2008年8月号(通巻233号)
ホーム > レポート > 世界の移動・パーソナル通信T&S >
世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:ネットワーク&スタンダード>

携帯電話用基地局の省エネ化と代替エネルギー利用動向

 携帯電話業界においても環境保護(エコ)への取り組みは最近のトレンドになりつつある。ユーザーにとって最も身近な存在である携帯電話端末の取り組みについては、以前に本誌でも取り上げた(本誌2008年2月号の30ページを参照)が、一般にはなじみの薄い携帯電話インフラ装置の分野でもエコへの取り組みが進んでいる。全世界30億人の携帯電話利用者のために基地局が消費する電力の料金は年間980億ユーロに達し、その二酸化炭素排出量は年間9,000万トンになるという。本稿では、ここ1年間で明らかになった携帯電話用基地局関連のエコ施策をいくつか紹介し、各企業の狙いと今後の展望を考察する。

■通信機器ベンダーの取り組み

 ノキア・シーメンス・ネットワークス(NSN)は2007年11月、携帯電話インフラの電力効率を抜本的に上げることが可能な省エネ対応基地局を発表した。従来よりも高温の環境下で動作できるようにすることで、装置冷却のためのエアコンの消費電力を削減する。また、通信処理負荷が低い場合に装置を省電力モードに移行させるソフトウェアを導入するといった工夫で、基地局の消費電力を最大70%削減できるという。同社幹部は、環境負荷の軽減だけでなく、通信事業者にとって運用コストの大幅な節約が可能なソリューションであると主張している。
 グローバルな携帯電話インフラ市場でNSNと共に2強を成すエリクソンも、省エネ型基地局を開発している。同社もまた、装置冷却面での工夫と省エネソフトの導入により、従来型と比べて25〜40%の消費電力削減を達成している。

■通信事業者の取り組み

 世界最大手の携帯電話事業者であるボーダフォンは2008年4月、同社からの二酸化炭素排出量削減に向けた計画を発表した。2020年までに現在の排出量から50%の削減を目指すという。同社によれば、携帯電話インフラ装置からの排出量が全体の80%を占めており、まずはこれらの装置の電力効率向上および再生可能エネルギーの利用を促進させるという。同社CEO(当時)のサリン氏は、「環境保護とビジネスの両面で理にかなう」と述べている。

 ネットワーク装置の省電力化とは別のエコ施策への取り組みも進んでいる。例えば、米国の携帯電話事業者は、風力タービンや太陽電池パネル、水素燃料電池等のいわゆるグリーン・エネルギー活用の検討が進んでいるという。ただし、これらの代替エネルギーは既存の配電インフラからの電力供給に比べてコストが高くつくため、今のところバックアップ電源用途に限られるという。米国携帯電話事業者の中でも、スプリント・ネクステルは代替エネルギーの導入と配備を精力的に行っている。同社は携帯電話サービスの信頼性を高めるため、代替エネルギーの「環境に優しい」面だけではなく、「再生可能性や持続性」に着目し、災害時等の停電に備えている。

 インドネシアのテレコムセルは2007年11月、エリクソンが開発した太陽電池で動作する省電力型のGSM基地局を配備した。標準的な基地局に比べて最大60%の消費電力の削減が可能であり、配電インフラからの電力供給が制限される同国のルーラル地域に展開しているという。

■エコ施策を進める各企業の狙い

 NSNやエリクソンといった最大手通信機器ベンダーの最終的な狙いは、やはりグローバルな通信インフラ市場でのシェア維持と拡大であろう。同市場規模は2007年に299億ユーロに達し、今後も年間5%程度の成長が見込まれるという。現在の市場で両社は2強のポジションにあるとはいえ、中国の華為技術(フアウェイ)の様な後発ベンダーが低価格を武器にシェアを急速に伸ばしている状況を踏まえると、両社のインフラ装置群にはなんらかの強力な差別化要素が必要となる。基地局の省エネ対応は、「環境負荷の軽減」といった看板だけでなく、「運用コストの削減」といった具体的なメリットを通信事業者にアピールできる点で強力な武器になろう。

 一方の携帯電話事業者の狙いは様々である。ボーダフォンの場合は、元CEOの発言にある様に、運用コストの削減といった純粋な「ビジネス面での理」からきたものであることが伺える。また、スプリント・ネクステルの場合は、自然災害に対する耐性や可用性の向上である。テレコムセルの場合は、配電インフラが整備されていない地域へのエリア展開を目的とする。

 いずれにしても、各社のエコ施策は「環境保護」一辺倒ではなく、何らかの実利を伴っている点で、今後も無理なく継続できそうに思える。また、どの施策も携帯電話ユーザーに対して直接的あるいは間接的なメリットをもたらしそうだ。すなわち、携帯電話インフラのエコ施策は、サービス料金の低減(サービス提供コストの低減による)や通信機会の向上(特に災害発生時)、通信エリアの拡大(未開地等)といったメリットに繋がる可能性がある。また、携帯電話端末のエコ施策は、通話/通信可能時間の延長(端末の省電力化)や廃棄手続きの簡略化(エコ素材採用)といったメリットがありそうだ。将来の環境低負荷型社会の実現に向け、携帯電話サービスが正のスパイラルで拡大し、今後も利便性と環境保護の両面で益々重要な役割を担うことに期待したい。

石井 健司
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。