2012年9月26日掲載

2012年8月号(通巻281号)

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コラム〜ICT雑感〜

スポーツの発展を支えるICT

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4年に1度のスポーツの祭典、夏季オリンピック大会がロンドンの地で開催された。連日、日本選手が世界各国の代表選手と繰り広げる真剣勝負をハラハラドキドキしながら深夜までテレビで観戦し、寝不足の日々が続いて大変だったという方が大勢いたのではないか。また、様々な競技を見て、その中で記憶に残っている方も多いと思うが、近年、スポーツの世界でも競技の実施・運営にICTが活用されているケースが増えており、今回、その事例についていくつか紹介したい。

情報戦に不可欠なICT

オリンピック、ワールドカップ、世界選手権などワールドクラスの競技大会では、実際に競技をする選手のほか、コーチ、トレーナー、栄養士など、多様なスタッフがチームを組んで戦いを繰り広げている。そうした中で、ICTを活用してサポートしている選手や対戦相手の情報を詳細かつ速やかに収集・分析し、タイムリーに戦術に反映する情報戦が勝利に向けた重要な要素の1つになっている。
バレーボールでは、ベンチにコンピューターを持ち込むことが許されており、ロンドンオリンピックでも、女子日本代表チームの監督がタブレット端末を持ちながら、選手に指示を出している姿がテレビに映し出されていた。これは、アナリストと呼ばれるスタッフが、試合中コートサイドでハンディカメラとパソコンを駆使して1プレー1プレーをリアルタイムでデータ投入し、ベンチから無線で選手の調子の良し悪しやスパイク・サーブのコースなどデータの提供を指示されると、即座にデータを集計・分析して監督の手元のタブレット端末に表示しているもので、監督はそのデータを確認してスパイク、サーブ、ブロックの狙い目など、具体的な指示を選手に与えている。アナリストは、サーブから、レシーブ、トス、スパイク、ブロックといった一連のプレーについて、それぞれのプレーヤーとその位置(コートを45分割して設定)、サーブやスパイクの種類、サーブレシーブを体のどの辺り(正面・左右など)で行ったかなど詳細なデータをコード化し、次のプレーが始まるまでの短時間でパソコンに投入しているという。また、以前は、集計・分析したデータをベンチに伝える際、出力したペーパーや無線で伝えたりしていたが、現在ではタブレット端末に表示され、見る側は自分が見やすいように指先で操作できるため、視認性が高まり情報をより的確に伝達できるようになったそうだ。

公正な審判を維持するICT

過去、オリンピックをはじめ多くの国際大会で、明らかに誤審と思われる判定によって、メダルを逃したり、メダルの色が変わってしまったという事態が、様々な競技において起こっている。これは、その大会での勝利を目標に努力を重ねてきた選手・関係者にとっては何ともやり切れなく、本来あってはならないことである。こうした多くの悲劇を教訓に、現在では「審判の目」を補助するものとして多くの競技でビデオ判定が導入されており、ロンドンオリンピックでも 柔道、体操、水泳、フェンシング、ボクシング、レスリングなどで微妙な判定がビデオで再確認される様子が見られた。

またテニスでは、コートの周囲に設置した複数台のカメラと解析用のパソコンおよびサーバーにより、ボールの軌道やコートへの接地地点を瞬時に解析してライン付近の判定を行なうというICTを活用した高度な判定システムが導入されており、ロンドンオリンピックでも利用されていた。テニスのサービスは最高速度が時速200kmを超えるが、ミサイルの追跡技術を応用しているこのシステムは、数秒でボールの接地地点を測定でき、しかもその測定誤差は平均わずか3.6mmという驚きの精度を有している。

このほか、ロンドンオリンピックではまだ導入されていなかったが、サッカーでも国際的な試合で幾度となく「幻のゴール」が繰り返されてきた歴史がある中、先の欧州選手権において、またも誤審により開催国が決勝トーナメント進出を逃すという事態が発生したため、国際サッカー連盟はICTを活用してゴール判定を補助するゴールライン・テクノロジーというシステムの導入を決定し、今年12月の国際大会から使用することにしている。現在、このテクノロジーには2つの方式があり、1つは上述のテニスで実績のあるライン際の判定技術を活用したシステムで、もう1つはセンサーを埋め込んだボールを使用し、ゴールライン周辺の磁場の変化を感知して審判の腕時計型の受信機にゴールイン情報を送信するというシステムであり、どちらも「ゴールイン後の結果表示が1秒以内」、「9割以上の確率で誤差の許容範囲±3cm以内」という優れた精度でゴールインを判定できるという。

観戦者の楽しみを広げるICT

ICTは、勝利に向けた戦術の策定・展開や公正な審判を実現するツールとして有効に機能しているほか、競技を観戦する側に対しても新たな楽しみを提供するようになってきている。テニスでは、ライン際の微妙な判定に対する再確認を1セットに3回まで要求できるようルール化したところ、観客が固唾を呑んで見守る中、ボールが落下する場面がCG加工されて場内の大型スクリーンに映し出され、その結果に観客が一喜一憂するという新たなエンターテイメントが創出された。また、サッカーでは、Jリーグのテレビ放映で一部実施され始めているが、「トラッキングシステム」という追尾技術を活用して、各選手の走った距離(総距離、ボールを持っていない状況で走った距離など)、トップスピードで走った時の速度、パスの本数やその成功率など、多様なデータをリアルタイムでテレビ画面に映し出したり、実画像とCGを合成してテレビに映っていない選手の動きも見えるようにするなど、テレビ観戦者に新たな試合の楽しみ方を提供するようになっている。このほか、ロンドンオリンピックの体操のテレビ放映で、選手の演技を振り返る際に3D映像を活用していたが、これもテレビ観戦における面白さを増やす取り組みの1つといえる。

更なる広がりが期待されるICT

現在、テニスでの成功やサッカーでの導入決定を踏まえ、ベンチャーを含む世界の様々な企業が、より高精度で低価格なビデオ判定技術や映像再現技術の開発に取り組んでおり、アメリカでの人気スポーツであるアメリカンフットボール、野球、バスケットボール、アイスホッケーへの導入を狙っているなど、スポーツにおいてICTの活用が一層拡大していくことが予想される。また、短期間での実現は難しいだろうが、ICTの活用を進めることによって、「選手はより高度な戦術や技術での戦  いが求められ競技レベルが向上する」、「公正な判定が実現されることで選手や観戦者の納得感が高まり競技のイメージアップにつながる」、「観戦者はレベルアップした選手のプレーや新たな試合の楽しみ方を享受できるようになり競技への関心・魅力が増す」、「競技が魅力的になれば観戦者が増えて選手のモチベーションや待遇の向上が図られ競技人口も増加する」、「観戦者や競技者が増加すれば様々な市場に経済効果をもたらす」といった良好な流れが生じる可能性にも期待し、今後どのようなICTの活用がなされていくのか、その動きに注目していきたい。

企画総務グループ/情報サービスビジネスグループ部長 山内 功

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