2011年7月4日掲載

2011年5月号(通巻266号)

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コラム〜ICT雑感〜

非常時通信のために〜今時のアマチュア無線

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 先月末に東日本大震災被害からの復旧はほぼ完了したとのNTT各社社長の記者会見が行われた。今後は社会全体の復興に向けて取り組んで行くことになる。一日も早く安心で安全な生活が戻ってくることを祈りたい。

 さて、改めて非常時の通信手段について考えて見た。光回線、光電話は、収容局に問題がなくてもローカル側で停電したら使えない。ではアナログ交換機にメタルケーブルでつながった電話回線はどうか。電話機が商用電源を必要としなければ使えるが例えばコードレス電話機は使えなくなる可能性がある。あるいはもし津波などの威力が大きければ電話局自体が停止するかもしれない。それなら携帯電話となるが災害発生時には回線が輻輳して通じないだろう。携帯電話からのメールもかなりの遅延が生じるだろう。衛星携帯電話もあるが個人にとっては一般的ではないだろう。

 考えて見るとどのような状況を想定するかにも依る。極端な場合、建物が崩壊し、運良く瓦礫の下で意識があったという状況であれば、例えば手に触れた石で近くの物をドンドンと叩くことが究極の緊急通信かも知れない。あるいは懐中電灯か何かで所在を知らせる、ことだろうか。

 とりとめなく考えた結果、更新を怠って失効していたアマチュア無線局を復活させることにした。失効したアマチュア無線局のコールサインは別の申請者に割り当てられると思っていたのだが、空いていれば同じコールサインが取得出来ることを知り、また、空きを確認したのも一つの理由である。

 開局申請のためには無線機が必要である。以前のものはとうに手元に無い。最新の機器のカタログを見て驚いた。

 アマチュア無線は、無線機同士での直接通信が基本で、言うならば、P2Pのようなものだ。ゆえに電波が届くかどうかが全てで、周波数や送信電力、アンテナ形状、受信感度、天候などあらゆる要素が影響し、様々な工夫によっていかに遠くと通信(交信)出来たかが醍醐味である。一方、携帯電話とインターネットの普及は遠方や移動しながら通信出来ること自体の意味を普遍化してしまった。私自身、以前は家族で無線機を携帯し利用していたがそんな時代ではないと感じて来た。

 ところが、最新のアマチュア無線機では、パソコンからLANやインターネット経由で無線機の操作ができる位は想像していたが「インターネット経由で通話(通信)が出来る」とか「センサ情報をリアルタイムで送信し無線機やWebで確認出来る」など、暫くご無沙汰している間に相当の進歩を遂げていた。月並みだが「これがアマチュア無線か」と思わずつぶやいてしまった。

 EchoLinkは、無線機とPCをつないで、インターネット経由で通信(通話)を行うシステムで利用者はアマチュア無線局である必要があるが特段の利用料金は発生しない。リンク局やレピータ局という中継局と通信(交信)することで、インターネット経由で、無線機やPCを経由して世界中のアマチュア無線局と通信(交信)出来る。少々意味合いは違うが、新電電参入時に話題となった「公専公」接続を連想してしまう。今では、PCだけでなく、iPhoneやAndroidスマートフォンでも利用可能で、3G回線やWi−Fi回線経由でアマチュア無線機と交信(通話)出来るというのは驚きだ。

 APRS(Automatic Packet Reporting System)は無線機につないだGPSや気象センサの情報やメッセージを自動的に送信しお互いにその情報を利用したりI−GATEという中継(アマチュア)無線局経由でインターネット上のWeb経由で活用するシステムである。Webにアクセスして見ると多くのアマチュア無線局の現在位置、軌跡を、また局によっては気象情報等も発信している。海上の船舶からも発信されており乗り組んでいる海外のアマチュア無線局によるものもある。言うならば地球規模のセンサーネットワークであり膨大なライフログが発信されている。

 このように大きな進歩を遂げている今時のアマチュア無線だが、技術的な面に加え、私は、その適度な「実名性と匿名性」が貢献しているのではないかと考えている。

 コールサインは国によって与えられており、無資格、無申請で無線機を購入して勝手なコールサインで電波を送信することは可能であるが、当局は電波監視によって取り締まっているし、怪しい無線局が現れれば受信したアマチュア無線家達はそれを排除しようとするのが通常である。

 一方、例えば通信(交信)の際に、名字と大凡の住所はお互いに知らせ合い、交信証を交換することもあるが、通常はそれ以上の情報を伝える必要はない。コールサインが一種の顔である。

 APRSは、iPhoneが位置情報を携帯電話会社に送信し蓄積されていることが問題となっているのを見ると、不思議な感じさえして来る。各アマチュア無線局はリアルタイムで位置や移動速度などの情報を発信している。これは、前述の適度な「実名性と匿名性」によるところが大きいのではないかと思う。また、アマチュア無線家によって構築されているシステムであり、第三者が情報を蓄積しているではなく、自分達がシステム、サービスを創り上げているという感覚であろう。

 この様に、今時のアマチュア無線では、実に先端的な機能、システム、サービスが利用可能になっているが、実は、私自身は久々の開局から間もなく機器の必要性もあり体験出来ていない。先ずは小型の無線機を通勤カバンに入れて交信の様子を聞いている。非常時にどれほど役に立つかは別として、利用環境を整えて最新の使い方を実践したいと考えている。

マーケティング・ソリューション研究グループ 取締役 田中 和彦

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