2012年6月25日掲載

2012年5月号(通巻278号)

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コラム〜ICT雑感〜

モバイル超高音質オーディオを体験し新しいビジネスの予感が

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本誌2011年11月号で「ネットワークオーディオが開くモバイル超高音質オーディオの可能性」と題し物理的な媒体によらないネットワーク経由の超高音質オーディオの可能性を取り上げた。

通常の音楽CDはサンプリング周波数44.1kHz、量子化ビット数16bitのPCM(Pulse Code Modulation)形式により約20〜20kHzの再生が可能で、ダウンロード販売やシリコンプレーヤで使用されるMP3形式やAAC形式では、人間の聴覚特性を利用した非可逆圧縮が行われているが、192kHz/24bitPCMや2.8224MHz、1bitでサンプリングするDSD(Direct Stream Digital)形式という超高音質のオーディオをネットワーク経由で楽しむ傾向が見られる。

このような傾向や可能性を考察していたが実体験が必要だとの思いに至り、室内用に192kHz/24bitのUSB−PCインタフェース、屋外用にDSDでの録再生も可能な機器、また、従来のスピーカ、ヘッドフォンに加え、より上位のモニターヘッドフォン、モニターイアフォンを用意した。

これらを使って、192kHz/24bitで録音・処理・収録された音楽と、それらを44.1kHz/16bit、MP3/128kbpsに変換したものを聞き比べて見た。

聴感上、一番大きな違いを感じたのは、再生デバイスのスピーカ、ヘッドフォン、イアフォンの違いであった。スピーカでの再生が一番自然で、イアフォンでは低音不足などを感じた。これらの違いは振動して音に変換している部分の大きさが、十数センチ〜数センチ〜十数ミリと全く違うので当たり前かもしれない。

ファイル形式による違いは、単純に言えば、メロディーや歌詞を聞いて楽しむだけならば、MP3形式でも十分だとも感じたが、192kHz/24bitでは楽器の質感や複数の楽器が同時に鳴っている時の重なり感、また、音の余韻、空気感が全く違うことに驚いた。

例えば、ドラムのシンバルをたたく音は、シンバルの材質、堅さやたたいているスティックの乾き具合が違っているように聞こえる。2本のサックスが重なり合う部分では、一つの塊に聞こえるのと2人の奏者が演奏しているのが分かる位の違いを感じる。

これらの比較は、室内だけでなく、屋外(電車の中)でも行ってみた。ヘッドフォンとイアフォンで、聞き比べて見たが、騒音は聞こえるものの、超高音質再生による、楽器の質感の違いや、余韻、空気感の違いを感じた。特にヘッドフォンを使うと電車の中でもかなりの臨場感を感じた。

考えて見ればPCMの原理では「サンプリング周波数の半分の周波数まで再生可能」とされているが、一番高い周波数の一周期、山と谷を、2回サンプリングして記録し、その2回のサンプル値から山と谷を再現しているので、かなり荒い方法だとも言える。サンプリングするタイミングが違えば、例えば、山の頂点と谷の底をサンプリングした場合と、麓の部分をサンプリングした場合では、全く同じ信号でもサンプル値が変わってしまう。

これに対して、192MHzでは48kHz(44.1kHz)の4倍の頻度でサンプリングするので、一周期に8回サンプル値を得ることになり、より忠実な記録と再現が可能になる。「192kHzサンプリングではその半分の100kHz近くまで再生可能」とも言われるがむしろ20kHzまでを忠実に記録・再生するためと考えた方が良さそうだ。

このように超高音質オーディオはより快適な音楽体験を可能とするが、現状ではまだ課題も多い。

最大の課題はファイルのサイズである。MP3形式などでは1曲、およそ数MBであるが、CD収録の44.1kHz/16bitで約10倍の数十MB、192kHz/24bitではサンプリング頻度で4倍、ビット数で1.5倍、計6倍なので、数百MBとなる。物理媒体としてはCDではなくDVDが必要となる。ネットワークに関しては、光回線では快適に扱えるが、モバイル回線では、スマートフォンやタブレットの急伸もあり禁止的と言えるかもしれない。

しかしコンテンツの付加価値という意味で新しいビジネスの可能性があるのではないか。現在販売されている超高音質コンテンツは通常のコンテンツよりも価格が高いし、サンプリング周波数が高い物はより高価格で販売されている。

アップルは、既にQuickTime(iTunes)で192kHz/24bit等のフォーマットに対応済みであり、また新しい高音質フォーマットの開発を進めているとの報道もある。

超高音質オーディオの最大の特徴は、体験しなければ分からないことではないかと思う。つまり、利用者の主観によるところが非常に大きいことだ。技術的、製品的に云々もあるが、その音を聞いてどう感じるか、どう思うか、である。仮にデバイスやコンテンツの値段が高くても聞きたいと思うかどうかである。

超高音質オーディオ体験に多くの利用者が満足し、好まれれば、音楽を楽しむスタイルの一つとして受け入れられるのではないかと、体験を通じて感じた。

マーケティング・ソリューション研究グループ 取締役 田中 和彦

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