2012年10月31日掲載

2012年9月号(通巻282号)

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スマートフォンをクレジットリーダーに変えるサービス

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「おサイフケータイ」を始めとした携帯電話やスマートフォン、Suica、Pasmoに代表される交通系カード、クレジットカードなど店舗でのユーザーの支払手段は多様化している。但し、特に中小規模の店舗側からみると、手数料が高額、それぞれの支払手段に対応するリーダーが必要など導入にはハードルも存在する。今回紹介するSquareや「Paypal Here」を始めとしたスマートフォンをクレジットカードリーダーに変えるサービスはこのような状況を変え始めている。本稿ではサービスの概要と今後の可能性を概説する。

200万ユーザーを超えるSquare

現在、米国では様々な企業がスマートフォンをクレジットカードリーダーに変えるサービスを提供しているが、その先駆けとなった存在はSquareだ。Squareはユーザー(企業や個人事業主)がスマートフォンやタブレット端末に装着できる無料のカードリーダー(図1)とSquareのアプリをダウンロードするだけで、クレジットカード決済を可能にするサービス。サービスを提供するSquare社は2009年にTwitterの共同創業者の一人、Jack Dorcey氏が立ち上げたベンチャー企業。Squareを利用するためには、ユーザーは2つの契約形態のいずれかで契約する必要がある。1つは1回の決済ごとに2.75%のトランザクションフィーのみを費用として請求するという形。もう1つは、2012年7月に開始した275ドルの固定月額料金を支払うことで利用できる(年間25万ドル以下の販売業者)という形態だ。ユーザーはいずれの形態であっても、取引のあった翌日に自身の銀行口座で入金を確認できる。他のサービスの場合、2〜5日かかるのと比較すると一つのメリットである。またクレジットカードを店舗が利用するためには、これまで審査条件が厳しいという点と専用端末を導入する初期費用や加盟料や手数料(一般的には5%以上といわれている)といった月額費用など費用面での負担が大きい点がネックであった。Squareはこれらの課題を解決し、今までクレジットカードを利用できなかった個人事業主などは気軽にサービスを導入することが可能になった。

Squareは2012年6月時点で既に200万の端末が実際に利用されており、年間の取引金額は累計60億ドルに上るとのこと。米国におけるクレジットカード決済金額は1兆9,000億ドル(2009年)と全体の市場規模の約0.3%という非常に小さい規模であるが、この約半年で100万のユーザーを増やすなど利用者は急増しているなど今後拡大する余地は大きい。また2012年8月、米コーヒーチェーンのスターバックスとの提携も発表。米国約7,000の店舗で、Squareを利用したモバイル決済による商品購入ができる。それ以外にもスターバックスはSquareに2,500万ドルの出資をする他、スターバックスのCEOがSquareの社外取締役を兼任するなど、両社の関係は非常に密接なものになる。

【図1】 SquareのWebページ
【図1】 SquareのWebページ

急増する類似サービス、大手決済事業者PayPalも参入

Square以降、Intuit社が提供するGoPaymentやmPowa、VeriFoneなどベンチャー企業を中心にスマートフォンをクレジットカードリーダーとして利用するサービスの提供を開始している。スマートフォンに装着する端末の形態に差異はあるが、現状での大きな差別化ポイントは手数料額の違いだ。

また、2012年3月、大手決済サービス事業者のPayPalは「PayPal Here」を米国、カナダ、豪州、香港の4カ国で提供開始することを発表。今後、提供国を増やし世界各国で展開する予定である。「PayPal Here」の基本的なサービスの仕組みはSquareと同様である。決済手数料は2.7%の定額であるが、PayPalが発行するビジネスデビットカードを使用すれば、1%のキャッシュバックを受けられるため、実質的な決済手数料は1.7%で済むという手数料の安さもウリにしている。このように各社同様のサービスを提供しているが、差異化が非常に難しいため、今後は営業力を活用したユーザーへの訴求が一つの大きな勝負の分かれ目になってくるのではないかと考える。

増える通信事業者との提携

決済サービス提供事業者からみると営業力強化、通信事業者からみるとスマートフォン・タブレット端末の個人事業者や中小事業者への普及という目的が合致し、両者の提携という話が相次いでいる。ベライゾン・ワイヤレスは2011年8月、GoPaymentを提供するIntuit社との戦略的提携を発表。ベライゾン・ワイヤレスの2,300のストアと法人チャネル(個人事業者から中小企業)でGoPaymentの販売を行う。またSquareも2012年8月にAT&Tの約1,000の店舗でSquareの端末を販売することを発表した。

日本でも「PayPal Here」に関連して2012年5月ソフトバンクとPayPalが提携を発表。ペイパルとソフトバンク(または両社の関連会社)は、それぞれ10億円(12.5百万米ドル)ずつ出資し、合弁会社への出資合計額は20億円となるとのこと。PayPalの親会社であるeBayのCEO、ジョン・ドナホー氏は、「このパートナーシップとPayPal Hereの提供を通じて、日本の数百万規模の中小規模事業者のビジネスをより便利にし、消費者にいつでもどこでも利用可能な決済手段を提供する。私たちはショッピングと決済は簡単であるべきだと考えている。ソフトバンクと協力し、日本の決済と商取引に変革をもたらすことを楽しみにしている」と述べている。

O2O(Online to Offline)が次なるキーワード

今回紹介したSquareを始めとしたスマートフォンを利用したクレジットカードリーダーの他にも、スマートフォン、タブレット端末が普及したことにより、インターネットとの関係が非常に密になった。その結果、Webの世界とリアルの世界を繋ぐO2O(Online To Offline)サービスが俄かに注目を集めている。今回のSquareは今はまだクレジットカード取引額の1%以下という非常にミクロな金額であるが、全体の市場規模が大きいだけに収益を上げる価値は大きい。7.8兆円と普及している印象もある日本のEコマース市場も全体のコマース市場の2.5%に過ぎない。リアル経済の中に如何にスマートフォンを始めとしたICTが革新をもたらすのか、今後の動向に注目したい。

山本 惇一

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