2012年12月17日掲載

2012年11月号(通巻284号)

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InfoComモバイル通信T&S

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コラム〜ICT雑感〜

地殻変動の中に感じた心強い道しるべ

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マイクロソフトがWindows 8を搭載した同社初のオリジナルタブレット端末「Surface」を発売したのを皮切りに、アップルが7インチ小型タブレット端末「iPad mini」を発売、グーグルも7インチモデル「Nexus 7」に続いて10インチの「Nexus 10」を市場投入する等、タブレット端末の年末商戦は三つ巴の様相を呈している。

通信キャリアはというと、2012年9月に発売開始されたiPhone5を巡ってKDDIとソフトバンクの商戦が激化するさなか、ソフトバンクが米携帯電話3位のスプリント・ネクステルを買収すると発表し世間を騒がせた。対するKDDIは住友商事と共に、傘下のCATV1位のJCOMと2位のJCNを買収・統合することを発表。一方、NTTドコモはゲーム配信、通販に参入する等独自サービス路線を発表するとともに、マイクロソフトと法人ビジネスで連携し、規制で苦戦を強いられるNTT東日本は小規模マンションへのWi−Fi導入で月額2,000円以下の低価格サービスを開始した。

以上、2012年10月から11月にかけて起こった出来事を追ってみた。まさに地殻変動を実感せざるを得ない。そのすべての根底にあるのは、「いかにサービス、ネットワーク(NW)、端末を一つのサービスとして融合させ、顧客との接点を確保するか」という問いかけだ。キーワードはデジタル・サービス・コンバージェンスである。この新たな融合の世界における主導権を巡り、アップル、グーグル、アマゾンなどが台頭してきている。彼らが狙うサービスモデルは、サービス提供主体が、顧客にとって最も有利な通信キャリアをその都度選択し、専用端末にそのサービスを届けるというものだ。その際、NW利用料はサービス利用料に含まれる。従って、顧客にはどの通信キャリアを使っているのか、通信キャリアに支払う通信料がいくらなのか、何も見えない。このモデルでは、「ネットワークがサービスと専用端末にサンドイッチされてしまう」ことになる。NWの土管化とも言われる。これにより、通信キャリアは、顧客との接点を失うという本質的な問題に直面している。

当然ながら、通信キャリアもこの新たな融合サービスへの対応が求められる。そうした中で、今後はサービス、NW、端末を超えた事業者間での「競争」(例えば通信キャリアと対グーグル/アップルの構図)も起こり得る。しかし、いずれの事業者も単独でサービス、NW、端末を網羅的に用意することはできない。そこでは、各事業者が共に連携しあって新たな融合サービスを創る「共創」の概念も重要になってくる。事業者にとって、この「競争」と「共創」のバランスをいかにとるかが、極めて重要で重大な経営判断になる。競合他社がiPhone5効果で好調に純増数を伸ばす中、iPhone対応の行方で世間の注目を集めているNTTドコモの加藤社長は「サービス、ネットワーク、端末を一体でやっていきたい私どもとアップルの見方は少し違っている。(中略)金輪際iPhoneは取り扱わないということではない」の弁。これも、まさに「競争」と「共創」の狭間で、戦略を練っていることの現れなのだろう。

ところで、企業へのスマートフォン導入が加速している中、「企業内アプリケーションストア」に注目が集まっている。通常、企業は、社員向けのスマートフォンにアプリケーションを低コストに配布するために、パブリックなApp StoreやGoogle Playといったアプリケーションストアを利用している。しかし、そこでは、企業の資産管理やコンプライアンス等スマートフォンに対する管理責任が課題となっている。そこで、ウェブ、クラウドを介して自社専用のアプリケーションを配布・管理可能な個別企業専用のアプリケーション・マーケットを構築し、これらの課題を解決しようというのが企業内アプリケーションストアである。 

通信キャリアは、企業内アプリケーションストアに対し、クラウド設備やクラウドサービスメニュー、ネットワーク回線を包括的に提案できる強みがある。法人顧客側もワンストップでソリューション提供してもらえることを望んでおり、通信キャリアの総合力を生かせるビジネスチャンスだといえる。ここでの重要なポイントは、これにより、顧客との接点のあり方が変わるということだ。一般消費者向け市場では、グーグル、アップル、フェイスブック等にユーザーアカウントを取られ、NWの土管化への危機意識を持っている米国キャリアは、この企業内アプリケーションストアに積極的に関与し、法人顧客との接点を確保しようとしている。

競争と共創により、いかに顧客との接点をおさえるか、今まさに地殻変動が起きていることを実感する。すさまじい技術の進展の中、電信、電話のサービスのありようも、激変している。NTT(Nippon Telegraph & Telephone Corporation)、日本電信電話株式会社という名に対して、各々が様々なことを思い浮かべるだろう。私は、伝統、信頼、そして変革の必要性を感じる。そのような中、NTT鵜浦社長の社長就任時の言葉に思わずうなり、地殻変動の中に心強い道しるべを感じた。すでに周知と思うが、その言葉で締めくくらせて頂く。

Next value partner for Transformation by Total solution」

取締役 マーケティング・ソリューション研究グループリーダー 松田 淳

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