2002年12月号(通巻165号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<トレンドレポート>

成長と変化を続ける中国の通信市場

 中国では、7つの事業者が電気通信サービスを提供しており、その加入者数を急激に増やしている。中でも携帯電話加入者数は2002年6月末現在で約1億8千万人と、既に米国を抜いて世界最大となっている。しかし普及率で見ればまだまだ低く、依然としてひと月あたり400〜500万の新規加入者を獲得し成長を続けている。現在、中国移動通信と中国聯合通信との間で激しい競争が繰り広げられているが、今後は中国最大の通信事業者である中国電信が移動通信市場に参入することも考えられ、同市場における競争は今後ますます激しくなると予想される。また、世界貿易機関(WTO)への加盟により外資の参入も徐々に認められ、電気通信市場を段階的に開放しようとしている中国政府や同市場への参入を目指す海外企業の思惑が絡み合っている。本稿では、中国通信市場の規制緩和や主要通信事業者などの動向について概観する。

WTO加盟と規制緩和
 中国は2001年12月のWTO加盟以後、様々な分野において規制緩和や国際基準に沿ったルールの策定を図っているが、電気通信もその例外ではない。通信関連の規制機関である情報産業部(MII)は2002年9月11日、電気通信事業者6社に対して基本電気通信サービス以外の39分野の料金改定を非規制化することを通知した。これは同年7月6日のガイドラインに従ったもので、これによりキャリア各社は省管理局に改定料金を報告するのみでよくなった。非規制化される39のサービスには携帯電話の国内外長距離自動ローミング、インターネット・アクセス、固定および携帯電話のデータ・サービスなどが含まれている。ただし、固定回線の国内長距離電話の基本料金ないし携帯電話料金には規制が存続する。また、北京市などにおいて外資企業による携帯電話の付加価値業務が許可された。同市通信管理局の規定によると、付加価値業務を行う企業に対し同局が有効期限5年の許可証を発行するという形をとる。サービスの価格については基準を設けないが、企業に対しては価格の報告を義務づけるとともに、勝手な価格変更を禁じている。同制度の実施により、外資企業がショート・メッセージやモバイル・インターネットなどのサービスを競って開始している。その他、中国電信業務開放スケジュールは図表1のとおり。

中国電信業務開放スケジュール

中国移動通信(チャイナ・モバイル)
 中国移動通信は、中国電信が3つの会社に分割されるのに伴い2000年4月に発足した、中国最大かつ世界で最も多くの加入者を有する移動体通信事業者である。中国移動通信が中国国内18の省と自治区を、そして子会社の中国移動通信(香港)が残りエリアについてサービスを提供している。なお、中国移動通信(香港)は 1997年9月、香港で法人化され同年10月に香港およびニューヨーク市場に上場している。中国移動の動向で最も注目されるのが、ボーダフォンとの提携である。ボーダフォンは2002年5月、中国移動通信(香港)の新株獲得に7億5千万ドルを投資し、同社への出資率を2.18%から3.27%に拡大した。中国移動通信(香港)は、新株の発行で得た資金により親会社から中国8地方のGSM通信事業者を買収した。ボーダフォンは、今回の出資をユーザー数で世界最大の中国市場への進出拡大と位置付けており、長期的には中国移動通信(香港)の株式の20%取得を目指しているという。なお、ボーダフォンは既に北京に事務所を開設しており、同社と料金請求や顧客関連マネージメント、ネットワーク技術サービス、マーケティング並びに新製品開発等の分野での提携も強化していく方針である。また、中国移動は2002年10月、MMS「彩信」の正式開業を発表した。ARPUの向上とハイエンド・ユーザーのつなぎとめが狙いである。MMSの料金は1通0.9RMBとSMS(1通0.1RMB)に比べ高価だが、世界的に見れば非常に低く抑えられており、コストを度外視してまず新サービスの普及を優先する様だ。なお、2002年上期に中国移動の加入者が送ったSMSの総量は282億通に上り、年間では600億通以上に達すると予想されている。今や全世界のSMS発送量の約6分の1を中国が占めている。

中国移動通信

中国聯合通信(チャイナ・ユニコム)
 中国第2の移動通信事業者の中国聯合通信は2002年9月17日、中国の基本通信事業者としては初めて国内で株式を公開した。同社は上場のため新たに子会社を設立し、新会社の総株式の約25%に当たる50億株を1株2.3RMBで発行した。このうち22.5億株が法人投資家に、27.5億株が個人投資家に割り当てられたが、中国で国営の大型通信企業が株式を公開したのは初めてであったため法人枠には39.2倍、個人枠には36.4倍の申し込みが殺到した。この人気からもうかがえるとおり、同社は確実にユーザー数を増やし事業を拡大させ、好調な成長カーブを描いている。2002年から本格的に開始したCDMA方式によるサービスは、当初は加入者の獲得が伸び悩んでいたものの同年9月末には利用者が400万人を突破した。GSM利用者を合わせた全ユーザー数は6千万余に達し、1999年末時点ではわずか11%程度であった市場シェアが初めて30%を超えた。さらに株式公開で調達した約200億RMBの資金をCDMAネットワークの拡充に投入し、2002年内にCDMAのユーザー数を700万人に拡大する計画である。また、中国聯合通信は2002年10月21日、「cdma2000 1x」方式のサービスの開始に向けて、モトローラ、ルーセント・テクノロジー、ノーテル・ネットワークス、エリクソンから総額約103億RMBの通信設備を購入するという契約を結んだ。2002年末までに主要都市で同サービスを開始し、2003年第2四半期までにすべてのCDMA網をアップグレードする予定で、早足に3Gへの移行を進める。なお中国聯合通信は、2005年までに携帯電話ユーザー数を8千万から1億人、市場シェアを35%までに高めることを目標に掲げているが、現在の好調さを維持すれば無理な数字ではない。

中国総合通信

中国電信(チャイナ・テレコム)
 中国電信がついに新規株式を公開した。元国有企業の中国電信は2002年11月、新規株式公開(IPO)を行ない、14億米ドルを調達した。中国電信は今回のIPOにおいて、75億5,600万株を1株1.48香港ドルで公募した。米国では7,556万4千枚の米国預託証券(ADR)で発行され、1証券あたり18.98ドルで提供される。しかし、今回はIPOを完了させるため公開直前に株総数がほぼ半減されたため、中国電信が当初計画した半分程度しか資金調達できなかった。中国電信は2002年5月、中国政府により旧中国通信の南方部分を分離して設立された、1億2,800万の加入者を持ち売上高110億ドルを誇る中国最大の固定回線事業者であるが、さらに移動通信市場参入に対しても強い意欲を見せている。確かに固定電話の市場価値も高く、市内通話に限れば中国電信の優勢は明らかであるが、今後鉄通などがライバルとなってくるであろう。また、長距離電話の領域はIP電話の勢いに呑まれれば、中国電信の絶対的な優位性が危うくなる可能性も大きいからだ。この意欲に対しMIIの呉基伝部長は、今後2年以内を目処として、中国電信と旧中国電信の北方部分を運営する中国網絡通信の2社にも移動電信営業許可書を譲渡することをほのめかしている。また2002年10月19日付の「国際金融報」は、情報産業部の関係筋の話しとして、中国電信、中国網絡通信、中国移動通信の国内3大通信業者が、電信業務(デジタル通信、IP通信、固定電話、携帯電話を含む)の全面的な経営許可を取得する見込みであると報道した。現在、同業務の経営許可を受けているのは中国聯合通信だけで、3社の参入が実現すれば通信市場の競争激化は免れない。また政府当局は、3G経営免許についても競売方式による発行を見直す方針を明らかにしている。予定通り進めば、2003年3月にも関連規定が公布される見込みだという。

中国の端末ベンダー
 MIIによると、現在中国では1ヶ月に平均450万台の携帯電話端末が販売されており、30社を超える端末ベンダーが同市場に参入している。その市場は、モトローラ、ノキア、シーメンス、サムソン、アルカテルの海外主要ベンダー5社で80%を占めており、依然としてその影響力は大きい。しかしながら近年、中国の端末ベンダーも台頭してきており、そのシェアは2002年4月時点で17.7%と2001年の15%から約3ポイント上昇した。さらに、2002年11月12日付の「北京晨報」によると、賽迪網(CCID)より発表された2002年第3四半期(7-9月)の携帯電話売上ランキングにおいて中国ベンダーのTCLが3位のサムスンにわずかの差で4位となった。しかし、サムスンは中国でのGSM端末の生産許可を持っておらず、市場に出回るサムスン製携帯の大半がヤミ商品となっている。業界関係者は北京で販売されているサムスン製携帯電話の約7割がこれにあたると見ており、不正商品の取り締まりに有効な手段が講じられればTCLがサムスンに代わって3位に入るのは間違いないという。益々好調な中国ベンダーであるが、MIIは同シェアが2002年末までには20%になると見込んでいる。

 現在、中国の通信市場の中では携帯電話業務を行っている事業者が最も恵まれた立場にあり、中国移動通信と中国聯通通信は目を見張る急成長を遂げている。中国電信は固定事業において圧倒的な力を持ち、「PHS(小霊通)」も手がけているが、今後は決して安泰ではない。外資参入が最も予想される産業の1つである同業界において、新規事業者の参入など競争が激しくなる中、各事業者がどのように対応していくか今後も注目される。

移動パーソナル通信研究グループ
 リサーチャー 吉川 誠
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