2006年10月号(通巻211号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:市場・企業>

韓国、補助金導入以後の移動通信事業者の業績とMNP動向

 韓国において、2003年より3年間、過度な顧客争奪戦等を懸念して禁止されていた携帯端末補助金が、2006年3月末に合法的に一部解禁された。同制度が復活し顧客マーケティングが過熱したこと等によって、移動通信事業者の4−6月の業績は各社とも利益が大幅に減少する結果となった。本稿では、補助金に関わる韓国の移動通信事業者の第2四半期実績を概観するとともに、合わせて日本より先行して適用された韓国のMNPについてどのような影響が出ているのか、最近の動向をとりまとめることとする。

■移動通信事業者3社は軒並み減益へ〜第2四半期業績動向〜

 韓国の移動通信事業者3社の第二四半期の業績は、営業収入については全社増収だったものの、営業利益について、前期比及び前年同期比の両面において、減益基調へと切り替わった。各社個別の事情として、通信委員会や公正取引委員会による不公正取引に対する課徴金の賦課やLGテレコムの3G免許剥奪など一時的な要因もあったが、全社に共通して挙げられる一因として、補助金の合法化に伴う同時期の顧客マーケティング費用の増加が指摘されている(表1参照)。各社とも前年同期比で営業収入全体に占める割合で見ると、同費用が4−5%程度、増えているのが実態である。

表1:韓国移動通信事業者の2006年第2四半期実績

 携帯電話の販売補助金の一部解禁に至った経緯については、本誌2006年4月号にて報告した通りであるが、導入後の経過としては、以下のような経緯をたどっている。2006年3月末の解禁当初は、各社ともに模様眺めの内容(補助金金額も限定的)にて補助金支給基準の利用約款申請を提出した。なお、補助金金額の枠組みについては、各社共に利用期間の長さと最近6カ月の月額平均利用料金に応じてユーザーを区分し、その支給額の水準を変える形をとっている。

各社の最初の出方が見えた直後の2006年4月を中心に、下位2社であるKTFとLGテレコムが口火を切る形で、特に月額利用料が高いユーザー向けを中心に補助金の増額提示が相次いだ。また、新規のオファーを出すキャリアに対して、他社がそれに追随、又は更に優遇する内容の補助金支給基準を申請するといった形での顧客争奪戦が展開されている。現在の各社の補助金支給内容は以下の表2の通りとなる。

表2:韓国移動通信事業者の補助金支給基準

 なお、韓国の携帯電話市場ではもともと補助金が禁止されていた時期から販売管理費等の名目で様々な不法補助金が横行してきたが、2006年3月末に補助金が正式解禁となった後も激しい競争環境の中、認可された約款上の補助金枠組外で、追加的な不法補助金の拠出が引き続いて行なわれているのが実態である。このような事態に対して規制機関は取締りを強化しており、6月には過去最大規模の不法補助金に対する罰金制裁が、移動通信事業者3社に課せられた。

 補助金をめぐる今後の動きであるが、引続き支給基準をめぐる各社の駆け引きが続いていく模様である。最大手のSKテレコムでは第2四半期の業績発表時、2006年通期目標について、対営業収入に占めるマーケティング費用割合を当初の17.5%から20.5%へ変更、また収益性指標であるEBITDAも4,400億ウォンから4,000億ウォンへと引下げ、年後半に向けた更なる営業攻勢に向けて準備を整えた。同社コメントによると、中長期的な収益性を考慮した場合、既存顧客を失うデメリットは大きく、顧客リテンションを重要目標に掲げている。他2社がどのような動きを見せるかにもよるが、韓国の移動通信事業者にとって、2006年の業績動向は不透明感が増している。

■MNP動向〜利用者増の傾向〜

 さて、補助金解禁前後のMNP利用者の動向に目を向けてみると、2006年は前年の2005年に比べ、総じて利用者の数が50〜60万加入と月ベースで10万加入前後、増えていることが分かる(表3を参照)。年度当初は地上波DMBの携帯端末販売開始等、サービス面の競争が寄与した一方、4月以降については補助金動向がMNP利用者の推移に影響を及ぼしている、と見られる。特に今年の6月には約95万人という、過去最高の携帯ユーザーがMNPを利用しており、これは補助金支給の競争が過熱した時期と機を一にしている(一方、4月は当初の補助金水準が予想より少ない提示となったこと、またキャリアの補助金動向を見極めようとしたユーザー心理によって、端末買い替えやそれに伴うMNP利用が手控えられた、と考えられる)。年後半も補助金やそれに伴う各社のマーケティング戦略が、引続きユーザー数の動向に影響をもたらすことになりそうだ。

表3:韓国 携帯番号移動者(MNP)数の月別推移

■韓国のMNP制度の経緯等

表4:韓国 携帯電話市場シェアの推移 さて、韓国では日本に先行して、2004年1月より携帯電話のMNP制度が導入されている。その導入形式はユニークなもので、トップシェアを誇る支配的事業者SKテレコムから他社への移行を促進するため、時差方式(当初はSKTから他2社への移行を開始、その6カ月後に第2位のKTF、そして最後に2005年1月からLGテレコムからの移行もはじめ、1年をかけて3社間相互の完全なMNP制度を導入)を採用した。その結果、同制度の導入後、SKテレコムの支配的な状況等、基本的な業界秩序は変わらなかったものの、SKテレコムがわずかながらシェアを下げる効果をもたらしている。なお、韓国におけるMNPののべ利用者は2年半ほどで1,200万人を超えており、これは携帯電話加入者数全体の約33%に当たる。韓国のMNP制度は、移行事業者における手続きのみでキャリア変更が可能な「ワンストップ型」であり、費用も1,100ウォン(約140円程度)で安価なことが、利用を促進していると考えられる。

表5:MNPにおける累計占有率と年度毎の事業者別MNP利用者(2006年7月末時点)

 研究員 渡辺 祥
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