2008年11月号(通巻236号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:移動通信サービス>

統計数値から見る、世界の公衆無線LANの最新動向

 最近、日本の携帯電話でもようやく無線LAN機能が搭載される機種が増え始めた。特にアップルのiフォンやノキア・台湾HTCのスマートフォン等、海外メーカーの高機能端末では無線LANが標準搭載となっているケースが多い。海外の場合、日本と違って3Gの普及が本格化しはじめたところであり、外出先での高速無線通信の手段として、無線LANが果たす役割がより大きい、と言って良いだろう。また、身の回りを眺めると携帯電話に限らず、携帯ゲーム機やデジタルカメラ等、様々な小型デジタル機器に無線LAN機能が搭載されてきているのが目に付く。米調査会社Instat社の最新調査によると、2007年だけで2.94億台の無線LAN搭載機器が出荷されていて、これが2012年には10億にまで達する、としている。こういった機器は屋内だけではなく、外出先でも公衆無線LAN経由でネット接続したい、とのユーザー要望は当然強い。本稿では各種統計数値を通じ、世界の公衆無線LANの提供状況や利用動向について、概観することにしたい。

■事業者による商用無線LANのエリア展開は鈍化傾向に

 公衆無線LANサービスエリア(以下、ホットスポット(注1))の世界総数を集計している、公式な統計は見当たらない。そのような中で、比較的網羅性があり参考となる公表数値が、無線LANプロバイダー向けにローカル広告等を提供する米企業JiWire社による、ホットスポットの情報リスト(ディレクトリー)だ。同統計によると、世界のホットスポット数(有料・無料、自治体Wi−Fi等を含む)は2008年11月現在、136カ国にまたがって23万超、点在している。その成長ペースは2005年1月に5万、2006年1月に10万を突破、といった調子で順調に伸び続けている模様だ。

(注1)本文中では「公衆無線LANサービスエリア」を指す。ちなみに「ホットスポット」はNTTコミュニケーションズの登録商標である。

 一方、米欧亜の主要オペレーター(通信事業者、Wi−Fiプロバイダー)による商用ホットスポット数については、3G Wireless Broadband誌が定期的なレポートを出している。それによると、事業者主導の商用ホットスポット数は年率2桁の成長率で伸び続けていたが、この1〜2年ほどで、ホットスポット数の増減(新設/廃止)が徐々に拮抗し、全体の伸びが鈍化する傾向を見せ始めた。同誌のデータによると、2008年第2四半期末の段階で商用ホットスポット数を125,147と算出、これは対前年同期比で8.08%の成長率に留まっており、本年末にかけてさらにその成長スピードは7%台まで落ちる、と予測した。なお、地域別な特徴としてはこの2〜3年、主要3地域の中で、成長の主役が北米から欧州に移っている点が挙げられる。同誌のデータでは、主要事業者による商用ホットスポットの分布は、約45%が欧州、約31%がアジア、約24%が北米、というのが実態だ。

■ビジネスユーザーの公衆無線LAN利用率は高成長

 では実際、世界の公衆無線LANサービスはどのような場所で、どの程度利用されているのだろうか? 1つの参考指標となるのが、法人向けグローバル・ホットスポット・アグリゲーターのiPass社より年2回、発表される「Mobile Broadband Index」(以下、Index)だ。

同社は2008年9月22日、2008年上半期(1〜6月)のユーザーの無線LAN利用動向(注2)を集計した最新統計を公表した。iPass社では世界中で10万以上のアクセスポイントを運営し、3,000以上の法人顧客(Forbes Global 2000に該当する大企業数百社を含む)を抱えている。Indexが示す統計数値は、ビジネスユーザーが中心とは言え、無線LANの利用動向に関する様々な示唆を与えてくれている。

(注2)米国については、2.5G/3Gのデータ・トラフィックの利用動向も合わせて発表している。

 Indexでは四半期ベースで約100万に及ぶユーザー行動が集計対象となっており、世界中のホットスポットにおけるセッション数(1セッション=1ユーザーが1つのホットスポットで1日当たりに1回または複数回ログインした数)を単位として地域別、都市別、利用シーン別等でその利用状況をとりまとめている。

 内容を見ると、まず世界の無線LANの利用動向は、前年同期比で46%増加していることが見て取れる(表1)。iPass社では、ビジネスユーザーが以前にも増して、職場から離れた場所で無線アクセスを活用して仕事をしている実態が浮かび上がった、と指摘している。また、世界を地域別に見ると、Indexの公表を始めて以来、初めて欧州におけるセッション数が米国を上回った。前記の3G Wireless Broadband誌で指摘したホットスポット数の相対的な増加を合わせると、欧州で公衆無線LANが活発に利用されるようになった状況が浮き彫りになったと言えるだろう。同じく地域別の統計では、米国以外の全てのエリアで大きく無線LANの利用セッション数が伸びているのが特徴的だ。

【表1:地域別の公衆無線LANサービス利用動向】

 国別(表2)で見ると、引き続き世界の44%の公衆無線LANサービスの利用は米国で行われていることが分かる。その他のトップ10は西欧各国、日本、豪州で占められているが、特にこの1年間で独・仏両国での伸びが顕著なのが目を引くところだ。さらに都市別(表3)にブレークダウンすると、トップのロンドンが他を引き離しているものの、2、3位にシンガポールと東京というアジアの都市が台頭し、ロンドンを猛追している点に注目が集まる。

 一方、利用シーン別(図1)では、空港とホテルを合わせると約75%を占める。特にホテルについては、セッション当たりの接続時間が他の場所と比べて(91分)圧倒的に長い(167分)のが特徴だ。また、全体の利用割合ではまだ小さいものの、通勤のための交通手段(電車、フェリー等)や公共空間(公衆電話、シティーセンター等)での利用が急速に拡大しており、無線LANの対応エリアの広がりとともに、その利用シーンも多様になりつつあることを示している。

【表2:国別の公衆無線LANサービス利用動向】【表3:都市別の公衆無線LANサービス利用動向】【図1:利用場所別の公衆無線LANサービス利用割合】

◇◆◇

 世界の携帯電話業界では、急増し始めたデータ・トラフィック量を迂回するルートとして、また大容量のコンテンツをユーザーに送り届ける手段として、無線LANが再び脚光を浴びている。ノキアやアップルが自社の音楽コンテンツを提供するにあたり、携帯電話網ではなく無線LANを活用しているのは極めて現実的な選択だ。HSPA、LTE、WiMAX等、様々な将来のワイヤレス・ブロードバンドの提供方式が議論の的となる中、すでに大容量のワイヤレス通信を屋内外で安価に提供出来る無線LANの存在は、今後も引き続き活躍の範囲を広げていきそうだ。

渡辺 祥
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