2004年12月号(通巻189号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:市場・企業>

ブリッジ・モバイル・アライアンス、結成される

 2004年11月3日、シンガポール、インド、オーストラリアなどの大手携帯電話事業者7社が、アジア太平洋地域で携帯電話サービスの共通化や研究開発を共同で進めるため「ブリッジ・モバイル・アライアンス」を設立すると発表した。合弁会社を設立し、今後3年間で3,000万〜4,000万ドルを投資して、異なる技術やプラットフォームを用いた各社のサービスを統合することを狙いとしている。このアライアンスは、シンガポール・テレコム(シングテル)の将来戦略を明確に位置づけるものと見ることができるが、アジア太平洋地域での携帯電話事業者の今後を占う動きとして注目に値する。

■4社がシングテルの出資先。タイのAISは将来加入へ

  アライアンスに参加するのはシングテル、インドのブハーティ、オーストラリアのオプタス、マレーシアのマクシス、インドネシアのテルコムセル、フィリピンのグローブ・テレコム、台湾セルラーの7社。いずれも国内で加入者シェア第2位までの大手である。加入者数合計は5,000万を超える。

 このうちブハーティ、オプタス、テルコムセル、グローブ・テレコムの4社には、シングテルが出資している。シングテルは自国市場が小さいことから、事業拡大を海外市場に求めたものと解釈できる。マクシス、台湾セルラーについてはシングテルの出資はなく、この2社は国外市場への事業展開を探る目的があると見られている。また、シングテルが19%を出資しているタイのAISは、今回の発表ではアライアンスに含まれていないが、将来的に加わる計画があると明らかにしている。

 このアライアンスが最初に狙うターゲットは、プリペイド加入者による国外利用の利便性向上である。渡航先にいながらにしてプリペイド度数の充填ができる、などのサービスが想定されている。また、ポストペイド加入者に対してもアライアンス事業者間での国際ローミング利用料金を優遇する計画も明らかになっている。
東南アジアを中心とした携帯電話事業者のアライアンスとしては、すでに2003年8月に結成が発表された「アジア・モビリティ・イニシアチブ(AMI)」がある。こちらはモバイル・コンテンツの共用やモバイル・データ・サービス向けのネットワークや端末の相互動作性を確保することを目指したものである。このアライアンスは香港CSL、マレーシアのマクシス、シンガポールのモバイル・ワン、フィリピンのスマート、オーストラリアのテルストラの5社からなるものであったが、マクシスはAMIを脱退し、ブリッジ・モバイル・アライアンスへ加盟する意向を明らかにしている。

■日本の携帯電話事業者には動きなし

 日本の通信事業者は、このアライアンスに加入する動きは見られない。日本の通信事業者がこれに参加するとなれば、海外からもさらに注目されると思われるが、その可能性は低いのではないだろうか。

 シングテルと協力関係にある日本の携帯電話事業者はNTTドコモであるが、シングテル主導で進めているこのアライアンスに加わるには、NTTドコモは大きすぎること、またオーストラリアではiモード推進でテルストラと、フィリピンではW−CDMA推進でスマートと提携関係にあり、台湾ではファーイーストーンに出資しており、ねじれ現象をおこしてしまうことから、参加の可能性は高くないと思われる。

 一方のauにとって、W−CDMA陣営とのサービス開発提携は、そのメリットが見当たらない。CDMA2000/W−CDMAのデュアル・モード・サービスが見えてくることが前提となるであろう。

 ボーダフォンに関しては、海外進出に際しては100%出資を目指す方針を英国本社が変えないと見られ、またアジア拡大戦略を急ぐ様子が見られないことから、当面は動きがないと思われる。

■日本の携帯電話メーカーに有利に働くか

 日本の携帯電話メーカーにとっては、このアライアンス結成は将来的にプラスに働く可能性があると思われる。アライアンス加入企業が共通仕様でサービス提供を開始した場合、その仕様に準拠した端末製造をメーカーに依頼することになるだろう。シャープがボーダフォン仕様の端末を同社に納入するのと同様に、日本の携帯電話メーカーがこのアライアンス(事業者)向けに端末を納入するとなれば、これまでGSM市場においてブランド力で欧州勢・韓国勢に劣っていた日本のメーカーの存在感がかなり向上する可能性がある。

 とはいえ、アライアンスが有効に機能するまでには時間を要すると思われることから、日本の携帯電話メーカーの売上にすぐにつながる、ということもないだろう。また、海外進出をもくろむ中国メーカーも当然その市場機会を狙っていると想像できる。

■類似のアライアンス結成の動きは出てこないか

 こうしたアライアンス結成の動きが今後さらに続くかといえば、その可能性は低いのではなかろうか。その理由として、複数の国の通信事業者に出資している携帯電話事業者は、世界でもそれほど多くない、ということが挙げられる。今回はシングテルが中心になった動きであるが、世界に広く事業展開する英国ボーダフォン、香港ハチソンはすでに子会社として参入しており、旧国営系の欧州大手事業者であるT−モバイル、オレンジ、TIM、テレフォニカはすでに「フリームーブ・アライアンス」を結成している。米国や韓国の携帯電話事業者にはあまりそうした動きは見られず、韓国SKテレコムが海外事業者とプラットフォーム提供に関する提携を進めているのが目立つ程度である。

 ブリッジ・モバイル・アライアンス加入事業者が、その恩恵を受けることで自国市場での地位向上につながるようであれば、競合事業者も何らかの対策を考えざるを得なくなるだろうが、現時点では未知数である。

移動パーソナル通信研究グループ
チーフ・リサーチャー 岸田 重行

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