2010年9月27日掲載

2010年7月号(通巻256号)

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世界の論調:LTE採用に向けて動き出したモバイルWiMAX陣営

 モバイルWiMAXは2006年に韓国で始まったサブセット版のWibro導入を皮切りとして、現在までに既に多数の国・地域で商用サービスが開始されており、次世代のワイヤレス・ブロードバンド方式として当初LTEより優勢な立場にあった。しかし、昨今、AT&Tやボーダフォンを始めとする世界有数の大手事業者の多くがLTE採用を打ち出したことから、モバイルWiMAXの勢いが一気に失速しつつある。こうした状況にさらに追い討ちをかけるように、今年に入り大手モバイルWiMAX事業者を含むモバイルWiMAX陣営のLTE採用に向けた動きが明るみになってきている(表1)。本稿では、各種メディアの論調を交えこれらの動きを解説するとともに、今後のモバイルWiMAXの行方について展望する。

【表1】モバイルWiMAX陣営のLTE採用に向けた動き

米クリアワイヤ、インテルとのWiMAX独占契約を解消、LTEも視野に

 モバイルWiMAX事業者最大手の米クリアワイヤは2010年5月、2010年第1四半期決算の電話会見において、将来的にWiMAX以外の技術を採用する可能性があると示唆したことが報じられた。internet.com(5月7日)は同社幹部が、「大株主インテルとの契約内容を変更したことに伴い、今後はWiMAX技術に縛られる必要がなくなった」と発言したと伝えている。同メディアによれば、当初クリアワイヤとインテル間で締結された契約では、2012年2月までWiMAXを独占採用することが謳われていた。しかしながら、今回の変更を受けクリアワイヤは、30日前通知を行うことでWiMAXサービスの中止もしくはLTEなど他技術を採用することができるようになった。モバイルWiMAX陣営の旗頭であった同社がWiMAXオンリー路線から逸脱する可能性を公言したことは、普及が伸び悩む中で試行錯誤を続ける世界のモバイルWiMA]事業者にとって衝撃的なニュースであったに違いない。 

 クリアワイヤが契約満了を待たず敢えてこのタイミングでの変更に踏み切った背景には、今年に入り急ピッチでLTE導入機運が高まりつつあることから、まずは早急に自社を、採用可能な技術方式に関してはフリーハンドの状態にしておきたいという焦りと危機感があったものと思われる。クリアワイヤの共同設立者で最大の出資者であるスプリント・ネクステル自身も将来的なLTE採用を匂わせている。FierceBroadbandWireless(5月24日)は同社が、「コアCDMAネットワークの次世代ソリューションとしてLTEを見据えている」とコメントしたと伝えている。同社は現在、クリアワイヤの再販事業者としてモバイルWiMAXサービスの販売を行っている。

 但し、クリアワイヤは現時点で決してLTE導入を急いでいるわけではなさそうだ。CNet News(5月7日)はクリアワイヤのCEO Morrow氏が、「我々はLTEの導入を急いでいるわけではなく、2012年前に導入されることはあり得ない」と断言したとしており、導入計画は現時点で白紙状態のようだ。事実、クリアワイヤは引き続きモバイルWiMAX事業を拡張させていく方針を打ち出している。NETWORKWORLD(5月5日)は、「クリアワイヤは、現在でも28億米ドルから32億米ドルを投じてネットワーク建設を進め、年末までに米国で1.2億の人口カバレッジの達成を目指すことを期待している」と報じており、またFierceWireless(5月5日)も同社が、今夏にモバイルWiMAXサービスをさらに18都市へ拡大する計画であることを伝えている。

 しかし、水面下ではクリアワイヤはLTE導入に向けた下準備を着々と進めている様子であり、同社がLTE導入を正式発表するのは時間の問題かもしれない。そもそも今回のインテルとの契約変更の発表に先立ちInfoWorld(3月24日)はクリアワイヤのCEOが、「我々のネットワークのアーキテクチャは、必要であればLTEを追加することが可能となっている」と発言したことを伝えていた。同社は当初からLTE導入を見据えてモバイルWiMAXネットワーク構築を行っていたとも捉えられる。また、Internet.com(5月7日)は同じく同社のCEOが、「おそらく(LTE)とWiMAXは重複する部分が80%もあり、移行は比較的容易である」とコメントしたとしている。同メディアによれば、クリアワイヤは、既存のモバイルWiMAXネットワークにLTEネットワークを重ねることを検討している模様だ。さらにNETWORKWORLD(5月5日)は、「いかにして最低のコストで(LTE)転換を行うことができるかをベンダーと話し合っている」としており、既にLTE導入に向けたコスト試算に取り掛かっていることも窺い知ることができる。

 なお、LTE採用において他事業者との提携話も浮上している。RETHINK WIRELESS(5月6日)は、クリアワイヤがTDD−LTEで中国移動と技術およびローミング面で提携する可能性があると伝えたが、これは現実味のある推測であろう。同社はモバイルWiMAXと同じTDD方式を採用したLTE導入を視野に入れており、TDD−LTEの旗振り役でかつ世界最大の加入者数を有する中国移動と提携することは同社にとって大きなバックアップとなり得るからだ。

ロシアのヨタはLTE採用を明確に宣言

 クリアワイヤと同じくモバイルWiMAX陣営の中核を成す世界2位のロシアのヨタは、LTE採用の可能性を示すのみに留まったクリアワイヤとは異なり、2010年5月21日のニュースリリースにおいて自らLTE転換を明確に宣言した。同社は既に具体的なLTE展開のロードマップを描き出しており、早くも2010年中に1億米ドルを投じ5都市でサービスを開始するとしている。同社は既に1,000基の基地局調達を契約済みで7月にも初回受け渡しが行われるとしており、着々とLTE導入に向けた準備を進めている。ロイター(5月21日)によれば、当初ヨタはモバイルWiMAXを現在展開中の5都市に加えさらに15都市で展開する計画であったが、これを中止し新たな展開は全てLTEで行う計画に変更したとしており、またLTE導入の総投資額は最大20億米ドルに及ぶ見込みとしている。なお、ヨタは既に5都市で開始済みのモバイルWiMAX展開は継続するが、今後の基地局増設はモスクワでのみ実施する予定だ。現在モバイルWiMAX展開中の同国2大都市のモスクワおよびサンクトペテルブルクでも2011年末までにLTEが導入される計画となっている。それゆえ、当面はLTEとモバイルWiMAXが併存する可能性が高いが、前述の通り新たな都市での展開は全てLTEで行う方針であることから、今回のヨタのLTEへの転換は本格的なものであると言えよう。

 なお複数のメディアは、ヨタ自身が語ったLTE採用に踏み切った理由を報じている。英調査会社Wireless Intelligence(5月24日)はヨタが、「グローバルなトレンドに即して、我々は自社顧客にベストなソリューションを提供することを模索している。我々がLTE導入を遅らせているただ一つの理由は、LTE技術が目新し過ぎるからという事実に過ぎない」とコメントしたことを伝えた。またFierceBroadbandWireless(5月24日)は、「ヨタはサービス会社であり、我々にとってテクノロジーは道具である。LTE標準がワイヤレス・コミュニケーションにおいて主要トレンドとなりつ つあることは明確だ」と語ったとしている。これらの発言から同社がモバイルWiMAXに固執していることは無く、単にその時々で最良の技術を採用するというスタンスを持ち、今日それがモバイルWiMAXからLTEに取って代わりつつある流れに即しLTE導入を決定した、というだけのことなのであろう。なお、NETWORKWORLD(5月26日)はより具体的に踏み込んだ内容としてヨタが、LTE展開を決定した主たる理由の一つとして端末の利便性を挙げたとしており、また米調査会社インフォネティックスのアナリストの見解を引用し、「ヨタはWiMAX/GSM対応端末のHTC MAX 4Gを提供してきたが、多様なWiMAX対応端末を得られていない」とコメントしている。端末のラインナップ不足も同社のモバイルWiMAX展開を阻む障壁となっていたようだ。事業者がいくら広範で優れたモバイルWiMAXのネットワークを整備したとしても、ユーザーを誘引する魅力的な数多くの端末ラインナップが揃わなければユーザー獲得は困難となる。ヨタは、ネットワークを構築したにも関わらず期待したほどのモバイルWiMAX対応端末が投入されず、思惑通りにユーザー獲得が進まないといったジレンマを抱えていたのかもしれない。

 また、ヨタのLTE転換がWiMAX業界に与えるマイナス要因についてもメディアが意見を述べている。Cellular-news(6月23日)は、「ヨタのLTE転換は、WiMAXのエコシステムおよび他のWiMAXプレーヤーの展開計画にネガティブなインパクトを与える」とコメントしており、大手事業者のLTE転換によりWiMAX業界全体に悪影響が波及するとの見方を示している。

 こうした中で、ヨタのLTE導入の足かせになりかねない懸念も勃発している。FierceWireless(6月2日)は、「ロシアの規制当局Roskomnadzorは、ヨタの免許はWiMAXサービスのみの提供に限って付与したと主張している」と伝えた。しかし、一方でヨタの関係者は、現行の免許には採用可能な技術に関しての正確な定義は含まれていないため、現在の免許でLTE導入が可能であると主張しており、両者の主張は真っ向から対立している。

国策としてモバイルWiMAXを進める台湾でも変化が

 本誌2010年3月号(台湾政府が推進するWiMAX産業政策 〜 続々とモバイルWiMAXサービスが開始)で解説したとおり、台湾では国家主導で2009年から続々と各社がモバイルWiMAXサービスを開始している。しかし国策としてモバイルWiMAXを推進してきた台湾においてでさえも、その取り組み方針に変化が現れ始めているようだ。GoingLTE.com(6月10日)は、「規制当局の国家通信伝播委員会が、一部のモバイルWiMAX事業者に対し最終的にLTEへ転換することを認める方針である」と伝えた。しかし、免許発行数など諸条件の整備に時間を要するため、2014年以前にLTEが導入されることは無いと見られている。

有望市場のインドでも主要事業者がTD−LTE採用へ

 中国に次ぐ市場規模を持ちブロードバンドの普及率が未だ1%未満に留まるインドでは、度重なるオークション実施の延期を経て漸く2010年5月に3G免許、そして同年6月にはBWA(Broadband Wireless Access)免許の付与手続きが完了した。BWA免許ではLTE、モバイルWiMAXのいずれが落札事業者に採用されるかが注目されたが、全国免許を獲得したインフォテル、そして主要都 市で免許を獲得した米クアルコムの主要2社はともにTD−LTE導入の方針を表明している。起死回生の可能性を秘めた最大の有望市場であったインドでも、結局、モバイルWiMAXは日の目を見るチャンスを逃してしまったようだ。

 数年前に当初計画通りBWA免許オークションが開催されていたならば、当時TD−LTEは未確定であっため、モバイルWiMAXが採用された可能性が高い。巨大市場を持つインドで、主たる次世代のワイヤレス・ブロードバンド方式としてモバイルWiMAX導入が実現していれば、現在のモバイルWiMAXの勢力図も変わっていたかもしれない。しかしモバイルWiMAX推進派にとっては皮肉にもオークション実施の延期が繰り返される間に、TDD版も盛り込んだLTEの標準化が2009年3月に完了し、上海万博では早くも中国移動がTD−LTEのデモを披露するなどTD−LTEの商用サービス開始に向けた準備が大きく進展した。そのため、今年オークションが実施された時点では、既に市場のトレンドはモバイルWiMAXからLTEへ移り変わってしまっていたのだ。

大手3社が市場の約7割を席巻、大手事業者のLTE採用の動きは大きな打撃

 英調査会社インフォーマによれば、2009年第4四半期時点で世界のモバイルWiMAX総加入者数は推定150万超に達した。ABIリサーチは同時点で164ものモバイルWiMAXネットワークが商用開始済みもしくは試験運用中のステータスにあるとしているが、10万を超す加入者を擁する事業者は米クリアワイヤ、韓国のKTそしてロシアのヨタの3社のみだ。しかもこれら3社が全加入者の約7割を席捲しており、既に多数のモバイルWiMAX事業者が世界各地でサービスを提供している状況とは裏腹に、現状僅か一握りの事業者が市場の主導権を握っているに過ぎない。その数少ない主要事業者の2つがLTEに傾倒しつつある事実は、モバイルWiMAX陣営にとって今後事業をさらに推進していく上で大きな打撃となる可能性が高い。

モバイルWiMAXを取り巻く周辺企業も次々と撤退の動き

 モバイルWiMAX採用事業者が減少すれば、モバイルWiMAX市場を取り巻くベンダーやネットワーク事業者などの周辺企業は、同分野で魅力的なスケールメリットを享受することが困難となり、事業縮小や撤退、もしくは他事業への転換に動き始めざるを得なくなる。そうなると結果的に、モバイルWiMAXの導入がコスト高かつ非効率となるため新規にモバイルWiMAXを採用する事業者もより一層出現しにくくなる、といった悪循環のサイクルにはまりかねない。なお、ノキア・シーメンス・ネットワークスとアルカテル・ルーセントに続き、今年に入ってからはシスコもWiMAX基地局事業から撤退したことが報じられている。また、ノキアは同社唯一のWiMAX対応デバイスであるハンドヘルドコンピュータ「N810」のWiMAX版を2008年4月に発売開始したものの、翌年の1月には早くも製造中止に至っている。さらにWiMAXに対し積極的な取り組み姿勢を見せていたインテルも、WiMAXの普及および利用推進のために同社が台湾に設置したWiMAXプログラム・オフィスを閉鎖することを発表したとIT WORLD(7月1日)が伝えている。インテルはWiMAX事業を継続すると付け加えているが、発展途上の最中におけるこうした決断の裏には、同社のWiMAX事業への期待感の薄まりが窺える。

 市で免許を獲得した米クアルコムの主要2社はともにTD−LTE導入の方針を表明している。起死回生の可能性を秘めた最大の有望市場であったインドでも、結局、モバイルWiMAXは日の目を見るチャンスを逃してしまったようだ。

 数年前に当初計画通りBWA免許オークションが開催されていたならば、当時TD−LTEは未確定であっため、モバイルWiMAXが採用された可能性が高い。巨大市場を持つインドで、主たる次世代のワイヤレス・ブロードバンド方式としてモバイルWiMAX導入が実現していれば、現在のモバイルWiMAXの勢力図も変わっていたかもしれない。しかしモバイルWiMAX推進派にとっては皮肉にもオークション実施の延期が繰り返される間に、TDD版も盛り込んだLTEの標準化が2009年3月に完了し、上海万博では早くも中国移動がTD−LTEのデモを披露するなどTD−LTEの商用サービス開始に向けた準備が大きく進展した。そのため、今年オークションが実施された時点では、既に市場のトレンドはモバイルWiMAXからLTEへ移り変わってしまっていたのだ。

大手3社が市場の約7割を席巻、大手事業者のLTE採用の動きは大きな打撃

 英調査会社インフォーマによれば、2009年第4四半期時点で世界のモバイルWiMAX総加入者数は推定150万超に達した。ABIリサーチは同時点で164ものモバイルWiMAXネットワークが商用開始済みもしくは試験運用中のステータスにあるとしているが、10万を超す加入者を擁する事業者は米クリアワイヤ、韓国のKTそしてロシアのヨタの3社のみだ。しかもこれら3社が全加入者の約7割を席捲しており、既に多数のモバイルWiMAX事業者が世界各地でサービスを提供している状況とは裏腹に、現状僅か一握りの事業者が市場の主導権を握っているに過ぎない。その数少ない主要事業者の2つがLTEに傾倒しつつある事実は、モバイルWiMAX陣営にとって今後事業をさらに推進していく上で大きな打撃となる可能性が高い。

モバイルWiMAXを取り巻く周辺企業も次々と撤退の動き

 モバイルWiMAX採用事業者が減少すれば、モバイルWiMAX市場を取り巻くベンダーやネットワーク事業者などの周辺企業は、同分野で魅力的なスケールメリットを享受することが困難となり、事業縮小や撤退、もしくは他事業への転換に動き始めざるを得なくなる。そうなると結果的に、モバイルWiMAXの導入がコスト高かつ非効率となるため新規にモバイルWiMAXを採用する事業者もより一層出現しにくくなる、といった悪循環のサイクルにはまりかねない。なお、ノキア・シーメンス・ネットワークスとアルカテル・ルーセントに続き、今年に入ってからはシスコもWiMAX基地局事業から撤退したことが報じられている。また、ノキアは同社唯一のWiMAX対応デバイスであるハンドヘルドコンピュータ「N810」のWiMAX版を2008年4月に発売開始したものの、翌年の1月には早くも製造中止に至っている。さらにWiMAXに対し積極的な取り組み姿勢を見せていたインテルも、WiMAXの普及および利用推進のために同社が台湾に設置したWiMAXプログラム・オフィスを閉鎖することを発表したとIT WORLD(7月1日)が伝えている。インテルはWiMAX事業を継続すると付け加えているが、発展途上の最中におけるこうした決断の裏には、同社のWiMAX事業への期待感の薄まりが窺える。

 市で免許を獲得した米クアルコムの主要2社はともにTD−LTE導入の方針を表明している。起死回生の可能性を秘めた最大の有望市場であったインドでも、結局、モバイルWiMAXは日の目を見るチャンスを逃してしまったようだ。

 数年前に当初計画通りBWA免許オークションが開催されていたならば、当時TD−LTEは未確定であっため、モバイルWiMAXが採用された可能性が高い。巨大市場を持つインドで、主たる次世代のワイヤレス・ブロードバンド方式としてモバイルWiMAX導入が実現していれば、現在のモバイルWiMAXの勢力図も変わっていたかもしれない。しかしモバイルWiMAX推進派にとっては皮肉にもオークション実施の延期が繰り返される間に、TDD版も盛り込んだLTEの標準化が2009年3月に完了し、上海万博では早くも中国移動がTD−LTEのデモを披露するなどTD−LTEの商用サービス開始に向けた準備が大きく進展した。そのため、今年オークションが実施された時点では、既に市場のトレンドはモバイルWiMAXからLTEへ移り変わってしまっていたのだ。

大手3社が市場の約7割を席巻、大手事業者のLTE採用の動きは大きな打撃

 英調査会社インフォーマによれば、2009年第4四半期時点で世界のモバイルWiMAX総加入者数は推定150万超に達した。ABIリサーチは同時点で164ものモバイルWiMAXネットワークが商用開始済みもしくは試験運用中のステータスにあるとしているが、10万を超す加入者を擁する事業者は米クリアワイヤ、韓国のKTそしてロシアのヨタの3社のみだ。しかもこれら3社が全加入者の約7割を席捲しており、既に多数のモバイルWiMAX事業者が世界各地でサービスを提供している状況とは裏腹に、現状僅か一握りの事業者が市場の主導権を握っているに過ぎない。その数少ない主要事業者の2つがLTEに傾倒しつつある事実は、モバイルWiMAX陣営にとって今後事業をさらに推進していく上で大きな打撃となる可能性が高い。

モバイルWiMAXを取り巻く周辺企業も次々と撤退の動き

 モバイルWiMAX採用事業者が減少すれば、モバイルWiMAX市場を取り巻くベンダーやネットワーク事業者などの周辺企業は、同分野で魅力的なスケールメリットを享受することが困難となり、事業縮小や撤退、もしくは他事業への転換に動き始めざるを得なくなる。そうなると結果的に、モバイルWiMAXの導入がコスト高かつ非効率となるため新規にモバイルWiMAXを採用する事業者もより一層出現しにくくなる、といった悪循環のサイクルにはまりかねない。なお、ノキア・シーメンス・ネットワークスとアルカテル・ルーセントに続き、今年に入ってからはシスコもWiMAX基地局事業から撤退したことが報じられている。また、ノキアは同社唯一のWiMAX対応デバイスであるハンドヘルドコンピュータ「N810」のWiMAX版を2008年4月に発売開始したものの、翌年の1月には早くも製造中止に至っている。さらにWiMAXに対し積極的な取り組み姿勢を見せていたインテルも、WiMAXの普及および利用推進のために同社が台湾に設置したWiMAXプログラム・オフィスを閉鎖することを発表したとIT WORLD(7月1日)が伝えている。インテルはWiMAX事業を継続すると付け加えているが、発展途上の最中におけるこうした決断の裏には、同社のWiMAX事業への期待感の薄まりが窺える。

ニッチ市場で生き残り、LTEとの共存は可能か?

 世界の携帯電話の業界団体GSAによれば2010年には最大22のネットワークでLTE商用サービスが開始される見込みであり、LTE展開が今年に入り大きく加速する様相を呈している。モバイルWiMAXより数年出遅れたものの、LTEは世界の携帯電話市場における方式別シェアで約8割をも占めるGSMの進化系であることから、そもそも携帯事業者の大半がLTE採用に動いていることはごく自然な傾向であり、当初からLTEとモバイルWiMAXの覇権争いの勝敗は見えていたのかもしれない。これまでモバイルWiMAX陣営を支えてきた大手事業者やその周辺企業などのここ最近の脱モバイルWiMAXの動きからも、モバイルWiMAXがLTEに対等の立場で対抗することはもはや不可能であると言っても過言ではないだろう。WiMAXフォーラムのチェアマンであるResnick氏自身も、FierceBroadbandWireless(6月6日)に対し、「WiMAX技術は将来少数技術となる」とコメントしている。なお、WiMAXフォーラムは過去5〜6カ月の間に100もの加盟メンバーを失っている。 

 モバイルWiMAXの生き残りのため最善策は、発展途上国の固定ブロードバンド未整備地域における早急なワイヤレス・ブロードバンド導入やルーラル・エリアでの展開等、LTEと競合しないニッチ市場で独自の発展を遂げていくことなのかもしれない。また、現在LTEの最大速度を凌駕する次世代モバイルWiMAXの標準化も進められており、固定ブロードバンド並の速度を実現する技術として両方式は遜色なく、速度面におけるユーザーの利便性にも大差はないであろう。それゆえ、モバイルWiMAXの少数派としての立場は変わらずとも、2つの技術が適材適所の形で展開され、相互補完的な関係で併存していくことが最も望ましい姿なのではないだろうか。

松本 祐一

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