2007年4月号(通巻217号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:市場・企業>

仏SFR、ホームゾーンの商用サービスを開始

 フランス第2位の移動体通信事業者であるSFRは、2007年4月を前にホームゾーン・サービス「ハッピー・ゾーン」の国内商用サービスを開始した。既に2007年3月の時点で、同社のホームページ上(http://www.sfr.fr/offre-sfr/happy-zone/)にはサービス案内が掲載されており、サービス窓口に電話するか、SFRショップで申し込むことで24時間以内に利用可能となる。本稿では、フランス初のホームゾーン・サービスを開始したSFRの狙いと今後の融合サービス市場について考察する。

■ホームゾーン・サービスの概要

 ホームゾーン・サービスはFMS(Fixed Mobile Substitution)とも呼ばれ、携帯電話で固定電話の料金メリットを代替するサービスである。すなわち、通信システムとしては移動体そのものであるが、自宅およびその周辺エリア(これをホームゾーンと呼ぶ)から発信する場合の通話料金を固定電話並みに安くする料金割引サービスである。ホームゾーン・サービスは1999年にO2がドイツで開始して成功を収め、2005年には同国第2位の移動体通信事業者であるボーダフォンD2、2006年に第1位のT−モバイルが相次いで参入したことから、ドイツでは急速に加入者数を伸ばしている。また、イタリアでも同国第2位のボーダフォン・イタリアが開始して成功しつつある。

 通常の移動体通信システムに対するホームゾーン・サービスの技術的な特異性は、ホームゾーンの設定と端末でのゾーン認識方法にある。SFRが採用したのは、他国で最近開始した事業者と同じくシンプルな方式であると考えられる。すなわち、基地局のセルでホームゾーンを定義し、ネットワーク装置から提供するビープ音等でゾーン内外を識別できる様にしている。主にネットワーク側のソリューションでサービスを実現しているため、ユーザは既存の携帯電話端末をそのまま使用できる。

■ハッピー・ゾーンの概要

 ハッピー・ゾーンは、SFRが2006年10月4日に国内の2つの地域に限定したトライアルとして開始したフランス初のホームゾーン・サービスである。2G(GSM)と3G(W−CDMA)の両方の移動通信方式に対応する。本サービスは携帯電話料金プランに対するオプションの位置付けであり、トライアルの時点では月額15ユーロを支払うことで、ホームゾーン内からのフランス国内固定電話への通話をかけ放題としていた。なお、商用サービスとなった現在では料金が変更されており、SFRに1年以上契約している場合は月額9.9ユーロ、1年未満だと14.9ユーロ(ただし、現在は最初の2ヵ月を9.9ユーロとするキャンペーンを実施中)となっている。表1に自宅からフランス国内固定電話への通話を定額にする電話サービスの月額料金の例を示す。

「表1 自宅から固定電話番号への通話を定額にする電話サービスの料金比較例」

 表1より、SFRのハッピー・ゾーンは、従来のホームゾーン・サービスがターゲットとする「携帯電話を必須としながら、自宅から固定電話への通話も多い」ユーザ向けのサービスに限定されず、自宅内から固定電話への定額通話を安価に提供する、魅力的で競争力のあるサービスであることが分かる。

■SFRの戦略と今後のフランスの融合サービス市場

 今回の商用サービスの開始は、トライアルが成功し、その結果にSFRが満足していることを意味する。技術的課題については、他国で先行開始したボーダフォングループ事業者からのフォローがあったかも知れない。商品性については隣国ドイツでの成功事例がある。しかし、ホームゾーン・サービスは料金割引サービスであるため、一般的には通話料収入に対してネガティブに働くと考えられており、事業者にとって商業的な魅力は低い。その中で今回あえて月額料金を下げて全国展開を開始したSFRの戦略はどこにあるのであろうか。先行でホームゾーン・サービス開始した事業者にはそれぞれの理由がある。例えば、O2や韓国のLGテレコムの場合は「後発もしくは市場シェアの小さい事業者が大手既存事業者とのサービス差別化で新規加入者を獲得する」戦略であるし、ボーダフォンD2やT−モバイルの場合は「先行事業者への対抗」戦略であろう。しかし、SFRは移動体通信事業者としては後発でも小規模でもなく、また対抗すべき先行ホームゾーン・サービス事業者はフランスには存在していないため、また違った戦略があるはずである。ひとつ考えられるのは、フランス国内におけるブロードバンド回線上での安い定額VoIPサービスの存在である。ブロードバンド回線の存在を前提とした場合に、ホームゾーンのオプション料金をたとえばVoIPオプションと同レベルにする必要があったのかも知れない。あるいは、元々家庭内の固定電話が定額VoIPにシフトしており、ホームゾーン・サービス導入による携帯通話料収入低下の懸念が無かった(値下げしてもプラスの収益が出る)可能性もある。すなわち、「VoIP対抗」戦略もしくは「ARPU改善」戦略ということである。

「パリの新凱旋門の近くに建つSFRの本社ビル
と指型のオブジェ」 ホームゾーン・サービスは従来の携帯電話利用者にとって極めてシンプルで分かりやすいサービスであり導入障壁が小さい。もしSFRがホームゾーン・サービスで携帯電話市場シェアを伸ばすことになれば、今のところFTグループとしてFMCサービス「unik」を提供しているシェア第1位のオレンジも何らかの対抗策を打ち出してくる可能性がある。今後、フランス市場におけるSFRの「ハッピー・ゾーン」の動向は要注目である。

(写真)パリの新凱旋門の近くに建つSFRの本社ビルと指型のオブジェ

石井 健司
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