2011年5月25日掲載

2011年4月号(通巻265号)

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巻頭”論”

メタ・データとソーシャル・グラフの戦い

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 3月11日金曜日午後2時46分に発生した東日本大震災で被災した方々に対し、心からお見舞い申し上げます。また、お亡くなりになった方のご冥福をお祈りしますとともに、怪我などを負われた方の一日も早い回復を願っています。復旧にあたっている各層の方々、ボランティアの皆様には、引き続くご尽力に感謝するところです。

  本4月号がお手元に届く頃の状況は、現時点(3月末)では想定でしかありませんが、さらに一段と復旧、復興の取り組みが進むとともに、福島第一原子力発電所事故の放射線閉じ込めの実効が上がり安定化することを願っています。今回の大震災の教訓や復旧・復興への挑戦などについては、いずれかの号に掲載したいと思っています。今後の災害対策や復興において情報通信が果たす役割が大きいだけに、単に想定外とだけ認識するのではなく、将来に向けた教訓や総括が求められていると考えています。

 そこで、今月号では、大震災の直前の3月第一週に米国西海岸に出張して関係者に会って感じたことを述べたいと思います。

 先ず、米国西海岸シリコンバレーで現在起っていることのひとつに人の移動があります。フェイスブックへの人の流動です。この動きには、さすがのグーグルも例外でなく、フェイスブックに向かって人が流動しているとのことです。これは、米国ベンチャー企業の底力の現れと見ることが出来るとともに、変化の速さに驚くばかりです。

 米国西海岸のベンチャー企業の所在地を総称してシリコンバレーと言われて来ましたが、既に状況は変わっているようです。シリコンバレーは、ヒューレット・パッカード社に典型的に見られるように半導体製品を土台とした製造企業群の総称でしたが、もはや主流はグーグルをはじめとしたソフトウェア開発企業へと移り、さらに革新的なビジネスモデルを生み出す企業へと中心が変化していることを改めて感じました。所在地の中核は、シリコンバレーの中心地であるサンノゼではなく、その北、よりサンフランシスコに近いスタンフォード大学の周辺に集積しています。ソフトウェアやビジネスモデルのイノベーションがベンチャーの狙いとなっていて、かつ、さまざまな分野の人材の集積とオープンな交流と提携が現実の行動となっています。即ち、オープン・イノベーションがスタンフォード大学の周辺で進んでいると言ってよいでしょう。事業サイドでは、モバイル・クラウドの重要性が注目を集めていますが、他方、既存企業においてはより多くのベンチャーとのコンタクトや交流、協力や共同開発など、オープン・イノベーションを進める動きが活発化しています。特にM2M(マシン・ツウ・マシン)サービスでは、異業種との提携が必須条件となるので、オープン・イノベーションの環境作りが進んでいます。例えば、AT&TではHTML5を用いるブラウザー上のコンテンツおよびアプリケーション開発を目指し、開発者向けアプリ試験センターの設置を既に発表しています。より多くのベンチャーやアプリケーション開発者を引き付けることが、既存企業の競争力につながる、即ち、異分野の人材や能力と協力・提携を進める力=デザイン力が求められます。そのためには、人の流動や交流が同時に必要となることを忘れてはいけません。

 こうした新しい動きの中、改めて、グーグルが主導するメタ・データの処理分析による検索とフェイスブックが取り組んでいるソーシャル・グラフの活用とのどちらが購買誘発力があるのか、また、政治行動(例えば投票)誘発力が見られるのか、大変興味があるところです。人間の社会行動の誘因がどこにあるのか、単純にマーケティング論や経営学の分野だけではなく、政治行動や社会的行動など政治学や社会学の分野にまで及ぶ、大きなテーマになるものです。インターネットがもたらした社会構造や人間行動の変化のひとつとして実証的に研究しておくべき領域であると思います。マスコミ、メディア的には“グーグルVSフェイスブック”として、とても関心を引く議論になることだけに、損得や事業面の目論見を離れて学問的考察が求められるところです。

 行動履歴系データをベースとするグーグルのメタ・データ処理と検索、人の属性やつながりをベースとするフェイスブックのソーシャル・グラフの活用、それぞれインターネット時代の新しいビジネス・モデルだけに今後の研究が待たれます。私も、この巻頭“論”では、2009年4月号で「近づく大融合の時代」、2010年7月号で「M2Mプラットフォームによる情報の資産化」、2011年1月号で「2011年の新潮流 〜 “ソーシャル”がキーワード」と過去3回取り上げて来ましたが、残念ながらどちらかに軍配を挙げることは出来ないでいます。

 モバイル・クラウドが主流になる時代、OSフリー、デバイス・フリーが現実化することを想定すると、メタ・データの分析処理による検索か、ソーシャル・グラフの活用による誘導なのか、通信オペレーターの事業動向にも大きな影響を与えることになるし、必然的にオープン・イノベーションの主力をどこに置くのかに反映されることになります。

 私達自身、自分の行動選択は、行動履歴に準拠しているのでしょうか、それとも人と人とのつながりに影響されているのでしょうか、興味は尽きません。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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