2009年4月号(通巻241号)
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サービス関連(製品・端末)

世界の携帯電話、2009年はスマートフォン市場が過熱

 スマートフォンを巡る動きが活発化している。2月にバルセロナで開催された業界最大の展示会、Mobile World Congress 2009では、様々な企業が市場参入を表明、これまでハイエンドにほぼ限定されていたターゲット・セグメントも広がり、端末バリエーションも大幅に拡大する傾向が見られた。折からの経済不況の影響により携帯電話業界は大きな影響を受け、これまで期待された新興市場の新規加入の増加が望めない今、新たな成長市場としてスマートフォン市場が脚光を浴びている。本稿では、本年の業界トレンドが顕著に現れるこの業界最大の展示会で見られた動きを中心にスマートフォン市場を概観する。

マイクロソフト、スマートフォンの新戦略を発表

マイクロソフトは、MWCにて同社のスマートフォン市場における新サービスや製品を発表し、この市場への強気な姿勢をアピールした。まず、スマートフォン向けプラットフォーム「Windows Mobile 6.5」を発表、このバージョンでは、タッチスクリーンを採用したユーザー・インターフェース(UI)を刷新させ操作性を改善させている。さらに、スマートフォンを介し端末の情報をネットワーク側でバックアップを取る「My Phone」や、インターネット上でアプリケーションを販売する「Windows Marketplace for Mobile」などの新サービスとその構想を発表した。

同社のCEO、スティーブ・バルマー氏はその発表の中で、「世界経済はリセットする時期である。現在の経済状況は、後退ではなく再拡大への準備期間である」とし、携帯電話ではサービス提供の重要性が増していること、スマートフォンは今後さらに成長が期待される市場として、その将来性を熱っぽく語っていた。

マイクロソフトのスマートフォン事業は、このところ暗雲が立ち込めるとも言える状態が続いていた。新規参入のアップルやグーグルによるAndroidが脚光を浴び、OSのオープンソース化が一つのトレンドとして進む中、ライセンス・モデルを固持するマイクロソフトの姿勢を疑問視される傾向も強かった。しかし、CEOまで起用した積極的なアピールに、これまでの業界内の懸念を一気に払拭したとも言える発表となった。

幅が広がる端末メーカーと製品バラエティ

従来のスマートフォン市場では、携帯電話メーカーも限定的であり、ハイエンド向けばかりが目立っていたが、この状況も一変してきた。

台湾のパソコンメーカーAcerは、MWCにおいてスマートフォン市場への参入を表明し、Windows Mobile対応の新端末を4機種発表した。同社は2008年にスマートフォン・メーカーのE-Ten Information Systemsを買収することにより、参入を果たしている。同社の研究開発や製品開発部隊や端末開発技術および資産をAcerに統合し、さらにソフトウエアに集中的に投資したとしている。

中国の携帯電話メーカー、ZTEもこの市場に参入した。同社が発表したスマートフォンの新製品10機種は全てWindows Mobile対応であり、まずはボーダフォン向けに提供することが決定となっている。同社の製品は低価格な設定で開発されており、従来のスマートフォンではほとんど見られなかったGSMのみに対応する機種も登場させている。このように性能を抑え価格を下げた端末が登場することで、スマートフォン・ユーザーの裾野が広がる土壌も確立することになる。 一方で、端末の高機能化も進んでいる。東芝はクアルコム製のチップセット「Snapdragon」を搭載したWindows Mobile対応のスマートフォン「TG01」を発表した。CPUは1GHzとパソコン並みの高い情報処理能力を持ち、GPSを含むマルチメディア機能やインターネットを活用したサービスを快適に操作できるとしている。この製品は2009年夏に欧州での販売開始の予定である。

図:2009年登場の新機種の一例
図:2009年登場の新機種の一例
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iフォンを思わせるスマートフォンが続々登場

2009年の携帯電話業界は、アップルの影響なしには語れない。主要メーカーは、大型のタッチディスプレイを搭載し、これをスクロールして操作するというUIを備えたスマートフォンをこぞって発表した。iフォンと類似する点はこればかりではなく、iTunesやApple Storeを思わせる音楽コンテンツや第3者が開発したアプリケーションを販売できるアプリケーション・ストアの構想も次々に発表されている。スマートフォンとサービスを連携させる動きが一気に加速している印象を強く受ける。

iフォンが登場した2年前、アップルは「携帯電話機を再定義する」と発表していたが、まさに業界全体がアップルによって再定義された様相となってきた。

図:iフォンを思わせるスマートフォンの一例
図:iフォンを思わせるスマートフォンの一例
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スマートフォン市場の概況と展望

2008年から始まった金融不安による実体経済の悪化の影響は、携帯電話業界でも大きく見られる。特にこれまで急成長を遂げていた新興市場での打撃は大きく、世界市場における新規加入者は2003年以降初めて2桁成長に届かず、成長鈍化の兆しが見えている。また、先進市場においても、端末の買い替え需要の低下による販売台数の下落傾向が大きく見られる。

携帯電話の出荷台数は2002年以降6年間連続の2桁成長が続いていたが、2008年には約9%と2桁に届かず、2009年には不況の影響からさらなる減速が予想される。新興市場向けのローエンド端末は、競争激化による価格の下落などから、LG電子やソニー・エリクソンなど複数のメーカーが撤退を余儀なくされている。
そんな中、次の成長株として注目されるのがスマートフォン市場である。英調査会社Informa Telecoms & Mediaの予測では、2009年の携帯電話出荷台数は10億7,794万台と前年比10%の減少となるが、スマートフォン市場は1,960万台と同30%の成長で、これは全端末の約2割に相当する規模となる。さらに、2013年にスマートフォンは携帯電話市場の38.1%となる。一方、クレディスイスでは販売額で見た場合、2010年には携帯電話の全販売額の5割にも達する巨大な市場になると見ている。

スマートフォン業界で無視できない存在となっているのはiフォンである。 2007年の初登場では、大きなタッチディスプレーを指でなぞって操作する新たなUI、携帯音楽プレーヤーiPodとしてもそのまま使える音楽機能など、その設計や機能の先進性で世界の携帯電話業界に新風を巻き起こした。それから1年半、開発から販売、アプリケーションの提供から顧客サービスまで手掛けるアップル社のモデルに続けとばかり、MWC2009ではiフォンを強く意識した端末やサービスの発表が相次いでいる。その一方で、アップルのような世界観を持つ企業は少なく、製品やサービスも他社との差別化に乏しく、横並びの感が強いのも事実である。今後のスマートフォン市場では、他社製品やサービスといかに差別化し自社サービスの強みをアピールできるかという点が大きな鍵を握るのではないか。

宮下 洋子

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