2009年3月号(通巻240号)
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<トレンドレポート>

オバマ新政権のブロードバンド戦略

 米オバマ新大統領は、米連邦通信委員会(FCC)の新委員長に盟友のゲナコウスキー氏を指名するだろうという。オバマ政権は、ブロードバンドの大規模展開を経済再生プランの重要な一部としており、今回の指名は、それを推進するFCCに大きな期待を示したものと受け止められている。しかし、ブロードバンドの展開促進に多額の国の資金を直接投入することについて、その効果に対する疑念のほか、「ネット中立性」の法制化を先行すべきだといった議論も根強く、必ずしもコンセンサスが得られている状況にはない。

■新FCC委員長にゲナコウスキー氏指名が有力

 FCCの新委員長にジュリアス・ゲナコウスキー(Genachowski)氏を選ぶことによって、バラク・オバマ次期米大統領は、米国のメディアおよび(情報)技術の規制機関(FCC)のトップが、これまでの政権下におけるよりも、もっと重要な役割を果たすことになるというシグナルを送った。なぜそう言えるのか。ゲナコウスキー氏とオバマ次期大統領とはハーバード大学法科大学院時代からの長年の友人である。46歳のゲナコウスキー氏は、オバマ氏の腹心として大統領選挙期間中、支持者を拡大するためにITやSNSを展開する戦略のキー・アーキテクトを務めた。しかし、より重要な理由は、オバマ次期政権が、ブロードバンドの大規模展開を経済再生のための計画の重要な一部としたいと願っていることだ。当然、その推進役として、ゲナコウスキー氏が率いるFCCに、ホワイト・ハウスは期待を寄せている」とビジネスウイーク電子版(注1)は書いている。

(注1)Obama taps Genachowski, and tunes the FCC in to broadband (BusinessWeek online / January 13, 2009)

 前掲のビジネスウイーク電子版(2009年1月13日)によると、ゲナコウスキー氏の登用は異色の人選だという。これまでFCC委員長の経験者の多くは、通信業界の利益代弁を専門とするワシントンの大手法律事務所で働き、ワシントンの政策インサイダーだったのに対し、ゲナコウスキー氏はニューヨークでメディア業界の幹部としてキャリアを築いた。彼は弁護士で、過去にFCCに在籍し、クリントン政権下のリード・ハント委員長の時代に首席顧問を務めたこともあるが、米メディア業界の大物バリー・ディラーが率いるインターネット複合企業IACIインターラクティブの幹部として8年間勤務した。最近では、自ら複数のベンチャーキャピタル会社を経営していた。ワシントンのインサイダーとは異なる新たな視点をFCCにもたらすだろう、と期待されている。

 本稿執筆時点(3月5日)で、次期FCC委員長の指名は行われてないが、ワシントンポスト紙(2009年3月4日)(注2)は、3月3日にオバマ大統領がゲナコウスキー氏をFCCの次期委員長に指名するつもりだと語った、と報じている。これは、オバマ政権の高官がテレビのトーク・ショウで、今後数週間以内にゲナコウスキー氏がFCC次期委員長に確実に指名される、とうっかりして喋ってしまったことによるものだという。通信およびIT業界が特に注目している新政府のポストは、FCCの委員長、商務省のNTIA(National Telecommunicatios & Information Administration)の長官およびオバマ大統領が公約した初代の政府CTO(Chief Technology Officer)だという。後の2つのポストに誰が指名されるかは未だ決まっていない。

(注2)Campaign aide tapped to head FCC(The Washington Post / March 4,2009)

 次期FCC委員長が立ち向かわなければならない課題とは、次のようなものだという。まず沈滞したFCC組織内の士気を鼓舞する必要がある。前任のケビン・マーチン委員長は、自身の目指す方針を 推進するため、データ改竄や指示に従わないスタッフの配置換えを強行したという。他の4人の委員もFCCの意思決定の(適正な)プロセスが遵守されていなことを憂慮していた。多くの有能なスタッフがFCCを去ったとも言われる。下院エネルギー・商業委員会もこの問題に対するレポート(注3)を発表している。

(注3)Deception and distrust: The Federal Communications Commission under chairman Martin(December 9, 2008)下院エネルギー・商業委員会による超党派のMajority Staff Report。マーチン委員リーダーシップの下における、とんでもない権力の乱用、情報の隠ぺいおよびデータの操作などを具体的に指摘し、本レポートが次期政権のリーダーシップの下で、公正、オープンかつ効率的なFCCとなるのロードマップとなることを期待している、などと書かれている。

 第2の課題はテレビ放送のアナログからデジタルへの切り替え問題である。オバマ大統領は次期大統領(President‐elect)当時既に、この移行計画には重大な問題があるとして、完全移行を今夏まで延ばすことを議会に提案していた。一部の人たちが予測する、何百万人もの米国の人々が一夜にしてテレビを視聴できなくなるといった大混乱(視聴率調査会社のニールセンによると、米国の全世帯の4.4%に相当する500万を超える世帯が2月17日時点でデジタル放送を視聴できないという)を避けるべきだというのがその主張である。その原因は、デジタル移行のために政府が用意した「40ドルクーポン券」の予算(13.4億ドル)が枯渇し、今年の1月4日でクーポン券の申し込みに応じられなくなったことによる(1月10日現在で110万世帯がウェィティングリストに登録されている)。

 議会はこの要請に応じて移行期日を6月12日まで延期する法案を可決(下院では1回目は可決できず2回目でようやくで成立した)し、2月11日に大統領が署名した。この結果正式に6月12日までアナログ放送が続けられることになった。しかし、同法では準備の整っている放送局がアナログ放送を打ち切ることを認めており、サイマル放送を続ける経済的余裕のない小市場の放送局など421局(全体の3分の1にあたる)が2月17日にアナログ放送を打ち切った。次期FCC委員長が取り組むべき課題は、アナログ放送からデジタル放送への完全移行を、延期した6月12日に円滑かつ確実に実施することである。

 ゲナコウスキー氏を待ち構えている第3の課題は、インターネットに対するイコール・アクセスを全国民に与えるべきか否かという「ネット中立性」を巡る論争である。同氏と大統領候補だったオバマ氏は、「ネット中立性」の強力な提唱者であるが、それを命令するための立法措置にまで踏み切るかどうかは、依然として明確ではないという(前掲、ビジネスウイーク電子版/2009年1月13日)。

■オバマ新政権のブロードバンド戦略

 次期FCC委員長が直面する第4の課題は、言うまでもなくブロードバンド政策に如何に積極的に取り組むかであり、これが最大の問題である。オバマ大統領は大統領候補だった時から、ゲナコウスキー氏の助言を受け入れ、ブロードバンドの高速化とサービス提供地域の拡大が、生産性の向上と技術革新に不可欠であると確信していることを、明確かつ声高に主張してきた。しかし、オバマ政権の幹部は、ブロードバンド政策に景気刺激策の一部を担わせること以外に、どのように計画を推進していくかを示していなかった。

 しかし、オバマ大統領は就任後の1月24日に、インターネットなどを通じた国民向け演説で、景気対 策案について雇用創出などの効果を改めて強調した。景気対策案の規模は8,250億ドルで、公共事業や環境分野への投資など5,500億ドルの歳出と、2,750億ドルの減税措置から構成されている。そのうち75%を、着手から約1年半後の2010年9月までに執行する方針で、「迅速に執行されない懸念」を抱く議会に対し、早期執行による即効性を強調した。

 オバマ政権が発表した景気対策案のなかで、「われわれは21世紀の需要に応えるため米国を再建し、改修するだろう。(中略)そのことは、数百万人の米国人にブロードバンド接続を拡大し、彼らがどこにいようとビジネスが公平な場で競争できるようにすることを意味する」と強調している。しかし、具体的な投資額や時期などには触れていない。なお、ブロードバンド以外のIT関連施策の目玉として、全米の医療記録の完全電子化と「賢い」送電網の整備とが取り上げられている。前者は5年以内に完了し数十億ドルの医療費を削減する目標が掲げられている(注4)(注5)

(注4)Remarks of President Barak Obama Weekly Access(whitehouse.gov/president-obama-delivers-your-weekly-access /January 24、2009)

(注5)エコノミスト誌によると、政府の景気対策案のうちIT関連歳出は、医療記録の電子化に200億ドル、「賢い」送電網の整備に110億ドル、ブロードバンドに60億ドルの合計370億ドルとみられている(Is “broadband for all” a recipe for recovery, or a boondoggle? /The Economist / January 29, 2009)。

 大統領の発表に先立って、上下両院でも「景気対策法案(economic stimulus plan)」を審議していた。1月17日に議決された下院のブロードバンド整備案は60億ドルの規模だった。また、1月23日に明らかになった上院の案は「improved access to broadband」に90億ドルとなっている。いずれにしても、全米のすべての世帯で利用できる手頃な料金のブロードバンド(affordable high-speed Internet access to all U.S. households)構築に必要な額からは程遠く、早くも失望の声が聞かれるという(注6)。大統領は演説の中で、議会の両党は景気対策プランについて既に熱心に作業をしており、1カ月以内に大統領がサインして法律となることを期待していると述べている。

(注6)Broadband bill disappoints nearly everyone(BusinessWeek online / January 17, 2009)Highlights of Senate economic stimulus plan (Washingtonpost online / January 23, 2009)

 しかし、ブロードバンドの普及に国がどこまで関与すべきか、という基本的問題が残されたままになっている。現在のブロードバンド・プロバイダー(電話会社やケーブルテレビ会社など)の既得権益拡大につながるとしても、ブロードバンド普及のために資金を投入し、早急に雇用を創出すべきだ、との考え方がある。他方、「ネット中立性」確保のための法規制を導入し、一層の競争を促すべきだとする意見も根強い(前掲、ビジネスウイーク電子版/2009年1月13日)。

■ブロードバンドは政府が解決に乗り出すべき課題か

 ビジネスウイーク誌にIT関連の記事を寄稿しているWildstrom氏は大要以下のように述べている(注7)。ブロードバンドに対する(政府)資金の注入は短期的に経済を浮揚させる効果が大きい、とするオバマ次期大統領の考え方は実証されておらず、慎重に評価すべきである。ブロードバンドに対する資金注入が短期的に経済を浮揚させる効果があると主張する人たちの多くが引用するのは、「100億ドルの連邦資金のブロードバンドへの注入は49.8万人の雇用を生み出す」とするInformation Technology & Innovation Foundationの白書である。しかし、その根拠は薄弱であり、歴史的に見ても1人当たり僅か2万ドルの低コストで、多くの雇用が創出された政府プログラムは見当たらない。より高速なインターネット接続から便益が得られる理由は多くあるが、政府が解決に乗り出さねばらないブロードバンド危機にある証拠はない。

(注7)Broadband stimulus:the case for going slow(BusinessWeek online / January 10, 2009)

 Wildstrom氏はさらに次のように述べている。ブロードバンド・インフラストラクチャーの改善は、長期的には国の経済成長および競争力を高めるだろう。しかし、即効薬とはなりえない。ブロードバンド・インフラストラクチャーの改善は対処が必要な大きな課題である。そのためには、まず何が必要かを決めることだという。OECDの256kbps超というブロードバンドの定義は、インターネット・ビデオの時代では速度が遅過ぎて話にならない。だからと言って、市民活動団体のFree Pressが主張する100Mbpsでは、将来に備えるとしても、費用負担が大きく行き過ぎだ。Wildstrom氏は自分が利用している20MbpsのベライゾンFiOSインターネット接続サービスを気に入っているという。しかし、実際にはその半分の速度に達したこともなく、近い将来においてもないだろう、だから、ケーブルテレビもしくは高速DSLで提供される5Mbpsが、当面手頃なブロードバンドの目標だろうとい

 次は、地域的に入手できない人たちと経済的に負担できない人たちに、如何にしてブロードバンドを提供するかであり、最も緊急な課題である。前者の対象は約1,000万人で、時代遅れになった連邦のユニバーサル・サービス・ファンド(現在は主として過疎地域の音声サービスに補助している)の目的を再定義して対処するのがベストだ。後者の大部分は都市に住む貧困および高齢者層である。彼らをデジタル世界から遠ざけている技術デバイドは、低廉なブロードバンドの提供だけでは埋められないだろう。ネットワーク建設とブロードバンドの加入に対する補助金は、結局ケーブルテレビや通信キャリアなどの半独占事業を浮揚させる以外の効果はほとんど期待できないのではないか、と指摘している。

 デジタル・デバイドは、この問題に単純に資金を投入する以上の解決策が求められる、重要な社会問題の一つである。長期的な経済成長のためのブロードバンド構築は、オバマ政権や議会による「景気刺激策」の実行に要する時間よりも長い時間がかかる。賢明な政策のためには、「ゆっくり」がベターだというのがWildstrom氏の結論である。

■景気対策法案がブロードバンド支援を少なく抑えた理由

 前述したように、景気対策法案に盛り込まれたブロードバンド投資額は、下院で60億ドル、上院で90億ドルだった。後で述べるように、両院の協議によって72億ドルの規模で合意した。これでどの程度のブロードバンドの整備が可能なのか。なお、両議会はブロードバンドの定義を法律で定めなかった。

 Qwest Communicationsを含む中規模の通信事業者の団体がまとめたレポートによると、現在高速インターネット(Qwestの場合7Mbps)を提供していない地域に住んでいる同社の顧客は360万世帯で、それらをブロードバンド化するために必要な投資額は60〜65億ドルだという。1顧客当たり投資額では1,700〜1,800ドルとなる(注8)。一方、ブロードバンドが提供されていない地域に住む世帯数は1,000万(前掲のWildstrom氏のレポート)と推定されるので、未提供地域におけるブロードバンド化のための投資額だけで170〜180億ドルが必要となる。このほかに対策が必要な都市地域における貧困層および高齢者層が存在する。「景気対策法」に盛り込まれた72億ドルでは、すべての米国人がブローバンドを利用できるようにする、という目標達成は困難である。

(注8)Telecoms say web funding for unserved falls short (The Wall Street Journal online / January 30, 2009)

 この点について、オバマ政権移行チームの技術政策のトップだったBlair Levin氏(FCCの前幹部職員)は、景気対策法案の中でブロードバンドにより少ない金額しか割り当てられなかったのには、いくつかの理由があると語っている(注9)。第1に、これまで連邦政府がブロードバンドに資金を供与した実績がないことである。道路の建設が政府のプロジェクトであることは明確だ。農村地域にブロードバンドを建設するのも同様である。しかし、それ以外のブロードバンドについて政府のお金を投入することにはコンセンサスがなく、議会において多額の補助金を得るために支持を集めるのが困難であると語っている。

(注9)Why the stimulus bill discounts broadband (BusinessWeek online / January 27, 2009)

 第2に、情報ギャップが存在することだ。どの地域がブロードバンド投資を必要としているか、お金を早期かつ賢明に使うことを困難にする懸念がどこに存在するか、などに関する明確で総合的なデータがない。政権移行チームは、政府のお金が効果的かつ適切に使われるかについて懸念を抱いていた。何にお金を使うかを決定する前に、戦略がなければならないと彼は語っている。

 第3に、経済的な疑問である。大多数のエコノミストは、長期的に通信が経済の生産性を高めることを認めているが、ブロードバンド投資に景気対策法案の主たる目的である短期的な雇用創出能力があるのか懸念を抱いている。何人かのエコノミストは、道路や橋の建設など他のインフラストラクチャー・プロジェクトと比較して、ブロードバンドの建設はそれらと同等の雇用を創出していないと指摘していた。また、他のエコノミストは、ブロードバンド・ネットワークに組み込まれる多くの機器は海外で生産されており、米国経済における雇用創出を希薄化させる、と指摘している。

 現時点で、ブロードバンドの整備を景気対策の中心に位置付けようとしているのは、米国(かなりトーンダウンしたが)以外では英国である。去る1月29日に通信大臣のカーター卿はレポート「Digital Britain」を発表して、ロンドン・オリンピックが開催される2012年までに、すべての世帯が2Mbps(以上)のブロードバンドに接続できるようにすべきだと提案している。また、ブロードバンド化などを通じて、政府は通信産業が英国の不況脱出に大きな役割を果たすことを期待しているとも表明している。本構想における「ユニバーサル・ブロードバンド」は、遠隔地などでは有線によるサービスのコストが高くつくため、有線および無線オペレーターの組み合わせによってサービスが提供されるだろうという(注10)

(注10)Digital future sees broadband for all (The Financial Times online / January 29, 2009)

「Digital Britain」では、光ファイバーで構成される超高速ブロードバンド網の展開に、政府が資金を拠出する可能性を提起しているが、確約はしていない。BTとバージン・メディア(CATV事業)は超高速ブロードバンド網の展開を計画しているが、それでは人口の50%をカバーするに過ぎない。超高速ブロードバンド網のカバレッジを拡大するために、政府は補助金を使うことを検討するだろう、と前掲のフィナンシャル・タイムズ紙(2009年1月29日)は書いている。

■「景気対策法」のブロードバンド配分は72億ドル

「景気対策法案」は8,200億ドルの規模で1月30日に下院を通過し、2月10日には上院でも8,370億ドルの規模で通過した。両院の協議が行われ7,870億ドルの規模で合意し、2月13日に両院で再議決が行われて成立した。オバマ大統領は2月17日に350万人の雇用創出を目指すこの1,100ページの法案に署名し法律として発効させた。低迷する米国経済に新しい生命を注入するために決定的に重要な「景気対策法(The American Recovery and Reinvestment Act)」の大統領による署名は、屋上にソーラー・パネルを敷き詰めたDenver Museum of Nature and Scienceのサニー・アトリウムで、250人のビジネスおよびコミュニティ・リーダーたち、バイデン副大統領および数名の国会議員が見守る中で行われた。「我々の時代にアメリカン・ドリームの火を消さないという極めて重要な仕事を我々は今開始した」、「この法律には米国経済の回復のために実施することが必要な施策はすべて盛り込んだ」とオバマ大統領は語った。しかし、この演出もウオール街のスピリットを鼓舞するには至らず、当日のダウ平均株価は3.8%下がり、5年半ぶりの安値をつけた(注11)

(注11)Obama leaves D.C. to sign stimulus plan (Washingtonpost.com / February 18,2009). Obama signs stimulus into law (The Wall Street Journal online / February 18,2009)

ホワイト・ハウスは、オバマ大統領が署名した7,870億ドルの景気対策法に基づく政府支出の透明化を目的としたサイト「Recovery.gov」を開設した。オバマ大統領は同サイト上の紹介ビデオで、「この大規模な計画を実施するには、無駄、非効率および不要な支出を徹底的に排除するために、かつてないほどの努力が必要である」、「納税者が納めた税金をどこに投資するかに関する重要な決断を、ここで(国民に)精査していただく」と述べている。同サイトには、景気対策法に基づく資金が、それぞれの連邦機関を通じて配分されると、その項目が同サイトに追加されるようになっている。「Recovery.gov」に掲載された7,870億ドルの内訳を以下の(表)で示す。

【表1】Where is Your Money Going?(単位:億ドル)

「景気対策法」の中でブロードバンドはどのように位置付けられているのか。CNET News(注12)によれば、ブロードバンドに配分される資金の規模は72億ドルだという。その内、商務省NTIA; National Telecommunicatios and Information Administrationを通じて配分される資金が47億ドル、 農務省RUS;Rural Utilities Serviceを通じて配分される資金 が25億ドルである。

(注12)Stimulus bill includes $7.2 billion for broadband(news.cnet.com / February 17,2009)

「景気対策法」ではNTIAに非差別的かつオープンな原則を遵守すること、2010年9月までに資金の配分を終え、2年以内にプロジェクトが完了することを求めている。また、NTIAの計画は、サービスが未提供の地域および普及が遅れている地域におけるブロードバンドの展開を加速するため、また、雇用の創出およびかなりの公共的便益を提供できると思われる戦略的な組織に対し、競争原理に基づく補助金(competitive grants)を提供することを意図しなければならない、と同法に規定している。しかし、同法には「broadband」、「未提供(unserved)地域」、「普及が遅れている(underserved)地域」の定義は見当たらない。NTIAは今後FCCとの共同作業によって、これらの定義を明確にしていくことになる。

 さらに同法は、NTIAが配分する47億ドルは、農村地域に限定せず、農村、郊外および都市地域を含む、米国のすべての地域を対象にブロードバンドを提供することを意図すべきである、また、補助金は当該地域が必要とするサービスを最も適切に提供できる事業者に提供すべきで、それには無線プロバイダー、有線プロバイダーおよびラスト・マイル、ミドル・マイルもしくは長距離回線施設を建設するプロバイダーが含まれる、と規定している。

 農務省RUSを通じて配分される25億ドルについては、主として農村地域のブロードバンド接続に焦点が絞られており、十分な高速ブロードバンド接続のない農村地域が少なくとも75%超を占めることが求められている。RUSは消費者が複数のプロバイダーから選択できるプロジェクトに優先権を与えるだろうという。

 ブロードバンドの補助金配分が2つの省を通じて行われることについて、効率性を損なうとする懸念を表明する人たちもいる。補助金を受け取る人たちが、どちらに申請したら良いのか判断に迷いかねないからだ。しかし、いずれにしても72億ドルでは「universal broadband access」の達成には程遠い。そこで、「景気対策法」はFCCに対して、すべての米国住民がブロードバンドにアクセスすることを保証する「national broadband plan」の1年以内の策定を求めている。

■オバマ政権、無線周波数に新たな課税を提案

 米国の2009〜2010年度予算は、「景気対策法」に基づく支出の増加ため、1.7兆ドルの記録的な赤字となる見込みだ。オバマ政権は、この赤字額を2013年までに半減させるため、富裕層に対する増税を打ち出している。ガイトナー財務長官は、3月3日の議会証言で、富裕層への増税(年収25万ドル以上の高所得層に対する最高税率の引き上げおよびキャピタル・ゲイン税率の引き上げ)は2011年に景気がしっかりと回復したら実施すると語ったものの、財政赤字半減の目標については「内外の投資家の信頼維持」に不可欠という見方を強調したという。

 富裕層に対する増税と並んで、無線周波数に対する新たな課税が提案されている。CNET news(February 26,2009)(注13)によれば、増税案は政府から無線周波数のライセンスを受けているワイヤレス・プロバイダーを対象に、新たに課税するというものだ。課税額は、2009年の1事業者当たり5,000万ドルからスタートして、2010年には2億ドルに増やし、今後10年間かけて少しずつ増額して年間5.5億ドルとする。これによって、2010年からの10年間の課税額は48億ドルとなるという。

(注13)Obama proposes new wireless-spectrum fee(news.cnet.com /February 26,2009)

 この新たな税金は、ワイヤレス・プロバイダーが既に連邦政府に支払った競売によるライセンス・フィーと別に課税される。これらの競売は、落札額と引き換えに、当該周波数の独占的利用権をライセンス保有者に認めている。2008年3月に終了した直近の競売は、TV放送のデジタル化によって不要となる700MHz帯を対象に実施されたが、落札額の合計は196億ドルに達した。しかし、無線周波数は有限の資源である。オバマ政権は、今後10年間の無線周波数の競売で得られる収入(落札額)は、48億ドルに過ぎないと予測している。

 しかし、この増税案はワイヤレス・キャリアの強い抵抗に直面すると見られている。一方、民主党が多数派を占める議会は、オバマ政権のプランを支持するだろうという。予算案に盛り込まれた増税案の詳細は、今春遅く明らかになる。激しい攻防が展開されるだろう。

<謝辞> 謝辞:長い間本ニューズレターのトレンド・レポートを担当してきましたが、最近原稿作成にいささか負担を感ずるようになりました。思えば1955年に当時の電電公社に入社以来、NTT、情報通信総合研究所と通信の世界で半世紀を超えて過ごしてきました。このあたりで区切りをつけて、筆を擱くことにしたいと思います。読者の皆様に心から感謝申し上げます。有難うございました。
特別研究員 本間 雅雄
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