2008年5月号(通巻230号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:市場・企業>

ノキア、株価急落

 世界の携帯電話販売シェア首位のノキアは2008年4月、2008年第1四半期の業績を発表した。その中で好調な決算を公表する一方、2008年度に市場が停滞する見込みであるとしたため、同社の株価が急落した。ノキアの市場の見方や最近の取り組みを含め、世界の携帯電話端末業界が置かれた環境を整理したい。

■2008年は市場縮小の見込み

 ノキアが2008年4月17日に発表した2008年第1四半期の業績では、現状の好調さが見て取れる。売上高は126.6億ドル(前年同期比28%増)、営業利益率が12.1%(同マイナス0.8ポイント)となった。前年同期にはノキア・シーメンス・ネットワークス事業の一部(旧シーメンスのキャリア関連事業)が含まれていないことから単純比較はできないが、前年と比較可能な端末・サービス部門で見ると売上高は92.6億ドル(同13%増)、営業利益率が20.3%(同5.0ポイント増)となり、好調に見える。

 しかし、あわせて発表された同社の2008年の見通しが株価の急落を招いた。同社は報道発表において以下の見解を示している。

  • 世界全体の2008年通年のモバイル機器販売台数について、2007年の推定11億4,000万台から約10%増加すると予想している
  • 2008年のモバイル機器市場はユーロ建ての金額ベースで2007年より縮小すると予想している
  • これまでの拡大予想から変更した理由は、最近のドル安、米国での全般的な景気減速、欧州でも今後ある程度の経済減速が予測されることである
  • ノキアの2008年機器平均販売価格はやや低下すると見ている。主に新興市場の影響力増大と、全般的な競争要因による

  2008年の世界の携帯電話市場が金額ベースでマイナス成長になるとの同社見通しを受け、同社の株価は1日で約14%の急落を見せた。JPモルガンはオーバーウェイトからアンダーウェイトへ、UBSはアウトパフォームからニュートラルへ、それぞれノキア株の評価をダウングレードした。2007年11月にニューヨーク市場で40ドルあった同社株は、半年経たないうちに30ドルを割る水準になっている。

【ノキアの株価推移(過去1年、ニューヨーク市場)】

■食糧価格の上昇がノキアに打撃か

 ビジネスウィークのウェブページでは、「アナリストの中には食糧価格の上昇により、急成長する新興市場において携帯電話販売が打撃を受ける懸念がある。そうした市場では低所得の消費者が『コメか携帯か』の選択を迫られるかもしれないとの見方がある」と報じている。この点に関し、ノキアのカラスブオCEOは「(食糧価格と携帯販売の)関係は遠い。携帯電話は必須のアイテムである」とカンファレンス・コールの中で述べている。日本では、消費者が小遣いを携帯電話にシフトさせるためにマンガが売れない、音楽CDが売れない、といわれた時期がある。新興市場では、消費者が食べていくために携帯電話が売れない、となるのだろうか。なおノキアでは、2008年には新興市場における買い替え需要が1台目購入の需要を初めて上回ると予測している。市場環境は変わりつつある。

 ノキアは、新興市場における低価格端末の販売で多くの利益を稼いできた。これまでは平均販売価格の下落(2008年第1四半期で79ユーロ、前年同期89ユーロ)を、販売台数の伸び(2008年第1四半期で1.15億台、前年同期0.91億台)が上回ってきたが、端末が売れなくなれば販売価格に下方圧力がかかっても不思議ではない。食糧価格の上昇に対して、通信業界が直接的に講じることができる有効な手立てはなかなか見つからないだろう。

■新興市場依存、北米市場での販売台数低下が平均販売価格の下落に

 同社は、平均販売価格の低下は低価格機種の増加と、平均販売価格の低い地域での販売比率が増えたことであると発表している。販売台数を地域別で見ると、販売台数の伸びを支えるのは欧米以外の市場であり、これらの地域での平均販売価格は高くない。ノキアの販売台数のうち全体の2割強は欧州市場におけるものであるが、北米市場が占める割合の低下は目立つ。

【ノキアの地域別モバイル機器販売台数】

■新機種投入で平均販売価格、販売台数への効果が期待できるか

ノキアは2008年3月末から4月にかけて、ハイエンド、ローエンドのそれぞれの市場向けに新機種の投入や開発を続々と発表してきた。こうした機種が短期間にシェアの維持ないしは拡大に、また平均販売価格の押し上げにつながることは難しいが、ノキアにとって新機種への期待は当然高いものと思われる。

− タッチ式の新機種(コードネーム「Tube」)を開発中であることが明らかに。iフォンと似た形状。出荷時期は明らかにされていない。

− 無線LAN機能とVoIPクライアント機能を統合したGSM/Wi−Fiデュアルモード端末「6300i」を発表。2008年第2四半期に一部市場で発売の見込み。販売予定価格は175ユーロ。

− 新興市場での買い替え需要を狙った携帯電話機4機種を発表。
「5000」:130万画素のカメラ、320×240画素のメイン・ディスプレイ、録音可能なFMラジオ機能、メール機能などを搭載。
「2680 slide」:新興市場向けで初めてのスライド型機種。インターネット接続とエンタテインメント機能を充実。録音可能なFMラジオ機能、MP3ファイルの着信音設定、カメラなど。
「7070 Prism」:画面の壁紙やMP3ファイルの着信音設定等のカスタマイズ機能を特徴とする折りたたみ式機種。
「1680 classic」:「これまでで最も手ごろな価格のカメラ機能付き携帯電話機」と位置づける機種。カメラは640×480画素。動画録画機能、メール機能を持つ。また、家族や小規模の企業において携帯電話機を共用するための機能も備える。

■ノキアを追う好調韓国勢、勢いは続くか

 ノキアの今回の株価急落は、携帯電話端末市場の将来への不安を反映させたものと理解できよう。2007年は世界の大手5社のうち、モトローラが持っていたシェアが他の4社に分散する形で各社がシェアを伸ばしたが、2008年3月には早くもソニー・エリクソンが、自社プレゼンスが大きい欧州のミドル〜ハイエンド市場での成長鈍化が見られるとして業績見通しを下方修正した。実際、第1四半期実績では前年同期比で売上高8%減(29.3億ユーロ→27.0億ユーロ)、純利益48%減(2.54億ユーロ→1.33億ユーロ)となっている。携帯電話販売市場が、欧州では成長が鈍化し、新興国でも打撃を受けるとなれば、業界全体への影響は避けられないだろう。

 しかし、韓国勢に関しては足下の決算を見る限り、勢いがある。サムスン電子は2008年第1四半期の販売台数が4,630万台となり、過去最高となった2007年第4四半期の水準を維持した。LG電子も2,440万台と四半期ベースで過去最高の販売台数を記録し、四半期シェアではソニー・エリクソンを抜いたばかりか、2,740万台を販売したモトローラに大きく近づいた。韓国勢の勢いがこれからも継続するのか、もしくはノキアが予想するように2008年は市場全体が縮小し、その影響を受けて減速するのかは、今後注目すべきポイントになるだろう。

岸田 重行
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