2012年11月27日掲載

2012年10月号(通巻283号)

ホーム > InfoComモバイル通信T&S >
InfoComモバイル通信T&S

※この記事は、会員サービス「InfoComモバイル通信ニューズレター」より一部を無料で公開しているものです。

コラム〜ICT雑感〜

スマートパイプを目指す通信キャリア

このエントリーをはてなブックマークに追加

スマートフォン/タブレット端末が世界的に普及し、モバイルデータトラフィックが急増する中で、通信キャリアはトラフィック急増に対応するため設備増強を余儀なくされているが、設備投資に見合う収入がネットワークからは得られないという深刻な経営問題に直面している。2012年2月、バルセロナでモバイルワールドコングレス(MWC)が開催されたが、注目点の一つとして通信キャリアが「スマートパイプ」への取り組みを打ち出したことが挙げられる。

モバイルトラフィックの急増

米調査会社ガートナー社のデータによると、2011年の世界のスマートフォン販売台数は4.6億台に達しており、2015年には11億台を超え、携帯電話市場の半分近くを占める見込みである。

一方、タブレット端末も2012年には1億台、2014年には2億台を超える勢いで急増している。これらのスマートフォン/タブレットの急増により、米国シスコシステムズ社によると2011年の全世界のモバイルデータトラフィックは対前年比で2.3倍の0.6エクサバイト/月に増加しており、今後は2011 年から2016年の間に18倍に増加し、2016年には10.8エクサバイト/月に達する見込みである。

このようなモバイルトラフィックの急増に対し、各国の通信キャリは4Gネットワークの建設やWi-Fiなどへのトラフィックオフロード対策をとっているが、それに見合う収入が得られないという状況に陥っている。また、トラフィック急増への設備対応遅れによる障害が発生している。

ダムパイプ化する通信ネットワーク

さらに最近では無料通信系アプリの「LINE」や「カカオトーク」等の利用が急拡大してきており、通信キャリアにとっての重要な収入源である音声トラフィックが無料通信アプリに奪われ、「ダムパイプ化」に拍車をかける事態に直面している。「LINE」は韓国のインターネット企業NHNの日本法人がサービス開発したアプリケーションで通信キャリアが提供する「電話番号」と「メールアドレス」を使わずに、スマートフォンの電話帳を活用したマッチング機能を生かし通話・メールを無料で提供するサービスである。

「LINE」の登録ユーザー数は、2011年末以降、世界で毎月500万人増のペースで増えており、9月初めには世界で6,000万人、国内で2,800万人を突破した。フェイスブックがオープンなソーシャルネットワークであるのに対し、「LINE」の特徴は親しい友人などとの間のクローズドなソーシャルネットワークであることから学生など若者の間で急成長を遂げている。また、LINEは絵文字が進化したキャラクターのスタンプ販売という新たなビジネスモデルも確立し、8月単月で有料コンテンツの売上げが3億円を超える収益源を確保している。LINEの拡大は既に台湾、タイ、インドネシアなどアジア各国に波及しており、各国の通信キャリアとも提携を進めながらグローバル展開を図ろうとしている。

このサービスがさらに拡大すると通信キャリアの資産である「電話番号」と「メールアドレス」の価値が失われ、ネットワークの「ダムパイプ化」が加速する惧れがある。

スマートパイプへの動き

今年のMWCでは各国の通信キャリアが「ダムパイプ」から脱却し、「スマートパイプ」を目指す動きが見られた。各国通信キャリアは新たなエコシステムの構築を目指し、「スマートパイプ」「クラウド」「上位レイヤとの提携」「上位レイヤへの参入」などの具体的な取り組みを打ち出している。カンファレンスでは「他業種との提携をより進化させるべき、「Frenemy」(Friendとenemyの合成語)との付き合いが重要」ということを表明した欧州通信キャリアもいる。これに呼応するかのように、OTT(Over The Top)プレイヤーであるグーグルなど通信キャリアへの配慮と協力を表明したことが注目された。

スマートパイプ実現のカギになるのはネットワークAPIの公開と、アプリケーション開発者との協業によるアプリケーションの積極的な利用促進である。今後、アプリケーションサービスの提供は「クラウド」を基盤としたものにシフトしていくことが想定されるためOTTプレイヤーを中心にいかにユーザーを自社の配信プラットフォームへ誘導し、顧客データを収集するかの競争となって現れている。

プラットフォーム競争では、ID数の規模がアプリ/コンテンツを集め、プラットフォームの価値増大につながるため、通信キャリアも「ID」獲得に参入する動きを見せ始めている。「ID」獲得・「ID」利用競争の目的は、ユーザーの行動履歴の把握・蓄積による「ビッグデータ」を利用したターゲット広告、商品販売などに繋がるものである。

従って、「ダムパイプ」を脱し、「スマートパイプ」を目指す通信キャリアにとっては「電話番号」「メールアドレス」に加え「ID」獲得を目指す動きが加速するものと思われる。最近発表された国内通信キャリアによる「LINE」との提携は、「ダムパイプ化」から脱するため、ユーザー「ID」獲得を目指した動きと思われる。

グローバル研究グループ 常務取締役 真崎 秀介

このエントリーをはてなブックマークに追加
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。