2010年5月6日掲載

2010年3月号(通巻252号)

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InfoComモバイル通信T&S

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ベライゾン・ワイヤレスとスカイプの提携が、携帯電話のVoIP対応に道を開く?

 米ベライゾン・ワイヤレスとルクセンブルクのインターネット電話サービス会社スカイプ・テクノロジーズ(以下、スカイプ)は2010年2月16日、ベライゾン・ワイヤレスのスマートフォン9機種にスカイプのインターネット電話ソフトウェア「Skype mobile」を搭載することで、戦略的提携を締結したと発表した。すでに米AT&Tは2009年10月に、iPhone向けVoIPアプリケーションをWi-Fi経由のみならず、同社の携帯電話回線でできるようにすると発表していることから、今回の提携は、スマートフォン市場におけるベライゾン・ワイヤレスのAT&T対抗措置と見られる。同時に、ネットの中立性やオープン化議論を背景に、携帯電話事業者が、新たなサービスへ自社ネットワークを開放するための取り組みや、音声通信からデータ通信へ収益モデルを移行させるための試みが見て取れる。

ベライゾン・ワイヤレスが提供するスカイプ通話、回線交換網を使用

  ベライゾン・ワイヤレスは、3月より「Verizon Wireless with Skype mobile」のサービス提供を開始する。対応機種は、「BlackBerry Storm 9530」「同Storm2 9550」「同Curve 8330」「同Curve 8530」「同8830 World Edition」「同Tour 9630」およびモトローラ製「DROID」「DEVOUR」、HTC製「DROID ERIS」の9機種。同社のデータ通信プランの加入者が対象となる。

  同サービスの利用者は、スカイプ間の通話が無料で利用できる他、固定電話/携帯電話への発信や国際通話も通常の携帯電話料金より安価なSkypeOutの料金(特定の国を除き1分2セント程度の統一料金)で利用できる。通話以外にも、スカイプ間でのインスタント・メッセージ(IM)の送受信が可能な他、常時接続により、友人リストを使って、プレゼンス(オンライン接続状況)の確認もできる。これにより、スカイプ利用者同士で事前に通話を確認したり、複雑な手順で電話をかける必要がなくなった。

  Verizon Wireless with Skype mobileの仕組みでは、Wi-Fi経由のスカイプと異なり、端末からスカイプのサーバーへアクセスする際、音声データについては、ベライゾン・ワイヤレスの回線交換網を利用する。従って、同アプリではWi-Fi経由でスカイプにアクセスすることはできない。利用者は、音声通話プランとデータ通信プランのいずれにも加入する必要がある。ベライゾン・ワイヤレスは、サービス開始に合わせ、スカイプ用の料金プランを提供するという。Verizon Wireless with Skype mobileにより、同社では、需要が低迷している3Gの音声サービスの需要増を期待すると同時に、iPhoneによって新規加入者を順調に獲得し続けているAT&Tへの対抗策として、新規加入者獲得のテコ入れを図りたいものと思われる。

携帯電話事業者とのパートナーシップを望むスカイプの事情

  スカイプは、モバイル分野でのプレゼンスを高めるため、携帯電話事業者とよい関係を構築する方向を模索している。テレジオグラフィーによれば、スカイプの登録者は5億を突破し、国際通話の11.7%を  占めているという。とはいえ、スカイプは新しい技術を好む一部のユーザー層を満足させたものの、商業的な価値は生み出せていない。eベイは2005年にスカイプを買収したが、当初期待していたeコマースやオンライン決済事業とのシナジー効果が得られないまま、スカイプ部門の業績が伸び悩み、経営を圧迫していたことから、2009年にはスカイプを売却している。スカイプが収益を上げるためには、SkypeIn(スカイプ番号に固定電話/携帯電話からの発信を受けるサービス)やSkypeOut(スカイプから固定電話/携帯電話へ発信するサービス)の利用をユーザーに促さなくてはならない。携帯電話事業者の3G網を使ったサービスは、スカイプにとっても重要な戦略と位置付けられる。スカイプでは当面、米国市場の開拓をベライゾン・ワイヤレスとの提携によって推し進めていくようだ。同社は2010年3月、シンビアンOSを搭載したノキア製スマートフォン向けに、「Skype for Symbian」を公開し、ノキアのアプリケーション・ストア「Ovi Store」でのダウンロードを可能した。しかし、米国からは同サイトからのダウンロードはできない。

  今のところ、3G網を使ったサービスでスカイプと提携しているのは、3UKとベライゾン・ワイヤレスの2社のみである。3UKは、2007年11月にスカイプ内蔵携帯「Skypephone」を発売、2008年10月には後継機種「Skypephone2」を発売するとともに、英国外への発信に限りSkypeOutを解禁した。2009年には「Skypephone」 「Skypephone2」の販売を終了すると、スカイプを無料で利用できるSIMカードを発売した。ユーザーは3G携帯電話にSIMカードを差し込めばスカイプ間の通話やIMが利用できる。ちなみに、同社もベライゾン・ワイヤレス同様、音声データのアクセス部分に回線交換網を利用することで、データ通信料を無料にしている。同サービスにより、3UKは急速に加入者数を伸ばした。

ネットワークの中立性が後押し

  一方で、まだ多くの携帯電話事業者は、スカイプを始めとするVoIPサービスの導入に後ろ向きだ。ドイツではボーダフォンやT-モバイルが、スカイプを利用したユーザーに対し、各々月額5ユーロと10ユーロの追加料金を徴収している。中にはアプリケーションのダウンロードを禁止したり、VoIPサービスからのアクセスをブロックしている事業者もあるという。VoIPサービスが音声収入につながらず、通信インフラの構築費用が回収できないことに加え、1回線に占める帯域幅が大きくネットワークに負荷がかかるが、音声品質が保証できないなどが主な理由である。

  しかし、インターネット・サービス事業者が次々とモバイル分野へ進出すると、利用者側にもインターネット上の体験を携帯電話でも再現したいというニーズが生まれ、一方でネットワークの中立性議論が高まってきたことから、携帯電話事業者も方向性の見直しを余儀なくされている。欧州では、欧州委員会デジタル政策担当のNeelie Kroes委員が、事業者によるVoIPサービスのブロッキング行為は、ネットワークの中立性に違反しているとして、そうした行為を行っている事業者に圧力をかけることを表明している。米国でも2009年7月、アップルが、iPhone上でグーグルのインターネット電話サービス「Google Voice」を認めなかったことから、FCCの調査を受けたことをきっかけに、ネットワークの中立性を巡り、AT&Tとグーグルを巻き込んだ論争が展開された。一方でベライゾン・ワイヤレスは2009年10月にAT&Tに先駆け、同社のアンドロイド搭載端末でGoogle Voiceを  始めとするグーグルのアプリケーションをサポートしていく計画を表明している。

携帯電話事業とインターネット・サービスのWIN-WIN関係の模索へ

  こうした中で携帯電話事業者にとっては、今後VoIPサービスを自社のビジネスにどのように取り込んでいくかが課題となろう。すでに通信事業者の中には、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)の広がりに伴い、コミュニケーション・サービスの幅を広げるため、VoIP企業を買収する動きも見られる。英通信大手のBTはすでに2年前にVoIPプロバイダーの米Ribbitを買収しており、2009年12月には、スペインの大手通信事業者テレフォニカが、米JAJAHを買収した。

  しかし、オープン化の時代にあって、通信事業者がとるべき戦略は、自社サービスでグーグルやスカイプと対抗していくことばかりではない。むしろ、これらの企業とのパートナーシップにより、携帯電話事業者、インターネット・サービス事業者、そして利用者がWIN-WINの関係を築けるビジネスモデルを模索していくことがより重要だ。無料通話を実現するスカイプの技術は秀逸だが、そのことで携帯電話事業者を脅かす存在になることは、スカイプにとっても有益ではない。携帯電話事業者と組むことにより、SkypeOutの市場を拡大することが期待できる。他方、ベライゾン・ワイヤレスにとっては、回線交換網も利用することで音声収入を損なわず、データ通信量の増大に伴うトラヒック輻輳も回避しながら、VoIP搭載端末の魅力によるユーザー拡大が期待できる。今回のベライゾン・ワイヤレスとスカイプの提携は、今後、VoIPを始めとするインターネット・サービスを携帯電話に取り込んでいこうとする携帯電話事業者にとって、よい先行事例になると思われる。

武田 まゆみ

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