという懸念である。この点に関しては、無料ネットは、あくまでも特定の人々がボランタリー・ベースで集まって提供するものであるため、プロフェッショナルに設計・運営されているサービスには到底太刀打ちできない。つまり、ビジネス・マンが仕事で使えるレベルのサービスではないという意見が一般的だ。それにしても、この無料コミュニティ型WLANは、個人にも安価で簡単に敷設出来るため、今後日本にも飛び火する可能性は十分にあろう。

移動パーソナル通信研究グループ
リサーチャー 松尾 拓也

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