2010年6月4日掲載

2010年4月号(通巻253号)

ホーム > InfoComモバイル通信T&S >
InfoComモバイル通信T&S

※この記事は、会員サービス「InfoComモバイル通信ニューズレター」より一部を無料で公開しているものです。

[tweet] コラム〜ICT雑感〜

バンクーバー冬季オリンピックに見る「選択と集中」

  バンクーバー冬季オリンピックの日本のメダル数は銀3、銅2と前回のトリノの金1を数では上回ったが、金6、銀6、銅2の韓国とは圧倒的な差がついた。韓国は日本の半分以下の人口であることを考えると、金の数で世界の5番目、メダル総数で世界7番目という結果は大健闘であったと言える。しかも、出場選手数は日本の94名に対し、半分以下の46名であった。韓国は夏のオリンピックの女子アーチェリーのように、今回もショートトラックやスピードスケートなどメダルが狙える種目を「選択」し、施設整備、選手育成などにリソースを「集中」させていた。これに対し日本は参加することに意義があるという総花的な取り組みに思える。

  日韓のオリンピックへの取り組みの違いは産業、経済にも共通する点がある。今や韓国企業のグローバル進出、プレゼンスの向上は目を見張るものがあり、自動車産業では「現代」が躍進、薄型テレビ市場では2009年の世界シェアでサムスン電子が1位、LG電子が2位に浮上した。なお、携帯電話市場でもサムスン電子、LG電子が世界で大きくシェアを伸ばしている。日本の有力紙でも「世界に躍進する韓国企業に学ぼう」という社説が見られるようになった。

  韓国の人口は4,900万人と日本の4割で、少子化のスピードも日本を上回ると言われており、韓国の企業は国内にとどまっていては生き残れないという危機感が強いと言われる。このため、積極的にグローバル化を進めたサムスン電子、LG電子の連結売上高に占める海外比率はともに85%(2008年)に達している。サムスン電子は1990年に「地域専門家制度」を導入し、約3,800人が各国・地域に派遣され、大半が現地で製品開発、営業に取り組んでおり、LG電子も海外従業員が5,800人で全従業員の66%を占めるまでに現地化(グローカライゼーション)が進んでいる(2009年12月16日付 日経新聞「韓国企業 強さの秘密」)。サムスン電子では幹部の英語力の高さは言うまでもなく、社内放送も英語にするという報道がなされている。これに対し、最近日本では海外留学生希望者も減り、若手社員の間では海外駐在を嫌がるという内向き志向に陥っている。

日米貿易を超える日韓中トライアングル

  しかし、日韓中の貿易収支構造を見てみると別な側面が見えてくる。2008年の日韓中の貿易トライアングルにおいて日本の対韓国輸出額は6兆円、輸入額は3兆円で意外にも日本の3兆円の黒字になっている。また、韓国と中国の貿易関係は韓国から中国への輸出額が10.1兆円、輸入が6.7兆円で3.4兆円の対中貿易黒字になっている。これは、日本の品質の高い素材、部品を韓国企業が輸入し、中間材料として中国に輸出して完成品として組み立てるというトライアングルができているのではなかと分析される。日本から韓国への輸出で好調なものは例えば自動車分野では工作機械メーカーに供給するCNC(コンピューターによる数値制御)装置、半導体製造装置、液晶パネル製造装置などがあげられる。今後とも日中韓のこのトライアングルが機能し、アジアの成長を取り込めると、日本にとっても成長戦略が描ける可能性がある。

日中韓相互間の貿易額(2008年)

ICT産業の国際競争力の強化  

  総務省のタスクフォースのひとつとして「ICT産業の国際競争力強化」が検討されている。国際競争力の強化のポイントは得意とする分野への「選択と集中」、それにグローバル化への取り組みである。日本の携帯電話事業については日本の携帯マーケット、世界でのシェアを考えるとメーカー数が多過ぎると言われている。その他の産業分野でも、既に将来の縮小する日本のマーケットを見据えて統合・再編が始まっており、同時に今後の成長が見込めるアジアなどへの産業シフトが進んでいる。

 日本の携帯メーカーの世界シェアは縮小の一途であるが、他方、携帯電話の部品でみるとバッテリー、プリント配線、ディスプレイなどは日本の部品メーカーが依然として世界的に大きなシェアを占めている。先に述べた日韓の貿易収支構造においても韓国のサムスン電子、LG電子などが世界的シェアを伸ばすとともにこれらに関連する日本の部品の輸出量が伸びるという構造になっているとすれば、日本の強みを生かす「選択」は日本のメーカーの統合・再編を進めるとともに、これら部品メーカーへの財政、政策支援によるリソースの「集中」が一つの選択肢であると思われる。

 経営が悪化する日本の中小企業への支援が議論されているが、手を拱いていると韓国、中国企業によるこれらの優秀な技術とマネジメントを持つ部品メーカーが丸ごと買収されてしまうという事態が生じかねない。実際、2006年には中国の太陽電池のサンテックパワーが日本の中堅電池メーカーのMSKを買収、この3月末には中国大手自動車メーカーが日本の金型大手の工場を買収するという報道がなされた。タスクフォースの議論では是非、この点を取り上げてもらいたいと考えている。

グローバル研究グループ部長 真崎 秀介

InfoComモバイル通信 T&Sのサービス内容はこちらこのコーナーは、会員サービス「InfoComT&S ?World Trend Report」より一部を無料で公開しているものです。総勢約20名もの専門研究員が海外文献を20誌以上、常時ウォッチしております。

詳細記事(全文)はT&S会員の方のみへのサービスとなっておりますのでご了承下さい。
サービス内容、ご利用料金等は「InfoCom T&S」ご案内をご覧ください。

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。