2004年12月号(通巻189号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<トレンドレポート>

ボーダフォンの3Gグローバル戦略

 世界最大手(売上高)の携帯電話会社ボーダフォンは、去る11月10日に、欧州、および日本で第3世代携帯電話(3G)の一般ユーザー向けサービスを本格的に展開すると発表した。予定より2年遅れのスタートで、周波数免許料を含む投資額も1,000億ユーロを超えると見られるが、同社は3Gに集中することで欧州の競争相手の機先を制して3Gを軌道に乗せる一方3Gで立ち遅れた日本事業の経営不振を建て直し、将来の安定した経営基盤を確立したいと期待を強めている。ここから読み取れるボーダフォンのグローバル戦略を検証する。

■ボーダフォン、3Gサービスを13ヵ国に拡大

 ボーダフォンは、日本で3Gサービスを展開しているほか、ドイツ、イタリア、ポルトガル、およびスペインでラップトップ・パソコン向けに3Gによるデータ・サービス(Vodafone Mobile Connect3G data card)を提供していた。今後は3Gによる一般向けサービスを含むフル・サービスを本格展開し、提供地域も英国、フランス、アイルランド、オランダ、スウェーデン、オーストリア、ギリシャ及びスイスに拡大する。これで同社の3Gサービスは、日本のほか欧州12ヵ国で展開されることになる。

 ボーダフォンのニュース・リリースは、その表題が示すように、「3Gによるボーダフォン・ライブ!の世界展開」(注)が強調さており、技術よりはサービス重視という同社の姿勢が読み取れる。以下は同社の3Gサービスのアピール・ポイントである。

  • 顧客に広範囲な選択肢を提供する10の新3G端末(うち7つはボーダフォンの独自仕様端末、欧州で最初の2メガ・ピクセルのカメラ付き端末−「シャープ902」、ステレオ・スピーカー、32メガバイトのメモリーの標準装備など、メーカーはシャープのほかモトローラ、ソニー・エリクソン、NEC、ノキア及びサムソン)
  • より容易にアクセスできるよう強化されたポータル・デザイン
  • ビデオ・コーリング、フル楽曲のダウンロード及び3次元ゲームを含むエキサイティングな新サービス
  • 以下のような広範囲の新及び改善されたコンテント
    • 世界の有名アーチストによる広範囲の音楽カタログ(MTVなど3,000曲)
    • 強力なTVシリーズ“24”による携帯電話専用ドラマ(1分間ドラマ)
    • 独自のビデオ、静止画、アニメによるグリーティングおよび壁紙
    • 有名映画批評家による「今月の映画」の開始
    • 各種スポーツ・イベントのモバイル・ビデオ・コンテントおよびクリップ
    • 世界の有力ゲーム・パブリッシャーによるエキサイティングな独自のコンテント
  • ボーダフォンの顧客に、より大きな価値を提供する価格設定の新しいアプローチ
    • コンテントの購入のためのイベント・ベースによる料金設定モデル

(注)Global launch of Vodafone live! With 3G (Vodafone Group Press Release/10 Nobember 2004)

 ボーダフォンの3Gのグローバルな展開に当たって、同社のアラン・サリーン社長は以下のようなコメントを発表している。

「3Gによるボーダフォン・ライブ!は、ボーダフォン・サービスに関する我々の顧客の体験方法を劇的に変えるだろう。また我々は、3Gによるボーダフォン・ライブ!が成功することを確信している。顧客は外出時のコミュニケーション、情報整理箱、娯楽および情報を求めている。しかも顧客は、これらのニーズを送受信するにあたって、次第にワン・デバイス化の傾向を強めており、それが彼らのモバイル・フォンである。

3Gによるボーダフォン・ライブ!は来年(05年)にはマス・マーケットになるだろう。我々は2006年3月までに、3Gによるボーダフォン・ライブ!の顧客が1,000万人(注)となると期待している。3Gによるボーダフォン・ライブ!は、利益の成長に関する新しいプラットフォームを当社に提供する。我々は移動通信における革新のリーダーであり、我々の顧客及び株主の利益のため、革新の最前線に立ち続けるだろう。」

(注)半分は新規の顧客、残り半分は現在の2Gから移行する顧客と見ている。なお、欧州における3Gが利用可能な地域は、現在の顧客の60%程度。

 ボーダフォンがニュース・リリースで強調するもう一つのポイントは、「理解し易い料金モデル」である。このモデルは、顧客がシンプルな請求書を受け取ることを確実にし、コストの透明性を高めることによって利用を促進するよう設計されている。コンテントの購入はイベント・べース(情報量ではなく)で課金され、ブラウジングは無料もしくは高度に魅力的なバンドル・サービス料金に含まれる。その結果、すべてのコンテント料金はダウンロードしたものだけが請求書に1行でシンプルに記載されるので、顧客は容易にチェックが可能である。

 また、ボーダフォンはすべての市場で、新サービスの利用促進とチェックを可能にするために準備された販売促進用のパッケージを提供する予定である。ボーダフォンは3Gネットワークの持つ、より大きな容量によって顧客に便益を提供できるので、新料金モデルは、音声サービス関して顧客の支払う料金がより大きな価値を持つようにする考えだ。ボーダフォンの各地域会社はこれらの方針に基づき、顧客のローカル・ニーズに合った料金の提案を行うよう計画している。

■ボーダフォンが狙っているもの

 3Gによるボーダフォン・ライブ!の導入は、既に欧州8ヵ国で提供している3Gによるデータ・カード「モバイル・コネクト」(現在の利用者は13万)の次のステップとしてボーダフォンが推進してきた戦略である。2006年3月までに1,000万の利用者を獲得し、欧州の3G市場で、市場を牽引するポジションを確保することを狙っている。

  3Gによるボーダフォン・ライブ!のネットワーク・カバレッジの基本原則は、まず主要都市を網羅することである(英国の場合は現時点で人口比60%のカバー率である)。次に、3G網から2G網へのシームレスなハンド・オーバーを保証することである。このことは、2G網へ移動すればビデオ・コールは中断するが、音声通話は利用できるということを意味する。

 サリーン社長は、3Gによる新サービスの導入によって、1加入平均収入(ARPU)が増加することを期待していることを強調している。同時に、新サービスは「利益に中立的」であることも期待している。ボーダフォンの説明によると、既存の2.5Gライブ!の利用者(現在約1,000万)はライブ!を利用しない顧客より収入が7%多いという(注)

(注)Vodafone launches 3G in 12 European countries (Totaltele.com / 10 Nobember 2004)

 どの端末やサービスを導入するかの判断は、地域子会社や関連会社に委ねられる。例えば、ボーダフォンUK(加入数1,420万)は6種類の新端末をクリスマスまでに導入する。端末に対する「補助金」は、英国で最初に3Gサービスを開始したハチソン3G UK(“3”)ほど「アグレッシブ」な額にしないよう計画している。(契約制の場合は内容に応じてタダから300ポンド<1ポンド:194円、2004年11月25日現在>まで、プリペイド制の場合は200ポンドから)新サービスの料金には2つのバンドル・パッケージを提供する。一つは月額40ポンドで500分の利用(ブラウザー料金を含む、以下同じ)、もう一つは月額60ポンドで1,000分の利用が出来る。そのほか、他社のすべての3G加入者と当初から相互接続を可能にする。

■日本以外では「レス・アグレッシブ」?

 4年前に行われた周波数の競売で、多額の負担を強いられたボーダフォンやその他の既存携帯電話会社が、3Gの導入で相応の利益をあげることが出来るか、というのが最大の問題点である。それだけにスタートにあたって、どういう戦略で臨むかが重要になる。

 英国で唯一の3G先行事業者である“3”の責任者は次のように述べている。3Gへ新規に参入する携帯電話会社の戦略的なジレンマは、既存の音声ネットワーク(2G)から如何にして顧客を3Gネットワークに移行させるかである。そのためには、3Gサービスのコンシューマー料金に関するベンチマークが既にセットされている中で、免許、ネットワークとインフラ、製品開発とマーケティングなどの諸費用を回収できる料金を如何にして顧客に課すことが出来るかがポイントになる。

 携帯電話会社にとって料金設定は決定的に重要である。“3”は3Gのポテンシャルを解放することを第一に考え、昨年競争他社の2G月額料金と同額で、2倍の通信が出来るタリフを顧客に提供した。これで顧客は月額料金を増加させることなく、コンテントの利用が可能になった(注)

 次に、欧州で最初にプリペイド制顧客の料金を契約制顧客の料金と同じにした。その結果、“3”のARPUは月額43ポンドと欧州で一番高くなった。

(注)ボーダフォンのサリーン社長は、免許取得費用や3Gネットワークへの投資などの減損処理を行ったとしても、“3”は黒字化のために早晩値上げするしかない、と語っている。(Vodafone CEO says 3G will increase shift to mobile(Dow Jones Newswire / 18 November 2004) 

 3Gサービスには、放送がラジオからテレビに代わったように、大きな技術的な飛躍がある。3Gのシステムは、その構築も運営も複雑であり、結果的に、次々に発生する避けることの出来ないトラブルを解決するためには時間が必要である。“3”は端末がうまく機能せず、ネットワークが安定しないというトラブルを経験した。我々はこれらの問題を克服したが、新規に3Gに参入する携帯電話会社は同様の苦難に直面することになるだろう。

 即応でき、手に入れ易く、楽しければ、顧客はコンテントに対して対価を払う用意がある。しかし、顧客は見たいコンテントだけを、楽しみたい時に、楽しみたい方法で求める。“3”でも、消費者が実際に買いたいコンテントを見つけるのに時間がかかった。例えば、ニュースはコンテントの呼び物として重要である。しかし、顧客を惹きつけるのは速報ニュースであって、通常のニュース番組ではない。サッカーのハイライトは「スカイTV」が放送する前でなければ価値がない。結局、新聞、雑誌及びテレビが違うように、(メディアとしての)3Gネットワークにも違う特性がある。3Gネットワークは、コモディティ化することなく、真の違いを持ったブランドになっていくだろう(注)

(注)A third generation dilemma for mobile operators by Bob Fuller(3’s chief executive)
(Financial Times online / November 9 2004)

 英国の通信コンサルタント会社のオーバムは、ボーダフォンの3Gに対する強い係わり合いに特段の欠陥はない、技術よりはサービスに集中したことやコンテントの情報量による課金を止めたことは評価されるべきだと指摘している。しかし、ネットワーク・カバレッジの中にいるどんな顧客が満足するかについて、ボーダフォンは過度に楽観的な見方をしているのではないか。3Gライブ!が提供するサービスが本当に素晴らしければ、利用者はどこにいてもそれらを利用したいと望むだろう。利用できなければ、そのことが40〜60ポンドを支払う顧客である彼らをいらだたせることになる、と早急なカバレッジの拡大がポイントであることを示唆している。しかし、ボーダフォンのサリーン社長は、現時点で3Gは始ったばかりで、顧客がそれをどう利用するかのテスト結果を次に生かしていく、と語っている(注)

(注)Vodafone launches 3G in 12 European countries(Totaltele.com / 10 November 2004)

 フィナンシャル・タイムズ(注)の指摘は次の通りである。大部分の携帯電話会社にとっての問題は、ほどほどのバッテリー時間を持ったスマートな端末を、必要な数だけ確保できるかである。今年末に3G参入を予定しているT-モバイルやオレンジなどは、低価格帯の端末で余り高度ではないサービスを提供することにしている。ボーダフォンはいくつかの理由から別の選択をした。第1に、新技術に対する最初の参入者として認識されれば、高額利用者を獲得するのに有利である。第2に、グローバルに事業を展開していることによる突出したバイイング・パワーが端末メーカーに影響し、競争相手よりも広い範囲の端末確保を可能にした。

(注)Vodafone’s 3G show goes online (Financial Times online / November 10 2004)

 しかし、ボーダフォンにとって最大かつ緊急の課題は、売上げ規模で同グループにおける最も重要な市場である日本における最近のさえない成果である。日本では、競争者のKDDIが1,615万(04年10月末以下同じ)、NTTドコモが706万の3Gユーザーを獲得したのに対し、ボーダフォンは27万と低迷している。理由はボーダフォンの提供す3G端末の種類が少なく、性能が競争相手に見劣りしたからである。楽曲のフル・ダウンロードやビデオ・ストリーミングの提供を含む同社の今回の3Gグローバル戦略によって、同社は日本における失地回復に寄与するだろうと確信している。サリーン社長によると、同社の2006年末3G加入者1,000万という目標の半分は日本で達成することを期待しているという。

 残りの12ヵ国で2006年末までに500万という目標は、ボーダフォンが欧州市場で3Gの導入を当面アグレッシブに推進することはないということではないか。一部のアナリストは、ボーダフォンは3Gをプレミアム製品として育成することを狙っていると指摘している。2005年末に販売攻勢をかけることを目標に、それまでは顧客の反応を学習する期間としているのではないか。全体として、ボーダフォンの3Gの主力サービスに対する姿勢は控え目との印象を受ける、と前掲のフィナンシャル・タイムズは書いている(注)

(注)例えばVodafone UKが提供する楽曲のダウンロードは、1曲1.5ポンド(通信料を含まず)である。これに対し、iTunesは79ペンスで、ボーダフォンの料金には、外出先でのダウンロードというプレミアムが含まれていると見られている。

特別研究員 本間 雅雄
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