2009年12月7日掲載

2009年10月号(通巻247号)

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InfoComモバイル通信T&S

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[tweet] 巻頭”論”

日本発ポップ・カルチャーのすすめ
〜日本の電子書籍市場

 最近、米国の電子書籍市場が急成長中と言われています。特に、アマゾン「キンドル」の大ヒットにより、市場規模が拡大しており、調査によって差があるものの約5,000万ドルないし約1億ドル規模に達しているとのことです。市場規模の拡大に伴って、アマゾン以外にもソニーをはじめ数社が市場参入を図っています。なかでも、アマゾンは端末から、通信回線、課金/プラットフォーム、コンテンツまで垂直統合型でサービスを提供しており、事業モデルとしても注目を集めているところです。

 しかしながら、マスコミ的には米国の事例だけが数多く取り上げられていますが、電子書籍市場という分野で見る限り、日本の方がはるかに進んでいることを忘れてはいけません。市場規模では、464億円(インプレスR&D「電子書籍ビジネス調査報告書」調べ)とはるかに大きく、また、米国ではPCや電子書籍専用端末が主流であるのに対し、日本では、携帯電話向けが9割近くに上っているという特色があります。ケータイ向けこそ、電子書籍の中心であり、そのうち8割以上がコミックスとなっています。つまり、日本の電子書籍市場は、ケータイコミックで占められているということです。“書籍”という定義に違和感があると感じますが、これが日本の書籍文化の特色と見るべきでしょう。

 米国では書籍は大きく厚いハードカバーが主流であり、日本のように、新書や文庫といった、持ち歩きに便利な小さくて安価な良書が一般的ではありません。また、著作権の扱いの違いや出版物の流通体系の複雑さなど、日本における電子書籍には異なる背景があるのも事実です。

 ただ、このケータイコミックこそ新しい日本の書籍文化であり、コンテンツ産業の原動力でもあり、かつ、経済発展に伴う日本社会の成熟の中から生み出された新しい文化、いわゆるポップ・カルチャーだと思います。ケータイが音楽市場に、着メロ、着うたをもたらし、ケータイ音楽配信市場を約1,000億円にまで高め、世界最大の市場規模となったことと併せて考えると、既にケータイ音楽配信市場の3割以上になったケータイコミック市場は、次なるコンテンツ産業の中心となることは間違いありません。ケータイもコミックも日本の土壌の中で発達して来たものだけに、力強さを感じます。なかでも、NTTソルマーレ(株)の携帯サイト「コミックi」、「コミックシーモア」では、ケータイコミックの有料ダウンロード数が2004年8月の開始以来、5億を超えたということですし、特に、最近2年間の急増が著しい。携帯向けに編集・加工を行い、また、課金に携帯キャリアのプラットフォームを利用し、その上で、売上に応じてコンテンツ使用料を分配するなど、出版社や作家等のコンテンツホルダーとWinWinの関係を構築しています。まさに、人脈を含めて、新しいビジネスモデルを作り上げているのです。

 さらに最近、前述のNTTソルマーレや凸版印刷グループなどが中国やインドで、日本のコミックのケータイ配信に乗り出しているとの報道があります(10月6日:日本経済新聞朝刊記事「中印で携帯に漫画」)。また、香港やフランスでは、既に日本のコミックのケータイ配信が行われています。経済が発展し、社会が成熟してくると新しい文化が生まれ、同じような発展段階を有する他の国・地域に拡散していくことは歴史的に十分予測されることです。製造業ベースの国際競争力では、今後、輸出関連産業が飛躍的に大きく伸びる可能性は小さく、これまで、ハイテク化や高付加価値化によって 立つという図式を日本の産業界は追求して来ましたが、このモデルだけでは限界があると思います。そこでコミックのような成熟社会の文化に根ざしたコンテンツ配信をビジネスモデル化し、産業として育てていく途を加える必要があります。文字と比べて、ビジュアル系のコンテンツは映画を含めて、他文化の人達にも理解され易く、日本発のポップ・カルチャーとしての情報発信は十分可能です。産業育成として、コミックに加えて、東京発の“カワイイ”文化や世界で受賞相次ぐアニメや映画まで含めて配信ビジネスとして仕組んでいくことが、新しい日本の発展を支えるのではないかと思っています。アジアを中心に、更に最近では欧米においても、コミック、アニメや“カワイイ”ファッションなど、日本発のポップ・カルチャーは注目を集めています。もちろん、こうした流れは、更に大きくアジア発に拡大しつつあり、韓国、台湾、中国発にもなりつつありますので、遅れてはいけません。私達は、文化発信や技術開発までは得意ですが、それを標準化しグローバル・ベースで産業化することは上手ではありませんでした。ビジネスモデルが国際的に通用するものかを検討し、見直して、各国の市場状況やビジネス慣行に合わせつつ、しかし、原則を貫くこと、乗り越えるべき課題はそこにあるようです。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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