2010年6月22日掲載

2010年5月号(通巻254号)

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InfoComモバイル通信T&S

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[tweet] 巻頭”論”

スマートフォンの進展がもたらす姿はどうなる?

 先月4月1日に、NTTドコモからエクスペリアが発売開始となり好調な販売が続いています。ま た、ソフトバンクのiPhoneも引き続き契約数を伸ばしています。いよいよモバイル市場はスマートフォンの時代になったものと感じます。何ごとにつけ動きが早いモバイル市場ですが、スマートフォンの普及はこれまで以上に大きなインパクトをもたらすことが想定されます。スマートフォンが有する特徴から、(1)アプリケーション・ストアの拡大、(2)映像系SNS(ツィッター、フェイスブック、ユーストリームなど)の進展、(3)インフラ・ネットワークの重層化とコグニティブ端末の発展、(4)SIMロック解除による力学の変化、等多くの現象が予想されます。これらは、元来PCが有している要素に由来するものと考えられ、いわばPCのモバイル化がスマートファン現象となって表れていると理解できます。

 ここでは、順にこの4点を主としてサービス提供者の立場から取り上げてみます。先ず、第1の“アプリケーション・ストアの拡大”ですが、これは既にアップルの「アップストア」で実証済みでしょう。アプリケーション/コンテンツと端末・OSを括り付けた新しいビジネスモデル、即ち、通信回線をコモディティ(選択可能な一般商品)化した新しい形の中抜き型垂直統合モデルが登場したわけです。その上、日本ではiモード、EZweb、Yahoo!ケータイで一般的となっている情報料の9%という比較的低い手数料水準と比べて、「アップストア」を皮切りに一般化した国際的なレベニューシェア水準は約30%と高率であり、運営者の視点から日本のモバイル通信事業者にとっては大変に魅力的な新たな上位レイヤ市場が目の前に出現したことになります。端末・OSメーカーとモバイル通信事業者の間の囲い込み競争と協調・連携が一層進むでしょう。

 第2は、“映像系SNSの進展”です。PCでは当然可能であったものですが、常時身に付けているスマートフォンで同様のことを行うことができるようになり、情報の発信力とその反応がより一層強く、早くなっています。ツィッターやユーストリームだけでなく、もっと数多くのアプリケーションや方法が生まれ、また淘汰されて行くことでしょう。どのようなアプリケーションが生み出されるにせよ一貫して言えることは、データ(パケット)トラヒックが急増するということです。映像情報の持つ意味は利用者の認識を格段に高めることにあるだけに、SNSによる社会化行動(socialization)上、映像は更により多く取り入れられることでしょう。モバイル通信事業者にとっては、これを売上げに結びつけるビジネスモデルを構築するチャンスです。

3番目は、“インフラ・ネットワークの重層化とコグニティブ端末の進展”が進んでいます。前述の2点から、データ(パケット)トラヒックは急増しつつあります。既に、スマートフォンが契約数全体の10%程度になったと思われる米国AT&Tや日本のソフトバンクではトラヒックの急増により、ネットワークのそ通が悪化していると言われています。たった10%でこの状態なのです。もちろん、日本のモバイル通信事業者は世界的に見て最も進んだ端末と高度なネットワークサービス(俗に、ガラパゴス携帯=ガラケーと言われています)を運営して来た実績がありますし、トラヒック管理に関しても、いわゆる「ネットワークの中立性」にも上手に対応して来た実績を有しているので、スマートフォンの普及・拡大に対しても世界の他の事業者よりスムーズな取り組みが可能と見られます。

 しかし、今後相当量の基地局建設やLTEなど新しい高速大容量方式への設備投資が必要なのは避けられません。そうした中で大切なことは、ブロードバンド・インフラを一つの方式に固定するのではなく、サービスの中味やユーザーの特質などに柔軟に応じられる重層的なブロードバンド・インフラを構築することにより、ユーザーの利便を向上してサービスの普及を早めることでしょう。LTE、モバイルWiMAX、Wi-Fi、さらには光回線とフェムトセルなど重層的なインフラこそがネットワークの安全性・安定性を高め、豊富なサービスを生み出すことにつながります。そこで必要となるのが、その場・その時の利用方法に最適なネットワークを選ぶコグニティブ端末(無線ルーター)です。この「巻頭論」で昨年9月に“コグニティブ無線ルーターの革新性”と題して意見を述べましたが、NTTブロードバンドプラットフォーム社のポータブルコグニティブ無線ルーター(Personal Wireless Router:PWR)がようやく製品化の段階に達したと聞きました。ブロードバンド・ネットワークの重層化と同時に端末(ルーター)側のレベルアップが必要なことは言うまでもありません。スマートフォンの機能を本格的に活かして使うためのツールの開発に期待がかかります。そうなると、光回線を含めた重層化したブロードバンド回線のインフラ間競争が進展して行くことでしょう。先月、本欄で指摘した、光の道と電波の道の融合が現実化することになります。

 最後に、SIMロック解除の議論について触れます。SIMロックは、いわば普及期・拡大期のモバイル通信事業者の営業戦略に過ぎません。これを、いわゆるガラパゴス化の元凶のように主張する向きもありますが、制度でも、規制でもなく、事業者の流通政策まで含めた最適事業戦略だったと評価すべきでしょう。従って、今日段階においては、すでに成熟期となり一人一台から一人二台以上の保有/契約が進んでいるので、SIMを特定端末にロックしておく必要性は薄れて来ています。むしろ、スマートフォンのような高レベルの端末こそ、SIMロックフリーとして、重層化するネットワークに機動的・柔軟に対応できるようにすることが望ましいと思います。サービス提供者側だけでなく、ユーザー側からも重層化し複雑化していくブロードバンド・インフラの利便性をより多く享受する方途となります。モバイル通信事業者だけでなく光回線提供事業者から見ても、固定と携帯の両方の機能を有するスマートフォンが可能となり、FMCによる融合や競合が起って新しいブロードバンド事業構造が生み出されることになるでしょう。そうしてこそ、データ(パケット)トラヒックの急増に対応する方法が広がることになります。

 以上の4点のほかにも、数多くのインパクトがスマートフォンによってもたらされることでしょう。アプリケーション/コンテンツ・プロバイダーの大衆化、ユーザーの社会化行動(socialization)の拡大、通信の放送化及び放送の通信化、ライフ・ログのサービス化など本当に様々な影響があると想像できます。通信事業者にとっては、想定していた以上にスマートフォンの進展は早いものです。今年暮れには、NTTドコモがLTEをサービス開始する予定となっています。絶好のタイミングと言えるでしょう。世界の関心も、もはやLTEで何をするかではなく、いかにしてスマートフォンによるトラヒック急増に対応するのかに集まっています。日本のブロードバンド政策も、光の道だけに終始せず、電波の道に配慮するべき時期だと考えます。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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