2010年1月31日掲載

2009年12月号(通巻249号)

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[tweet] 巻頭”論”

通信大手3社、2009年9月中間決算の教訓

 いささか旧聞になりますが、10月下旬から11月上旬にかけて、今期の中間決算が通信各社から発表されました。決算内容それ自体は既に周知のことなので詳細は触れませんが、通信大手3社を比較すると、ソフトバンクの好調さが極立つ中間決算でした。

 3社の中間決算が出揃った、11月10日付の新聞各社の見出しを見ると、次のようにNTTの不振とソフトバンクの好調さが見事に対比されていたのが分かります。

  • ソフトバンクのみ増収増益(朝日新聞)
  • NTT5兆円割れ 9月中間売上高11年ぶり(読売新聞)
  • NTT売上高 11年ぶり5兆円割れ 9月中間 携帯販売不振(毎日新聞)
  • 通信大手・データ収入で差 NTT減収減益「音声」不振補えず ソフトバンクのみ増益(日本経済新聞)
  • ドコモ失速 促す新事業 NTT減収減益 法人も失速(フジサンケイ ビジネスアイ)
  • NTT売上高5兆円割れ KDDIも減収減益 (東京新聞)

 さらに、決算説明会で各社が発表した内容を比較してみると、一段と挑戦的な文言が並んでいることに気が付きます。決算数値を淡々と述べ、むしろ、中期ビジョンや今後の施策・取り組みに力点を置いた、NTT、NTTドコモ、KDDIに対し、ソフトバンクは、決算説明資料の最初のページの一言、「最高益を更新」から始まり、結論部分の「フリーキャッシュフロー1兆円への確信」まで、ほとんどのページに、増加・達成・回復・突破、最高・更新・上方修正の文言が並ぶ、自信を前面に打ち出したものでした。ソフトバンクのこうした自信の裏付けとしては、移動体通信事業での最高益達成、ARPU反転、データARPUの上昇、iPhone(アイフォーン)によるコンテンツ市場牽引などが取り上げられており、加えて、CM好感度まで過去最高と自負していました。特に、携帯大手3社に限って、中間決算記事を見てみると新聞各紙で、3社明暗、決算明暗、明暗分かれる、と同じような文言が見出しとなっています。結局、ソフトバンクのiPhone効果が明暗を分けた訳です。このことが、NTTの連結中間決算を指して、ドコモの不振を固定通信分野でカバーできていないと新聞各紙が指摘したことにつながります。曰く、NTTは携帯以外の新規事業開拓に迫られている(フジサンケイ ビジネスアイ)、サービス創造企業へのビジネスモデル転換を期すが道は険しい(日経産業新聞)、とのコメントが見られました。

 私は、今回の中間決算を見ていて、新聞各紙やアナリストが指摘することのなかった、2点についてコメントしたいと思います。

 第一は、通信大手3社の売上高合計が減少していることです。前年同期比で、NTTが▲1,665億 円、円、KDDIが▲242億円、最高益更新のソフトバンクが+202億円、大手3社合計では▲1,705億円(▲2.1%)となっています。もちろん、これは通信大手3社だけの数値であって、これ以外に数多くの通信事業者、ISPなどが存在するので、必ずしも全体の減少量とは言えませんが、通信事業全 体が縮小しつつあることに大きな懸念を持ちます。さらに営業利益を見ると、やはり前年同期比で、NTT▲983億円、KDDI▲119億円、ソフトバンク+506億円、3社合計▲596億円(▲5.0%)となっています。つまり、市場規模が縮小するなか、全体の利益水準も一層悪化したと言うことであり、危惧を抱いています。

 第二は、明暗を分けた中で1社だけ好調だったソフトバンクが、主としてiPhone効果に拠っている点についてです。iPhoneのセールスポイントは、ただ単に、端末の操作性やデザインの良さに基づくだけでなく、アップルのApp Store(アップ・ストア)によるアプリケーション/コンテンツ販売に特徴があり、アップルの報道発表(2009年9月26日)によると、20億ダウンロードを突破しています。ここでは、このダウンロード・サービスはいわゆるオープンモデルではなく、アップルのiPhone OSとApp Storeが括り付けられたクローズドなモデルであり、また、アクセスするモバイル回線がソフトバンクに限定された(注:Wi−Fi接続も可能)、いわゆる垂直統合モデルであることに注目したい。典型的な垂直統合モデルに基づいてイノベーションを実現した、大変に優れたビジネス・モデルと言えるものです。

 さて、ここで前述した第一と第二のポイントを総合して考えてみると、おぼろげながら、今日の我が国の通信市場の状況が見えて来ます。総務省のICTタスクフォース(グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース)の初会合において、我が国のICT産業全体の国際競争力強化の視点が議論されたと言われています。まさに、今回の中間決算数値が、世界で最高のブロードバンド環境を持ちながら、一方で、グーグルやアマゾンなど新しいサービスが席巻している現状を示しているのではないかと思います。つまり、ネットワークのオープン政策では、多数の事業者が生まれ、競争市場は成立しましたが、イノベーティブなサービスは十分に生み出されず、最近では、市場規模全体は縮小傾向となっているのではないでしょうか。

 一方、こうした縮小傾向の中でも拡大しているのは、水平的に分離したビジネス・モデルではなく、ソフトバンクのiPhoneとアップルのApp Storeとに見られる垂直統合モデルである、という事実です。他にも、よく指摘されるように、モバイル各社によるISPサービス(iモード、Ezweb、Yahoo!ケータイ)、米国アマゾンのキンドルの電子書籍サービスなど、垂直統合型の成功モデルが数多く存在します。

 今日、我が国のICT産業は、通信業だけでなく、通信製造業や広告業などが大きなダメージを受けています。しかし、これからの日本経済の成長戦略を描く上では、ICT産業が中核であることが共通認識となっています。だからこそ、国際競争力強化が議論されているのでしょう。従って、今回の中間決算から得られる教訓は、パイの取り合いの明暗だけではなく、通信全体のパイを大きくすることに通信各社がどう取り組むのか、即ち、技術、サービス、生産性、顧客満足などのイノベーションを創造するビジネス・モデルを追及する、ということです。そのためには、改めて、目的合理性や効率性の高い、垂直総合モデルの構築を通信各社に求めたい。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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