2012年1月11日掲載

2011年11月号(通巻272号)

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コラム〜ICT雑感〜

ネットワークオーディオが開くモバイル超高音質オーディオの可能性

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1982年に発売が開始された音楽CDは、それまでのレコードに比べ、音質、再現時間、扱いやすさ等の点で画期的であった。音楽信号を、16bit/サンプル、サンプリング周波数44.1KHzのPCM(Pulse Code Modulation)方式でデジタル化することで、人間の可聴領域と言われている20Hz〜20KHzを再生可能になった。

その後、1999年には、更に高音質化を図ったスーパーオーディオCD(SA−CD)が規格化された。音楽信号を2.8224MHzという高速なサンプリング周波数により1bitのデジタル信号に変換するDSD(Direct Stream Digital)方式によって100KHzという可聴領域を超える音響が再生可能と言われている。

しかしSA−CDはそれまでのCDに置き換わることはなかった。

不振の理由は様々に言われているが、CDを継いだのは、AAC形式ファイルやmp3形式ファイルによる音楽のダウンロード販売やメモリを使ったシリコンプレーヤで楽しむスタイルであった。

これらを実現したのは、音楽ファイルの高圧縮技術とネットワークの高速化、メモリの大容量化・低価格化である。

音楽CDは1枚500〜700MB程度であるが、mp3などでは約10分の1になる。3分程度の曲は5MB程度となり、当初、電話回線を使った数十Kbpsの回線では数十分かかったが、ADSL回線や光ファイバ回線によって、数十秒〜数秒でダウンロード出来るようになった。メモリ容量も数百MBから64GB程度まで大容量化が進み蓄積出来る楽曲数も数十曲から数千曲以上となった。

このようなスタイルは、ネットワークオーディオと呼ばれており、mp3などの非可逆圧縮では、聴感上は感じないが、音質が劣化しており、高音質よりは、便利さ、手軽さを優先した方法と言える。

一方、今、このネットワークオーディオに「超」高音質化を目指した動きがある。

SA−CDのDSD形式や、CDの16bit/44.1KHzを上回る24bit/96KHz、24bit/192KHzのPCM形式でインターネット経由で配信するサービスが開始されている。

DSD形式は、演奏を録音する際にも用いられており、そのままの形式で配信することで演奏されたままの音を伝えることが出来ると言われている。

SA−CDは、SA−CDという従来のCDとは異なる物理的な媒体を販売するビジネスモデルであったが、超高音質ネットワークオーディオでは物理的な媒体を必要としない。

PCを使って、超高音質フォーマットの音楽ファイルを入手し、再生するソフトと高音質の再生デバイスがあれば従来のCDを超える音楽を再生出来る。

現在は、室内で再生するスタイルであるが屋外でモバイル環境で楽しむ可能性もあるのではないか。

雑音の多い屋外で、超高音質の音楽を再生可能なのか、楽しむ意味があるのか、という疑問も湧くが、遮音性の高い高音質ヘッドフォンやノイズキャンセルヘッドフォンが鍵になると思う。

ノイズキャンセルヘッドフォンは、使っている、あるいは体験された方は、ご承知と思うが、私は、最初に装着した時にその静寂性に驚いた。一瞬、自分の耳がおかしくなったのかと思った。航空機や地下鉄の中でも動作させると雑音がすっと消えてどこに居るのか分からなくなる程である。

防音、残響などに配慮した部屋で、高級なスピーカ、アンプなどのオーディオ機器を使って再生すれば、十二分に超高音質の音楽を楽しめるであろうが、なかなかそのような環境は用意出来ない。
通常の環境であれば様々な生活雑音が聞こえてくる。それよりは、屋外でノイズキャンセルヘッドフォンを使った方が超高音質の音楽を楽しめるのではないだろうか。

通勤電車で見回してみると、様々な、ヘッドフォン、イアフォンを見かける。インナーイヤー型、カナル型が多いが、ネックバンド型や耳かけ型、また、驚くほど大きないわゆるヘッドフォンなど、機能性、ファッション性だけではなく一種の自己主張さえ感じる。値段や構造を調べて見ると、高級品は高音用のツイーターと低音用のウーハーが組み込まれていて、数万円もするが、人気があるようだ。mp3などの高圧縮されたファイルを再生するのにこのような複雑で高性能のヘッドフォンが必要なのだろうかとも思うが、趣味、嗜好の観点からは、理論、技術だけではなく、使用者が求めるものをいかに提供し、満足感が達成出来るかどうかが重要であろう。

ネットワークにつながった携帯電話やスマートフォンは、超高音質オーディオを提供するデバイスとして最適であり、これまでのスタイルを超えたモバイル超高音質オーディオの可能性があるのではないだろうか。

マーケティング・ソリューション研究グループ 取締役 田中 和彦

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