2011年2月24日掲載

2011年1月号(通巻262号)

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巻頭”論”

2011年の新潮流〜“ソーシャル”がキーワード

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 新年、明けましておめでとうございます。2011年を迎え、今年がどのような年になりそうなのか、昨年末に発表された、2010年ヒット商品番付をベースに考えてみたいと思います。

  その前に、昨年2010年は、1890年(明治23年)12月16日に、日本で最初に電話サービスが東京と横浜で開始されてから、ちょうど120年でした。その電話サービスが開始される前、数年に亘り、当時の太政官と工部省(のちに分離独立して逓信省)との間で、官民営論争が大々的に行われた歴史があります。太政官は財政上の理由から民営論、工部省(逓信省)は官営論を主張し、結局、後者の主張が通って官営電話事業として開始されました。その際の主張の根拠として、今日でも注目される点が存在します。第一の理由は、国防・治安上の問題、第二は、巨費を要する資金調達問題、第三に、全国普及を目指すユニバーサル・サービス問題と自然独占、第四に、主要先進国(ここでは欧州が中心)の事例、が挙げられています。120年前の議論にしては、いまだに新鮮な薫りがするところに情報通信産業の重さを感じます。

 さて、2010年ヒット商品番付(日本経済新聞 2010.12.8)ですが、堂々、東の横綱にスマートフォンが登場しています。西の横綱は羽田空港ですが、エコポイント、猛暑特需、3D、LED電球などを押えての第一位です。

2010年ヒット商品番付(2010年12月8日、日本経済新聞)
(以下省略)
  西
スマートフォン 横綱 羽田空港
エコポイント 大関 3D
猛暑特需 関脇 LED電球
200円台牛丼 小結 坂本龍馬
ドラッカー 前頭 トップナノックス
銀座 東京スカイツリー

 全体として長期化するデフレを反映して、低価格の外食店や省エネ製品などが上位にランクインするなか、新たな消費を生み出す力の源泉が、スマートフォン、羽田空港ともに「人と人とをつなぎ世界への扉を開くツール(2010年12月8日、日経流通新聞)」であると言うことです。

 さらに、産経新聞(2010.12.9)によるネット発ヒット商品番付2010では、東の横綱が動画中継、西の横綱がソーシャルゲームとなっています。

ネット発ヒット商品番付(2010年12月9日、産経新聞)
  西
動画中継 横綱 ソーシャルゲーム
iPad 大関 電子書籍
アンドロイド携帯 関脇 位置情報ゲーム
共同購入型クーポン 小結 AR
裁断機とスキャナー 前頭 「生」商品

 ここでも、“人と人とをつなぎ世界への扉を開くツール”が選ばれているのが分かります。見方を変えると、アプリケーションにせよ、映像にせよ、ゲームにせよ、数多くの人達が参加・関与し、ソーシャルな(=友達感覚の人間)関係を築ける商品、サービス、ソフトウェアがヒットのポイントになっていることが窺えます。これこそが、今年2011年の潮流だと思います。誰でも参加できて、世界と友達感覚で繋がっていて、そして社会全体への影響力を持つ、というのが“ソーシャル関係”であり、インターネットというICTが作り出した、新しい世界観・社会観だと感じます。何と言っても、現時点、フェイスブックとユーストリームがその代表格ですが、これは「現時点」と言うことであって、ソーシャル関係という新しい世界観・社会観をベースにおくと、今後さらに、多様な製品、サービスが登場してくることでしょう

 ICTの分野で進む、ブロードバンド化、ユビキタス化、デバイスの小型化、電池容量の増大、そして、ネットワークの重層化(オーバーレイ化)とコグニティブ機能の一般化、など、ソーシャル関係を助長する技術や機能がもっと生み出されてくることでしょう。

 モバイル・オペレーターがこうしたサービスの提供者として最も近い立場にあることに異論はありませんが、事業観として、パーソナルな通信サービスの提供に固執する嫌いがあり、この新しい動きを取り込めるのか、懸念があります。現時点の勝ち組に拘泥することなく、ソーシャル関係というインターネットをベースにした、新しい友達感覚の世界では何が求められているのか、商品・サービスがどう変わっていくのか、など事業観の本質が問われているのだと考えます。人々の生活感覚や意識が、国家や地域・企業という集団での関係から、個人(パーソナル)中心へ、さらに、その個人をベースにしたソーシャルな関係へ、とインターネットがブロードバンド化とユビキタス化を通して導いて来たのが現在でしょう。

 経済活動も、市場関係も、政治行動も、また、日々の生活さえも、何かソーシャルな関係を前提として動き始めていると感じています。単なる年末の話題作りのための新聞ネタと思わない方がよいと思います。20世紀の初め、欧米において大衆社会の到来が、社会学者や政治学者によって告げられましたが、それから100年、ICTの普及拡大が進んだ今日、新しいソーシャルな社会が生まれつつあるのかも知れません。モバイル・オペレーターの果す使命に注目しています。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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