2012年6月25日掲載

2012年5月号(通巻278号)

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巻頭”論”

電波政策と競争政策の方向性〜周波数逼迫への備え

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総務省は4月11日、電波の有効利用のための諸課題および具体的な方策について検討するため、総務副大臣主催の「電波有効利用の促進に関する検討会」の第1回会合を開催しました。この検討会は、土居範久・中央大学研究開発機構教授を座長とし全体で17名の有識者で構成され、(1)新たなワイヤレスシステムにふさわしい規律のあり方、(2)電波利用料の活用等によるワイヤレスシステムの高度化・普及の促進方策、(3)周波数再編強化のための方策、(4)その他の電波有効利用の促進に関する課題、を検討事項として今年の12月までを目途に開催されることになっています。

検討会の開催目的として、“ワイヤレスブロードバンドの進展等に伴い周波数が急速にひっ迫する中”、電波の有効利用のための課題や方策について検討するとあり、周波数逼迫がワイヤレスサービス全般に渉る緊急の問題となっているとの認識を示しています。ここ数年、特にスマートフォンの普及・拡大に伴って、モバイル通信事業者においては、世界各国でつながりにくい、通信速度が低下する、さらにはさまざまな通信障害事故が発生するなど、トラフィックの急増を受けた無線周波数の逼迫が問題となっていることを踏まえての検討会の開催は時宜を得たものであり、検討の方向性や結果を期待したいと思います。

その一方で電波政策としては、電波法の一部が改正され、かねてから各方面で議論されてきた電気通信業務用基地局の電波割当に関しオークション(入札)制度を取り入れることが決定されました。この両者を踏まえてみると、電波利用の緊急性と公平性・透明性が今後どうバランスよく調整されていくのかが気に懸かるところです。周波数の逼迫度が増せば当然、緊急性が高まりオークション制度の下では入札価格の高騰が予想されますが、反面、それだけにオークションの参加資格や参加条件などの制度設計において公平性・透明性の担保がより強く求められることになります。

既存携帯通信会社への周波数免許の幅(帯域)をどうするのか、新規参入事業者を対象とする周波数幅(帯域)を設けるのか、通信方式を定めた免許なのか、それとも方式は選択可能なのか、などオークションの実施という経済学的な評価以前の、携帯通信事業に対する電波行政および競争政策についてどのように取り組むのかなど、今後の通信事業に与える影響には大きいものがあります。もちろん、電波政策上、今回のオークション制度の規定は、「電気通信業務用基地局の免許を申請できる者」を入札等により決定することであり、電波の利活用すべてが対象になる訳ではありません。従って、通信事業者は無線設備を相互に共用するなどの方法で利活用する途は残されていますし、電波免許を受けた者とM&Aで対応する方法も考えられます。いずれにせよ、携帯通信事業者にとっては周波数の逼迫は確実に予測され発生することであるだけに、周波数免許の獲得は事業上の死活問題となることは議論の余地なしと言えます。

そうなると、電波政策上要請される、ワイヤレスシステムの規律、周波数の有効利用および再編強化など個別の事業者を越えた産業としての取り組みに加えて、事業者側から見ると、結局、どの周波数帯域が、どの技術方式で、どのような条件設定で、オークションにかけられるのかが関心の的になります。これはまた、産業政策を担う行政当局にとっては、いわゆる競争政策上の判断を伴わざるを得  ないものであります。量的に逼迫する電波資源はまた、国民の資産との考え方のもと、オークション方式による免許設定が法律で定められたことが、これまでの競争政策にも影響を与えることは当然でしょう。

電波免許時に採用されているこれまでの比較審査方式では、現実問題として(公的にどうか分かりませんが)既存携帯事業者の契約数実績、即ち周波数の利用実態や使用周波数帯域の構造など、事業者にとってはそれまでの過去の状況を踏まえた審査でもありました。直近の900MHz帯の免許時でも、また、現在進行中の700MHz帯の免許申請でもこの流れの中での比較審査と言えると思います。こうした状況下では、携帯通信事業者にとっては周波数の追加的確保の道筋が見え易かったのではないでしょうか。また、周波数帯域の組み合わせが複雑化して運営コストが上昇することも回避し易かったものと想定できます。

しかし、オークション方式による免許となると実態は変わらざるを得ないでしょう。その上、電波政策を通じた競争政策の有効性が高まると予測されるので、事業者の周波数獲得リスクは、逆に高まることになりそうです。今後、ますます発達するIT技術をベースに映像系サービスの普及・拡大やビッグデータ処理の増大、さらには各種の制御信号の拡充などトラフィック増加要因には事欠きません。携帯通信事業者にとって周波数の確保は、通信技術の開発とともにネットワーク拡充のための必須要件となっています。そこに、電波政策と競争政策という政策面のリスクが事業運営に加わることになる訳です。こうなると、事業者としては、単純に新規周波数をオークションで獲得する取り組みだけでなく、もちろん入札に失敗する事態があり得ることを想定して、複数の通信手段(方式)によるトラフィック疎通を研究し実施しておく必要があります。通信方式の3GからLTE、4Gへの移行に伴うオーバーレイ化に限定することなく、他の方式、例えばWi−Fi、WiMAX、XGP、さらには固定などあらゆるネットワークを組み合わせてオーバーレイ化し、総合的な通信サービスを提供するビジネスモデルを追求する流れが当然のように起こってきます。こうしたビジネスモデルは、一方で電波政策や競争政策上の変化に合致するだけでなく、他方、ユーザーサイドからみても、ユーザーがどのネットワークを利用するのかの選択を意識しなくても状況に適したネットワークを利用できるという仕組みが工夫されるので、使い勝手のよいネットワークサービスとなります。

世界各国の流れを勘案すると、競争政策上、既存携帯通信会社には、全体として周波数帯域のバランスをとり、かつ、帯域幅合計にも大きな差を設けないという流れになるものと想定され(注1)、その上で新規周波数をオークション方式で割り当てるという事業者にとってはリスクの高い事業環境が予見されます。携帯通信サービスにおいても、ひとつの通信方式や通信技術に片寄ることなく、技術およびサービス・ポートフォリオの考え方に立って事業運営を行う工夫、さらには周波数確保のためのM&Aや提携など従来とは違う発想での事業戦略が求められます(注2)。こうした環境のもとでは、これまで行われてきた支配的事業者に対する非対称規制や各種の約款上の制約などの再検討が必要になりますし、固定と携帯を事業上、サービス上、インカンバンド事業者には自由な兼営を認めていない現状の措置もまた新しい事態に直面しているのではないかと考えます。

(注1)周波数の不均等性は英国をはじめ欧州各国でも存在しており、このことが競争に本来的にマイナスという立場をとる国はないものの、部分的な返上の義務づけ、再配分、オークション等を通じて徐々に均等化が進められています(本誌2012年3月号「英国の4Gオークションの漂流」P91〜P95参照)。

(注2)例えば、米クリアワイヤの場合、同社が数多くの周波数を保有している強みから、さまざまな提携の可能性があり、立場が向上している(企業評価が高まっている)と言われています。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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