2006年5月号(通巻206号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<トレンドレポート>

CTIAワイヤレス2006で語られたこと

 去る2006年4月5日から7日まで、ラスベガスで業界団体のCTIA(Cellular Telecommunications and Internet Association)が主催する展示会CTIAワイヤレス2006が開催された。新技術の展示が主体であるが、年々そのキー・ノート・セッションが注目を集めている。今年は、高率のワイヤレス税および高コストを強いる州の規制は、将来のワイヤレスの成長および革新に対する潜在的脅威となる、とするCTIA会長(スプリント・ネクステルのロウアーCOO)の警告から始まり、反響を呼んだ。以下に、CTIAワイヤレス2006で議論された、新技術、新サービスおよび企業戦略などについて紹介する。

■新技術、IMSからWiMAXまで

 昨年のCTIAワイヤレス・ショウは、高速モバイル接続から音声とデータ統合網までの次世代技術の基礎を展示していた。今年は、各設備メーカーはその次世代技術の可能性を強調する展示をしていた、とダウ・ジョーンズは以下のように報じている(注)

(注) Mobile technologies flaunt capabilities at wireless show(Dow Jones Newswires / 07 April 2006)

 昨年のイベントでは、IMS(Internet Multimedia Subsystem)が最も売り込まれた技術だった。IMSは複数のネットワーク―音声、映像もしくはデータ、無線もしくは有線―を1つのIP網に統合するネットワーク・アーキテクチャーを提供する。今年は、ルーセント・テクノロジーズやモトローラなどの設備メーカーは、サービス・プロバイダーがそのネットワークをより良く運営するのを支援するアプリケーションを導入しようとしていた。

 ルーセントは「どうしたら顧客に価値をもたらすことができるのか。IMSはそれを可能にするプラットフォームである」と強調している。同社はネットワークの別の部分(アクセス・ポイントから長距離中継回線まで)からインターネット・システムにトラフィックを運ぶ設備の提供で定評のある会社である。現在、同社はその製品に従来とは異なるアプリケーションを加え、アプリケーションをより独立したネットワークに運ぶよりも、通信会社がそれを取り込むことによって大幅なコスト削減を可能にしようとしている。

 例えば、ルーセントの新サービスの一つは、IMSとIPTVサービスの統合である。同社のブースには、薄型スクリーン・テレビが設置され、映像とインスタント・メッセージング・プログラム、交通情報および気象予報などのデータ・アプリケーションが同時に受信されていた。同社のIPTVは米国以外での利用を想定している。しかし、ルーセントを買収する計画を4月2日に発表したフランスのアルカテルは、米国のIPTV市場で影響力を徐々に高めており、AT&Tを最大の顧客の一つにあげている。ルーセントのIPTV事業の代表者は、利用者はIPTVのコア・サービスに月額30〜50ドルを、また各種の新サービスに無料から月額20ドルの付加料金を支払うのを許容するだろう、と推測している。

 もう一つのアプリケーションには、異なる種類のトラフィックに優先順位を付与するサービスついての質の保証が含まれている。電話の通話の品質を維持するため、音声を最優先に転送し、テキスト・メッセージングや電子メールは転送順位を後にする。

 IMSは通信会社にとって重大な意思決定を提起している。通信会社はより多くの加入者を獲得するために、そのネットワークを拡大する投資を推進すべきか。それとも、現在の顧客ベースからより多くの収入を生み出すよう努力するためにIMSに投資すべきかである。今のところ、IMSの展開は初期段階にとどまっている。

 ルーセントはまた、テレコム・ニュージーランドと共同で「動的最適化(dynamic optimization)」と呼ぶテスト・プロジェクトを推進している。この技術は、ワイヤレス網に関する情報を収集し、交通の流れや一日の時間の変化に応じて通信容量を増減させるため、基地局を異なる位置へ自動的に移動させようというものだ。

 一方、モトローラは、WiMAXもしくはEV−DOを含むワイヤレス・サービスに関するバックボーンとしてIMSを活用しようとしている。IMSによって、携帯電話、ノートブック型パソコンおよびテレビ受信機などの異なる端末機器は、相互に通信ができるようになる。通信会社がそのネットワークにIMSを展開すれば、顧客はインスタント・メッセージングやテレビ電話のようなアプリケーションを外出先でも利用できる。また、この2つのサービスを統合することも可能である。顧客は、オフィスの(通信)環境を自宅でも享受できるようになる。

 モトローラはまた、IP電話サービスをパワー・アップするWiMAXシステムを発表した。同社はWiMAXを利用して、IPベースの無線電話サービスを、過疎的な地域および発展途上国に提供可能であるという。このシステムはIEEE802.11eと呼ばれるWiMAXのモバイル・バージョンを使う。モトローラはこれを固定通信サービスのために利用する。

 しかし韓国のサムスンは、802.11eを世界最初のモバイルWiMAXの展開に使おうとしている。同社のワイヤレス・システムのシニア・マネージャーは、802.11eは純粋な固定通信会社にWiMAXベースの無線電話サービスを可能にし、既存の携帯電話会社にはネットワークの拡張を可能にし、無線を利用する新規参入通信会社には伝統的なブロードバンド接続を可能にする、と語っている。サムスンは固定通信のコリア・テレコム(KT)と携帯電話のSKテレコムと共同でテストを実施している。

 通信設備メーカーにとって、新技術は成長の手段の一つとして重要である。移動通信会社は以前には、第3世代無線ネットワークに投資を集中させていた。ワイヤレスによる成長機会に恵まれなかった固定通信会社にとって、WiMAXは再度のチャンスである。各基地局のコストは10万ドル以下であり、伝統的な無線技術による基地局の数とほぼ同数の基地局が必要である。各基地局は3〜5kmの範囲をカバーする。スプリント・ネクステルはWiMAXのテストに積極的に取り組んでいる企業の一つである。

 韓国のKTとSKテレコムのプロジェクトに必要な電話機の価格は未決定だが、よりハイエンドの端末が使われる見通しだという。しかも、韓国の通信会社は原則として携帯電話端末に対する補助金の支出を許されておらず、端末価格がポイントになりそうだ。サムスンは、既にビジネス顧客およびプロフェッショナル向けのノートブック型パソコン用WiMAXカードを発表している。また、同社はWiMAXと伝統的なセルラー網の両方で動作する(デュアル・モードの)携帯電話端末の開発に取り組んでいる。

■多機能化する携帯電話機

  スプリント・ネクステルのCOOによると、人々が自宅に戻る時によく忘れるものが3つあり、それらは携帯電話、財布および鍵だという。通信業界はこれらを一つのリストにまとめたがっている。このために、技術者達は多くの呼び物の新サービスを、できる限り携帯電話機に詰め込むことに忙しく働いている。それらの中には、携帯電話機を振り動かすことでドアを開けるとか、ランチ代金を支払うことができるものがある、とCTIAワイヤレス2006を取材したダウ・ジョーンズ(注)は報じている。以下はその概要である。

(注)Wireless trade show pushes all-in-one nature of handset(Dow Jones Newswires / 13 April 2006)

CTIAの講演で、NTTドコモの中村社長は「既に携帯電話機は進化して、日常生活のための多機能な手段となっている。」と語った。日本では、NTTドコモは携帯電話機を振り動かすことで、コンビニエンス・ストアで商品を購入し、空港でのチェックを可能にするモバイル・ペイメント・サービスを提供している。ドコモの加入者の中には、彼等の携帯電話機でドアの施錠および開錠ができるよう、アパートのシステムをプログラムした人達さえいる。この「near-field communication」と称する技術は、日本では2004年に導入され利用されている。しかし、米国では「モバイル・ペイメント」は、初期の段階にとどまっている。

 米国は「モバイル・ペイメント」技術の採用では先端に居りながら、いくつかのハードルを越えられないでいる。「モバイル・ペイメント」のシステム構築にかかわった企業が、それに必要なコストの負担に耐えられるか、また、収益をどのようにシェアするか、について未だに明確にされていない。米国でこれらの技術がもっと上手に利用されない理由は本来ないはずだ、とDeloitte & Toucheの通信コンサルタントは指摘している。

 もう一つの問題はセキュリティである。消費者は彼等の携帯電話機が奪われ、泥棒がそれを使用して商品などを購入するのではないかと心配している。これらの心配のいくつかをやわらげる製品を提供する企業もある。例えばAuthenTec社(フロリダ州)は、ノートブック型パソコンおよび携帯電話機向け小型指紋スキャナーを製造している。同社によれば、アジアには長さ0.5インチの指紋スキャナーを搭載した携帯電話機が500万台あるという。その理由は、この地域におけるモバイル・コマースの普及にともなって、セキュリティの強化に対するニーズが高まったからだ。携帯電話会社は現在この技術をテストしており、2007年頃には米国でも利用が可能になるだろう。組み込まれるスキャナーのコストは4ドルで、現在の携帯電話機の価格上昇をもたらすことはなさそうだ。この技術を使えば、Amazon.comのようなウェブ・サイトから本を注文する際に必要な確認は、注文者がスキャナーに指を触れるだけでよくなる。

 既に携帯電話会社はテキスト・メッセージングや音楽およびリング・トーン(着信音)のダウンロードなど非音声サービスによる収入の増加を推進しており、モバイル・コマースは増収の潜在的なドライバーと見られている。通信会社はモバイル・コマースを通じて、取引毎に手数料を課すこともできる。前記のDeloitte & Toucheの通信コンサルタントは、CTIAワイヤレス2006でモバイル・ペイメントの展示がほとんどなかったことに失望したと語っている。

 Nuance Communicationsは音声認識技術(音声ダイヤルのため既に多くの携帯電話機に搭載されている)を利用して、曲名や演奏したアーチストの名前を言うだけでデータ・ベースから曲を聴くことが できる電話機のプロトタイプをCTIAワイヤレス2006に出展していた。また、同社は顧客が一般的な質問(例えば、ラスベガスのイタリアン・レストランはどこにあるか)をできるようにし、それを電話機に処理させ答えさせるよう開発を進めている。音楽の検索は6〜9ヵ月、一般的な質問は1〜1.5年後に利用できるようになるという。

 その他の改良には、ブルートゥース無線技術の利用改善が含まれている。京セラは、小さなブルートゥースのヘッドセットと一緒に販売する音楽携帯電話機を開発した。ブルートゥースのヘッドセットは5セント硬貨程度の大きさだという。ハンドセット・メーカーのノキアとソニー・エリクソンは、大きなメモリー容量を持った高品質のデバイスで、アップルのiPodによる音楽プレィヤーの市場支配に挑戦したい意向だ。

■データ収入の増大を狙う携帯電話会社

CTIAワイヤレス2006で講演したスプリント・ネクステルのCOOは、現在収入の7〜8%しかないデータ収入の比率を、2009年には17%、2010年には20%まで高めたいと強調した。米国第1位の携帯電話会社であるシンギュラーのCEOはもっと強気で、メッセージングやコンテンツの配信など非音声サービスの全収入に対する比率を、今後3年間で25〜30%にするという強気の予測を明らかにした(注)

(注)U.S. wireless operators look to Europe’sdata success(Total Telecom online / 10 April 2006)

 シンギュラーのCEOは、現在米国でSMSメッセージングの利用者は余り多くなく、今年はその増加が期待できる(注)。視聴者がSMSで投票できるテレビ番組なども人気になるだろう。米国の携帯電話市場が成熟化しているとは思わない、携帯電話市場に対する自分の見方は強気であり、成長は新製品とサービスが基礎になると語っている。携帯電話会社は、携帯電話会社相互のメッセージングが始まったことで、利用が増加していることを認めている。

(注)シンギュラーの2006年第1四半期の月額1加入者当たり平均収入(ARPU)は48.48ドル(対前年同期比2.3%減)、うちデータ・サービスの利用(加入者の約半数が利用)は5.22ドル(前年同期は3.70ドル)で、ARPUに占める比率   は10.7%。(Cingular returns to a profit on sharp increase in Subscriber:The Wall Street Journal online / April 20 2006)なお、NTTドコモの2005年10〜12月期の総合ARPUは6,920円(対前年同期比3.5%減)、うちデー  タ収入は1,880円、データ比率は27.2%である。

 フランス・テレコム傘下の携帯電話会社オレンジのCEOは、携帯電話会社間のインターオペラビリティが、SMSやMMSなどの利用増加の鍵となる要因だと強調した。彼は、閉ざされたネットワークは機能しない、英国ではMMSのインターオペラビリティが同意された後の最初の1ヵ月で、トラフィックは30%増加した。英国のSMS利用者は全契約者の50%を超え、携帯電話会社の収入の20%に近づいていると語っている。

 しかし、米国の携帯電話市場は、ケーブル・テレビ会社とエンターテイメント・プロバイダーが顧客争奪の戦線に参加したことで、競争はさらに激しくなりつつある。CTIAワイヤレス2006では、ディズニー・モバイルの提供するポスト・ペイド製品(注)が新聞の見出しを独占した。2005年まではMVNOの参入はプリ・ペイドが中心だったが、今年は新たに参入するポスト・ペイドのMVNO の動向に関心が集まっているという。

(注)「ディズニーモバイル、家族をテーマに携帯電話ビジネスへ参入」本ニューズレター記事参照

 タイム・ワーナー・ケーブルのCEOはCTIAワイヤレス2006で、コンテンツと音声サービスを一緒にして、ブロードバンド・インターネット、テレビ、固定電話および携帯電話を経由して提供する可能性という視点から、ワイヤレス・セグメントに関心を持っている。我々の成長を展望した場合、ワイヤレスの魅力は2つのサービス(固定および移動通信)を一緒に提供できる能力にある。携帯電話に多くのサービスをバンドルすることに関心のすべてがあるわけではなく、我々が真に関心を持っているのは、既に提供している製品と一連の新サービスがどう結びつくかである。新製品とサービスの提供は、サービス・プロバイダーを差別化させ、新しい顧客を惹き付けると同時に、今後も我々と一緒にとどまるという理由を顧客に与える。顧客のニーズを満たすことがビジネスである、と語っている。

 ケーブル・テレビ会社は、テレビ、ブロードバンド・インターネット、IP電話に加え、携帯電話をバンドルした「クワドルプル・プレイ」の競争の準備を整えつつある。ケーブル・テレビ会社は過去のどんな年よりも、今年はより多くの新製品およびサービスを市場に投入しようとしているという。

 一方、シンギュラーやスプリント・ネクステルなどの携帯電話会社も、新製品とサービスをベースとするシンプルな顧客体験(customer experience)と同様、顧客維持(customer retention)が肝要だと見ているという。シンギュラーのCEOは、我々は今や実行に集中せねばならない、新規顧客の獲得は高くつく、我々は顧客に我々と一緒にいる理由を提供する必要がある、と強調している。そのために鍵となる要因は独自コンテンツと新サービスである、と前掲のトータル・テレコムは指摘している。

 スプリント・ネクステルのCEOは、利用者の数ではなく、利用の数が問題である、と語っている。また、コンテンツ・プロバイダーは携帯端末を「第3のスクリーン」と見ており、これは音楽産業が携帯端末をMP3プレーヤーと直接競争する存在としてではなく、「もう一つの配信チャンネル」と見ているのと同じである、と指摘している。ベライゾン・ワイヤレスは、4月の初めに100万曲のダウンロード可能な音楽リストを発表して以降、音楽に狙いをつけている。一方、ノキアの会長は、新技術が市場に登場しても、それに基づく新サービスはシンプルでなければならない、と警告している。彼は、シンプルであることの価値は、マニュアルがなくても初めての新製品やサービスを動かせることである、そのためには提携と協働(collaboration)が鍵の要因である、と語っている。

 スプリント・ネクステルのCEOも、「端末の使い勝手の良さ(usability)」に集中する必要性を強調している。また、端末やコンテンツに不足はないが、それらを我々がどう利用するかにギャップがある、コンテンツ・プロバイダーは、利用者がその技術を最高に活用できるような種々の方法を用意して携帯電話会社にアプローチする必要がある、と語っている。同社は、今年7月にFCCが予定しているオークションで必要な周波数を獲得した後に、第4世代携帯電話のサービス戦略を発展させるという。そのため、携帯電話会社は開発の早い段階で、一つの標準に同意する必要があると語っている。

 これに対してオレンジとシンギュラーのCEOは、第4世代の技術を検討する前に、第3世代携帯電話のカバレッジとサービスを消費者に広げることに注力することが先決だと語っている。オレンジのCEOは、競争が激しさを増しつつある市場で、ネットワークが差別化の鍵になること、また周波数の追加を実現できるのは携帯電話会社しかないことも十分認識しているが、第4世代の技術導入は顧客が何を求めているかという展望のもとになされるべきだと主張している。

特別研究員 本間 雅雄
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