1987年にヒットした映画「ウォール街」の続編が2010年4月に公開されるらしい。前作について、Wikipediaに面白いことが書いてある。
「この作品は実際のウォール街に大きな影響を与えた。ゴードンに憧れて投資銀行に入社する者や、ゴードンのファッションを真似る者などが後を絶たなかった」
http://ja.wikipedia.org/wiki/ウォール街_(映画)
オリバーストーン監督は、過剰な資本主義による倫理観の崩壊に嫌悪感を持つ立場から遺憾に思っているそうだが、ゴードン・ゲッコーにあこがれる者が多かったのも頷ける。ウォール街の大物投資家ゲッコーは、強烈に魅力的なキャラクターだ。高価でゴージャスなスーツを身にまとい、分刻みで巨額の取引を成立させる自信たっぷりな富豪。マイケル・ダグラスはこの役でオスカーの主演男優賞を受賞しているが、こういう傲慢でダンディなアメリカ人をやらせると天下一品だ。この映画を見た後では、彼がどんな役を演じていても意味もなく偉そうだと思ってしまうのは、私だけではあるまい。
新作の予告編を見ると、前作でインサイダー取引のために刑務所に服役していたゲッコーが、20年の刑期を終えて出所するところから始まるようだ。所持品を、ハンカチ、時計、指輪、マネークリップと渡されていき、最後に「ワン・モバイル・フォーン」といって巨大な携帯電話がドーンとデスクに置かれる。
この20年で、情報通信に関する環境は激変した。携帯電話も、ポケットに入るほど小型化して高機能になった。テクノロジーの進歩の早さを実感させるシーンだ。前作の舞台である80年代には、現在のようなインターネットはなく、一般に流通する情報も現在とは比較にならないくらい少なかった。少なくとも20年前の私は、素人が盛んにデイ・トレーディングをする世の中が、こんなに早く来るとは思わなかった。
情報通信技術の発展によって、情報が問題になる場面も以前より多くなっている。ゲッコーが罪に問われた株式のインサイダー取引はその後も頻発しているし、営業秘密や個人情報保護などは当時と比べものにならないくらい注目を集めるようになった。
ゲッコーのような富豪が使う贅沢品だった携帯電話も、ほとんどの人が持つ日用品に変わり、今では子供でも携帯電話を使うようになっている。そして、我が国では数年前から、携帯サイトにおける有害情報の問題が活発に議論されている。法律によって厳しく規制すべきであると言う意見と、事業者の自主的な取り組みを尊重すべきであるとする意見が対立してきたといって良い。
こうした議論を受けて、2008年6月11日には「青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにする環境の整備等に関する法律(青少年ネット規制法)」が成立している。この法律は、表現の自由にも配慮して有害情報に青少年が接しなくてすむような事業者の自主的な取り組み(フィルタ リング機能の推進等)を促す内容となっている。ただし、その後も青少年がネットの利用を契機として犯罪等に巻き込まれることなどを問題視する声は根強く、東京都をはじめとする地方自治体で条例による規制強化が現在も検討されている。
情報の利用を厳しく規制することは、人の精神活動に強い制約を課すことにつながる。他人の権利が侵害されたり、社会的な秩序が乱されたりすることが明らかな場合に限って、法律による禁止・制限がありうると考えるべきである。そして、直接は青少年保護を目的とする規制であっても、情報の利用全般に影響を与える可能性が大きい。規制の強化を考えるに当たっては、対象となる情報によってどの程度の弊害が生じているのか、規制によってどの程度の効果が期待できるのかといったことを、きちんと評価することが不可欠であろう。安易な規制強化に陥らないよう、慎重な検討を期待したい。