2011年11月22日掲載

2011年10月号(通巻271号)

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『事業継続とテレワーク
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巻頭”論”

新しい概念設計の重要性〜HetNet、ポスト・アプエコノミーなど

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 スマートフォン、SNS、クラウドなど、ICT産業分野だけでなく、経済構造全体に影響を与えているものも多く見られます。少し前に各方面で取り上げられていた、ブロードバンドやユビキタスが主として技術開発や発展の方向を示していたのに対し、最近登場している用語は、技術よりむしろ、新しい経済・社会行動を示す傾向にあるのが特徴となっています。

 例えば、前述のスマートフォン、SNS、クラウドでは製品やサービスの概念はあっても、正確な定義は存在していません。しかし、消費者・ユーザーは、これらを新製品、新サービスとして受け入れ、利用しています。ここでは、技術は陰に隠れ、利活用の目新しさや満足度、効用が前面に出ているのが特徴です。技術面においては開発ではなくむしろ、統合・結合・連携にポイントがあり、だからこそ、新しい用語で新しく創出される価値を表わすよう概念設計することが重要となっていると感じます。

 そこで、最近、注目されているものとして、HetNetと、ポスト・アプエコノミーを取り上げてみたい。この両者とも、技術開発やインフラ整備の背景を有していますが、本質はさらに進んで新しい概念設計が行われていることにあります。

 HetNetとは、ヘテロジニアス・ネットワーク、即ち、異質なネットワークを取り込んだネットワークの運営・活用方法を示した概念です。モバイルネットワークをベースに、それも3Gだけでなく、HSPAやLTE、WiMAXなどを含め、加えて、Wi-Fiや固定ブロードバンド(光ファイバーなど)を取り込んだ種々のネットワークを、デバイス側とサーバー側で統合して使い勝手をよくして行こうとするもので、従来はネットワークのオーバーレイ化などと言われて来たものを新概念にまとめ上げたものです。

(注)本誌では、2011年2月号巻頭“論”「オーバーレイ(重層)化する通信ネットワークの活用」、および、2011年7月号記事「HetNet:ネットワーク・ソリューションの新潮流」で取り上げています。

 この新しいHetNetの概念には、競争している同業種ネットワークの中から状況に応じて最適なものを、その都度一定の条件で選択する機能をも包含しています。つまり、デバイスやサーバー上のソフトウェア(アプリケーション)が多数のネットワークから最適なものを選び出すことになり、異質な複数のネットワークの統合体をサービス化しようとするものと言えます。インフラとしてネットワークを提供している通信事業者にとっては脅威ですが、消費者・ユーザーにとっては極めて便利で快適なサービスとなることでしょう。

 いわば、どの列車でも、バスでも、地下鉄でも乗車できるSuicaをそのまま定期券にしたようなもので、最適サービスの選択だけでなく、料金決済やサービス分配などを提供する事業者を想定しておく必要があります。

 二番目は、ポスト・アプエコノミーの潮流についてです。アプエコノミーが概念として定着したとは言えないうちに、既にICT分野のアプリケーション市場では、ポスト・アプエコノミーの時代に移ろうとしている現実があります。アップルのiPhoneが生み出した、アプリケーション市場(アップルでは、App Storeと呼んでいます)は、端末、OSからネットワーク、アプリケーション販売と代金決済まで垂直統合型モデルを形成し、アプリケーション販売代金の一定割合(30%程度と言われています)の手数料を課すのが一般的で、これが新しいビジネスモデルとして、アプエコノミーと呼ばれるようになっています。

 しかし、アプリケーション開発者は、OSに縛られるのを嫌い、OSフリー、さらにはデバイスフリーな環境で開発することを求めているので、アプエコノミーの前提となっている垂直統合型モデルを越えるモデルが追求されるようになってきています。現実には、HTML5搭載のデバイスが数多くなっていて、ブラウザ・ベースのアプリ開発が進められています。流れは、ポスト・アプエコノミーという訳です。

(注)本誌、2011年3月号巻頭“論”「アプ・エコノミーの限界とブラウザーの復権?」および、2011年3月号記事「WACとAT&Tが狙う「通信事業者主導」のアプリケーション事業」を参照。新しい概念も、次の新概念からの挑戦を受けているのが分かります。

 ところで、話題は変わりますが、世界各国でLTEへの設備投資が強化されつつありますが、このLTEを3.9G(スーパー3G)と呼ぶか、4Gと称するか、見方の分かれるところです。これも、そもそもの概念設計とその後の市場環境の変化による概念設計の変遷に関係していると言ってよいと思います。

 本来、LTE方式は、その当時、これから建設が進んでいくと想定されていた3G方式の延長と位置付けられて、現行の3G周波数を利用しながら、即ち、新規の基地局サイトの建設を行わずに移行しようとする概念設計で進められて標準化が図られて来たものです。だからこそ、名称もLong Term Evolution(長期改良/発展)なのであり、本来の流れでは、スーパー3G(3.9G)と言うのが筋であって、当初からこの名称で提唱されていました。しかし、標準化が進み、一方でネットワークの3G化が進展した今日では、既存周波数や施設の利用よりも、製品・サービスの新しさを強調する効用の方を重くみて、新しい概念、つまり3Gの次の4G(第四世代)と訴える方がよいとする通信事業者が欧州を中心に多くなり、路線の違いが目立つようになっています。流れは4Gにありますが、要は、それぞれ直面している市場をどう捉えるのか、発展段階をどう認識するのか、国際化する市場の中で製品・サービスをどう位置付けていくのか、などに関係するので、新しい方式の概念設計では、用語の使用はやはり重要な要素です。

 特に、流れの変化が早く、多くの事業者やメーカー等関係者が数多く存在するICT産業界では、多くの賛同者の獲得を目指す概念設計が最も重要でしょう。単なる事象の説明に終わらない、日本発の新しい概念設計が進展することを期待したいところです。

 冒頭に取り上げたHetNetにせよ、ポスト・アプエコノミーにせよ、まだ十分に先が見えないなか、新しい何かを生み出す概念設計が進んでいます。HetNetは、通信事業者にとっては新しく脅威となるものであり、一方、ポスト・アプエコノミーでは、通信事業者が上位レイヤサービスの提供者に対抗する方策となり得るものと言えるので、今後、どのように発展していくのか、具体的なサービスやビジネスモデルの設計の前に、概念設計の深化を見極めておく必要がありそうです。将来の予兆を捉えて行きたいと思っています。

 モバイル通信ネットワークでは、GSMから3Gへの移行が相当進展していると同時に、スマートフォンの普及が急ピッチで進んで、トラフィックが急増してネットワークの混雑(“輻輳=ふくそう”と言います)が顕在化していますので、モバイル通信以外のネットワークをどう取り込んで有効に使い分けるのか、まさに、HetNetの概念をどう具体的な製品・サービスに結び付けて行くのかが課題となっています。さらに、こうしたHetNetのなかで、垂直統合型ではない新しいエコシステムを構築できるのかが問われています。先ずは、新しい概念設計が先決でしょう。この点が私達、日本の産業界の弱点であるのですから。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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