2004年9月号(通巻186号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:市場・企業>

北米でセルラー/Wi−Fiコンバージェンスの動きが本格化

 今や世界的に移動体通信の市場規模が固定電話市場を上回るようになり、縮小する固定電話サービスの提供事業者が携帯電話との融合サービスを提供するFMCの動きが活発化する一方で、携帯電話側でも、無線LANを始めとする他の通信サービスとの融合の動きが本格化してきた。2004年7月にNTTドコモが無線LANを内蔵したFOMA「N900iL」を発表したが、時期を同じくして米国では、携帯電話とWi−Fiのデュアル端末やそれを活用した企業向けソリューションの発表が相次いだ。ホットスポットを積極展開する米国第5位の携帯電話事業者T−モバイルや世界第2位の携帯電話機メーカーであるモトローラが名を連ね、これら大手の参入により市場が活性化しそうだ。

■T−モバイル、セルラー/Wi−Fi統合サービス提供へ

 T−モバイルUSAとヒューレット・パッカード(HP)は2004年7月26日、携帯電話とWi−Fi、ブルートゥースなど近距離無線の機能を具備したヘラルド端末「iPAQ h6300」を発表した。携帯電話機能を搭載した機種はiPAQシリーズ初となる。携帯電話一体型PDAの市場投入で成功したブラックベリーの例もあり、同機種の潜在需要が期待される。携帯電話はT−モバイルUSAのGSM/GPRS網に対応する。2004年8月末にもT−モバイルUSAを通じて販売される予定で、価格は499ドルになる見込み。同端末は、その場所で利用可能な最速ネットワークを自動検出し、1回のセッションが終了した後、自動的に最速なネットワークに切り替える。さらにマイクロソフト・エクスチェンジ・サーバー2003と連携させることにより、Eメールやスケジュールなどのデータをサーバー−端末間で自動的に同期させることができる。

 携帯電話のネットワークを介して企業データへセキュアな無線アクセス環境を実現するソリューションはブラックベリーも対応している。スプリントが同ソリューションを年内にも提供する計画であるが、米国の多くの携帯電話事業者同様、3Gネットワークに照準を合わせたものであり、Wi−Fi対応に追従する動きは見られない。一方、T−モバイルUSAの3G導入は一年後と見られており、導入計画も未だ明らかにされていない。h6300の市場投入は、他の携帯電話事業者にはないホットスポット事業を強みとするT−モバイルUSAが、3Gを導入するまでの間に講じた対抗策ともとれるが、欧州では米国にやや先駆けて2004年7月19日にT−モバイルUKが、3G/GPRS/Wi−Fiを統合したデータ・カードを発売すると共に、月額70ポンドでいずれの通信も無制限に利用可能なサービスを提供している。セルラー・ネットワークのカバレッジで地域差のある米国では、Wi−Fiによる補完がより効果的と考えられることから、近い将来、競争激化が予想される3G市場においても、特にデータ通信のヘビートラヒックが期待できるビジネス・ユーザー向けの差別化戦略として注目されるところである。

■モトローラ、企業向けGSM/Wi−Fi統合ソリューションでアライアンス

 モトローラ、アバイヤ(Avaya)、プロキシム(Proxim)の3社は2004年7月27日、GSMネットワークと802.11ベースの企業内WLAN間で音声およびデータ通信をスイッチングする「エンタープライズ・シームレス・モビリティ・ソリューション」を発表した。中核になる端末には、モトローラ製の新機種でGSM/Wi−Fiデュアル端末「CN620モバイル・オフィス・デバイス(MOD)」が利用される。同端末をモトローラでは「企業内電話」と位置付けており、WLANと携帯電話の両方 のネットワークで同一の電話番号およびボイスメール・ボックス番号を利用して、内線・外線、電話会議、複数同時通話が可能な他、企業内のEメール、データ、アプリケーション、ディレクトリーなどへ外部からアクセスすることができる。さらに、社内外で利用可能なPTT(プッシュ・ツー・トーク)機能も装備されている。モトローラは同端末の他、企業内WLANと外部の携帯電話ネットワーク間のシームレスなスイッチングを容易にするための「ワイヤレス・サービス・マネージャー」とシステム管理ツール「ネットワーク・サービス・マネージャー」を提供する。アバイヤとプロキシムは、新製品「W310」ゲートウェイおよび「W110」アクセス・ポイントから構成されるWLANインフラストラクチャーを提供する。

 モトローラ、アバイヤおよびプロキシムの3社は、同ソリューションの認定取得の働きかけをし、相互接続を図る目的でシームレス・コンバージド・コミュニケーション・アクロス・ネットワーク・フォーラムを結成した。CN620は、GSMとWi−Fi上で稼動する初の携帯電話としてFCCに承認された。同ソリューションはアバイヤを通じ、まずカナダ市場で販売される予定である。最初のユーザーは携帯電話事業者になるようだ。加ロジャーズ・ワイヤレスが有力と目されているが、詳細は明らかにされていない。同ソリューションはオフィスにおける通信費の節減に大きく貢献するものであり、価格もW310ゲートウェイが約9,000ドル、W110アクセス・ポイントが約500ドルの予定で、企業における導入障壁も低い。
こうしたセルラー/Wi−Fiコンバージェンス化の流れを背景に、調査会社ガートナーでは、2005年には携帯電話をスマートフォンに移行する個人ユーザーが増大し、スマートフォン市場が活性化すると見ている。さらに機能や価格が安定してくれば、徐々にPDAからの移行も進むとしている。

■セルラー/Wi−Fi統合、イントラネット・アクセスでは米国が先行

【CN620MOD】 【iPAQ h6300 】
 今のところ、NTTドコモではN900iLを事業所コードレスシステム「パッセージ・デュプレ」とのセット販売していく方針で、PHSを使っていた従来の事業所コードレスからの置き換えをターゲットとしている。セルラー/Wi−Fi統合端末をイントラネットへのアクセス端末と位置付け、データ通信に利用するソリューションでは、米国が先んずる形となった。しかし、3G市場におけるデータ通信事業の成長促進は不可欠であり、ソフトバンクを始めとするブロードバンド事業者の参入に対抗するビジネスモデルの構築も課題であることから、早晩、日本でもイントラネットのデータトラヒックを獲得するソリューションが必須となろう。米国におけるセルラー/Wi−Fi統合ソリューションの行方が注目される。
移動パーソナル通信研究グループ
リサーチャー 武田 まゆみ

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