2004年5月号(通巻182号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:政策・規制>

VoIP規制を巡る欧州の動向

 米国におけるVoIP規制再検討の動きが注目を集めているが、欧州でも新枠組みにおけるVoIPの取扱について議論が進められつつある。米国では2003年12月に、EUでは2004年3月にVoIPに関する公開討論が行なわれた。欧州委員会は加盟国との意見調整を経た上で、2004年秋頃までにこの問題に関する作業文書を公表する見通しである。

 EU枠組みの下でVoIPが規制対象となるか否かは、主として次の3ポイントに依存する。

 第1に、VoIPが枠組み指令の定義する「電子通信サービス」に該当するか否か。指令はこれを、「通常は有償で提供されるサービスであって、専らまたは主として電子通信ネットワーク上の信号を伝送すること」としている。私設の企業内通信などもこの範囲内で規制を受ける場合があるが、限定的なものである。

 第2に、VoIPが「公衆電子通信サービス」に該当するか否か。これは電子通信サービスの部分集合であり、これを提供するプロバイダには一般認証指令に規定される一連の条件を遵守する義務が生じる。これら条件の大半は消費者保護に関するものである。

 第3に、VoIPが「公衆に利用可能な電話サービス」に該当するか否か。これは公衆電子通信サービスの部分集合であり、ユニバーサルサービス指令は、1ないし2の国内もしくは国際番号計画を経、緊急サービスにアクセスすることのできるサービスであると規定している。このサービスを提供するプロバイダは、更に追加的な義務を負うが、ここでも条件の大半は消費者保護に関するものである。

 VoIPには様々なビジネスモデルが存在し、P2P方式で全く無償のサービス、IP−PBXで内線電話に限定したサービス、公衆IP電話サービスなどがある。それぞれについて扱いは異なってくるが、規制対象として問題となるのは、主として3番目の公衆向けサービスである。

 欧州ではこれまで、幾つかの加盟国がVoIPに対するスタンスを表している。英国のオフテル(現オフコム)は2003年の文書で、1)従来の公衆向け電話サービスの代替として販売されているか、2)緊急サービスなどに顧客がアクセスできると期待しているか、3)顧客にとり通常の回線交換電話公衆網に対する唯一のアクセス手段となっているか、のいずれかに該当する場合、VoIPを公衆電子通信サービスとして規制すべきであるとの見解を示している。一方、フィンランド当局は最近、テリアソネラのADSL上のインターネット電話を公衆電子通信サービスとして規制することを決定した。

 現在は固定が中心だが、3Gサービスが普及すればVoIPは移動体においても本格化するであろう。欧州委員会は現在までのところ、VoIPの扱いに関する方向性を明らかにしていない。委員会が今回の動きで新枠組みの適用を明確化するに留まるのか、あるいはVoIP市場の促進に積極的なアプローチを取ることになるのかは不明である。しかし、ルールの明確化によってVoIP市場の発展と競争促進が実現されれば、その結果規制緩和がもたらされるという好循環が生まれると考えられる。VoIPの扱いについては欧州委員会は米国FCCと緊密に連絡を取っていると言われており、大西洋の両サイドにおける今後の議論動向が大いに注目されるところである。

移動パーソナル通信研究グループ
チーフ・リサーチャー 八田 恵子

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