2005年2月号(通巻191号)
ホーム > レポート > 世界の移動・パーソナル通信T&S >
世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界の街角から>

クスコ 山岳編(ペルー)

■空気が薄いインカ帝国の首都クスコ

 11世紀に登場したインカ部族が形成した、全長5,000kmにわたる大帝国「インカ帝国」。その首都クスコは標高3,360mのアンデス山岳地帯にある。現在の首都リマからおよそ1時間のフライトで、一気に標高差3,000m以上の高地クスコに到達するため、ほとんどの人が高山病にかかってしまう。高山病とは、体が低酸素に順応できないために発症する一連の症状(倦怠感、頭痛、めまい、発熱など)である。どれほどの低酸素かというと、写真の洗顔フォームの膨れ上がり方をご覧いただければわかるであろう。到着してすぐに体の異変に気づく。階段を3つ昇っただけで、相当な体のだるさと重さを感じ、息が上がってしまう。女子マラソンの高橋尚子さんは、これくらいの標高で高地トレーニングをされるというから、改めて尊敬する。

気圧が低すぎて、パンパンに膨れ上がったメンズ・ビオレ(洗顔フォーム)
▲気圧が低すぎて、パンパンに膨れ上がったメンズ・ビオレ(洗顔フォーム)
高山病を避ける最大のポイントは、前日ゆっくり休んでおくこと、到着した当日は1日極力無理をしないこと、および到着前後は水分を十分取ること。到着したらすぐベットで横になり、少し休む。起きてからも、決して走ったりせず、ゆっくりと行動する。そして水を十分にとっていれば、頭痛や発熱なども起こらず、2日目には随分体が慣れてくる。

■インカの爪跡が残る街

 1533年、将軍ピサロ率いるスペイン軍は首都クスコを陥落させ、インカ帝国は植民地化される。スペイン軍はクスコの町も徹底的に破壊したため、インカの建造物はほとんど残されていない。わずかに残されているのは、スペイン軍が破壊するほどできないほど頑丈だった、建造物の石組み(土台)である。またインカ時代の道路(インカ道)も残されている。インカの人々はクスコを世界の中心と考えていた。そのため彼らはこの地を現地語(ケチュア語)の「へそ」という意味にあたる「クスコ」と名付けた。世界の中心から、インカ帝国の各地へ伸びる交通の要、それがこのインカ道である。

クスコの街並み(スペイン風の家屋とインカ時代の道路が混在) クスコの街並み(スペイン風の家屋とインカ時代の道路が混在)
▲クスコの街並み(スペイン風の家屋とインカ時代の道路が混在)

■インカが息づくインディヘナ(先住民)の生活

 スペイン人に征服されたインディヘナ(先住民)は、それまで信仰していた太陽神から、キリスト教に改宗させられてしまった。私がクスコに到着した11月1日は、他のキリスト教国と同じくキリスト教の祭「諸聖人の日」(万聖節)が各地で行われていた。道のあらゆるところで、ご馳走として豚の丸焼きが売られていた。日本ではお彼岸にあたるこの日、多くのインディヘナがそれらご馳走や花を持ちより、祖先のお墓に備え、その傍で故人を偲んで宴会をしていた。スペイン人は、インディヘナをキリスト教に改宗させるため、さまざま工夫を行っている。その一つが宗教画「最後の晩餐」である。インカの様々な場所に建造された教会には、ペルー版「最後の晩餐」が掲げられており、その晩餐テーブル上にはインカの主食であるネズミ「クイ」が描かれている。オリジナルの絵を変えてまで、少しでもインカ人が溶け込みやすいよう配慮したことが伺える。

 実は現在でも、インディヘナの人々はクイを食べる(牛肉などももちろん食べる)。道中立ち寄ったポロイという村の農家でも、たくさんのクイが飼育されており(写真)、糞は燃料に、クイ自体は食料として利用されていた。農家の女の子は小学生くらいの年頃から、クイの殺し方や捌き方を学ぶという。このように、インディヘナ達はインカ時代から続く古い習慣を今も守り続けている。他にも、例えばクスコで飲むことができるトウモロコシのお酒チチャは、インカ時代から引き継がれている地酒である。前述のポロイの農家でも、チチャが作られていた(写真)。現地の方がこれを飲むときは、まずチチャを指にちょっとつけて、太陽の神とアンデスの山神に祈りを捧げてから、口に運んでいた(写真)。そう、つまりインディヘナの人々は、インカ時代から伝わる彼らの神々をいまだに信仰しているのだ。こんなちょっとした仕草からも、インカ時代の香りを感じることができる。

農家の家で飼育されているクイ(ねずみ)
▲農家の家で飼育されているクイ(ねずみ)
農家で留守番をしていた女の子。とてもかわいい。
▲農家で留守番をしていた女の子。とてもかわいい。
インカ時代より伝わる地酒チチャ
▲インカ時代より伝わる地酒チチャ
太陽神に祈りをささげてから飲む
▲太陽神に祈りをささげてから飲む
移動パーソナル通信研究グループ
リサーチャー 竹上 慶

T&Sサービス内容、ご利用料金のお問合せは下記へお願いします。
InfoCom世界の移動・パーソナル通信T&S(ご案内)

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。